追われる教室(3)
ヤマク・レイハクは急転する状況に顔を青くする。市民を守るという矜持を持って職務に就いたダジェン軍は、いまやその市民を攻撃しているのだ。
「このままでいいんすか!」
思わず上官に抗議する。
「トウソンもダクワンも攻撃を始めましたよ? あれに乗っているのはタイキとその生徒なのに! 鉄督も確認したでしょう?」
「彼の主張が正しいのならばな。艦内に他に異星人がいないとも限らないが」
「信じないんですか?」
疑いの目を向けるナグヤ・ソーバ鉄督を愕然として見る。よい上官に恵まれたものだと先祖に感謝していたが考えを改めなくてはならないかもしれない。
「あの巨大な戦艦を素人が、しかも門外漢と子供で運用できると思うか?」
現実を突きつけられる。
「相手は宇宙を制覇しているような文明なんでしょう? 我々の常識では及びもつかない技術で運用されてるんすよ、きっと」
「そうなのだろうな。予想でしかないが」
「だったら!」
納得してもらえたかと思ったが。
「魚雷発射準備」
「鉄督!」
(なんだ、くそ! 陸に上がったら除隊願いを叩きつけてやる!)
ヤマクは怒りに震える。
「忘れるな。我々が受けた命令はあの緑色の異星人の戦艦を発見して浮上させることだ」
「そうです」
もう不貞腐れている。
「トウソン、ダクワンは命令に従って作戦を実行しているだけ。我らバンジン乗員がすべきもそれだけなのだ」
「ええ、そうでしょうとも」
「解ったな。では準備したまえ」
最後の奉公とばかりに操作を始める。
「採取した音響で誘導をセット。信管はロックしたままで撃ち出せ。どうせ迎撃してくれる」
「ソーバ鉄督……」
「ほら、ダクワンが追いかけられて泡を食ってるぞ。一応はフォローしてやれ」
「了解いたしました!」
ヤマクはナグヤの心意気に声が弾みそうになるのを堪えた。
◇ ◇ ◇
(それなりに損害を出しているのに退いてはくれないか)
背面で海中を航行するライバーンから見える照星はあまり減っていない。
数機の頭や腕をつぶして戦闘不能にしたが、ダメージだと感じてくれていないのかと不安になる。戦死者を出さなければ動かないというならタイキにできるのは全機を戦闘不能にすることだけ。
(現実的じゃない)
彼にも分かっている。
(どうすりゃいい? どうすれば緑の家を守れる?)
両腕を失ったフェルシムが海面に達して飛び去っていく。修理しないと復帰できないはずだからそのまま見過ごす。
(飛んでく? 飛べるのか! そうか!)
レティクルが四つ連なっている下に移動、上昇を開始する。相対位置に留意しながらぎりぎりまで見極める。一気に海面を割ると、差し出した腕でビームランチャーを発射する。
「そこだ!」
ビームは背中のヒレ状の推進機に直撃して破壊した。様子を見ていると、そのアームドスキンは素早い移動ができなくなる。ライバーンをもう一度飛び上がらせると足をつかんで引き込んだ。
「これで」
仕上げはこれまでどおり両腕を使用不能にするだけ。予想したようにフェルシムの端子突起でも遅いながら海中移動はできる。しかし、飛び去ることはできず、僚機に助け上げられていた。
(味方に連れ帰ってもらわないと駄目だろ? 自分の母艦に帰れよ)
一機をしとめるだけで三機減らせる。効率は上がった。
(手間はかかるな。どうにかならないか)
フォルセア機はライバーンが海面付近まで上昇すると反応している。なんらかのセンサーが働いて接近を検知しているのだろうか?
「リュセ、連中はどうやってライバーンを見つけてる?」
聞いたほうが早い。
「映像認識なのん。パイロットが見てなくても、カメラが輪郭だけでも捉えていたら警告を発するのん」
「それでか」
「戦闘中はターナ霧っていう電波攪乱物質を使うのん。この位置で放出するとダジェンの戦力が使い物にならなくなるから遠慮してるのん、きっと」
(なるほどな。先進技術ばりばりなのに、妙に接近戦に慣れてると思ったらそういう理由からか)
普段から有視界の戦闘をしているから白兵戦もやる。力場刃などという、剣のような古典的な兵装も装備されている。斬り合いもする。
ただし、タイキの使うような関節技や投げ技といった格闘戦は不慣れだから戸惑っているのだろう。今はそのリードを利用させてもらう。
(嫌でも見えるってんなら)
ライバーンに海面付近を航行させる。一番近い編隊が釣られて追ってきた。リフレクタをかざして襲い来るビームを弾きながら泳ぐ。
「こ、怖っ!」
思わず声がもれる。
瞬時に推力を切る。激しい水の抵抗でライバーンは急減速。そこから海上に飛び出して後ろを取る。一機の背後に襲いかかり、ブレードを振って推進機を根本から断ち切った。
そのままのし掛かって海面に叩きつける。高速で接触するとフェルシムは海面をまくれて動かなくなった。両腕を撃ち抜いて戦闘不能にする。
(これでまた三機減らせる。もしかしたら若干形の違う奴を狙えばもっと効率がいいか?)
隊長機らしき機体をターゲットにする作戦を思いつく。
「それにしても腹が立つ」
試合の時みたいに頭はできるだけ平静を保つが、腹の底は熱くなっている。
「ダジェン軍が独自に動くわけがない。フォルセアにそそのかされたにしても政府の指示があったからだ。文句の一つも言ってやりたいもんだ」
「つなげるのん?」
「できるのか?」
独り言にリュセルが応える。
「やってみるのん」
「マジで?」
時間をおいて通信パネルが開いたのにタイキは仰天した。
次回『追われる教室(4)』 (本気でつなげる気か?)




