6、木こりと剣士
ナナの言葉に俺は首を傾げた。
「グッドアイデア?」
「ええ、だって裕樹ってばその剣で木を伐採するつもりでしょ?」
俺はナナに頷く。
「ああ、だってこれしかないもんな。斧とか鉈とかがあればいいんだけどさ」
もう日も傾いてるし、そもそも他に道具を買おうにもお金がない。
俺は肩をすくめるとナナに言った。
「この剣を鉈代わりに、手ごろな木を切り倒そうかなと思ってたんだけど」
「裕樹なら出来ると思うけど。でも考えてみて、剣を使うなら剣士もマスターした方が早くない?」
それを聞いて、さっきのナナみたいに俺もポンと手を叩いた。
「なるほどな。そりゃそうか! 二つの職業の力を同時に使えるんだもんな」
職業に剣士を選んで、マスタージョブに木こりを選べばいい。
「でしょ!」
またまたえっへんと胸を張るナナ。
俺はそんなナナを眺めながら思わず笑うと、グッと力こぶを作ってみせる。
「よし! そうとなったら早速剣士になろう」
「ふふ、そうこなくっちゃ!」
もう準備万端のナナが俺の前にパネルを開ける。
俺はさっきみたいに矢印ボタンを押して、選択できる職業の中から剣士を探そうした。
「ん? なんだこれ、木こりだけ色が違うぞ」
ほかの職業とは違って木こりだけは金色の文字になっている。
ナナが俺と一緒にパネルを覗き込みながら答える。
「それはマスタージョブになったからよ。他の職業もマスターしたらそうなるわ」
「へえ、そうなんだ! こうしてあらためて見ると、ちょっと嬉しいよな」
俺は黄金に輝く文字を見つめて何だか楽しくなる。
ほんとにゲームみたいだ。
でも、これが現実で自分の力になるって思うとゲームよりもワクワクした。
そんな俺をナナが急かす。
「もう裕樹ったら。何してるの、剣士よ剣士!」
「はは、そうだったな!」
せっかく二人で思いついたアイデアだ、試してみたい。
ふと口に出た言葉だったけど、ナナがいなかったら気が付かなったもんな。
「よしやるぞ!」
「ええ、やってみましょう!」
ナナも楽しそうだ。
どうせ家を作るなら楽しくやりたいもんな。
俺はパネルに描かれた職業の中から剣士を選ぶ。
そしてそのボタンを押した。
すると、木こりを選んだ時みたいにまた淡く体が光に包まれていく。
「上手くいったかな?」
俺はステータスを確認した。
名前:佐倉木裕樹
種族:人間
レベル:レベル1
職業:剣士
マスタージョブ:木こり
力:8274
体力:8721
魔力:2512
速さ:5111
器用さ:6528
集中力:6752
幸運:5232
魔法:なし
物理スキル:剣技Fランク
特殊魔法:なし
特殊スキル:なし
生産スキル:伐採Sランク
ユニークスキル:【自分のレベルを一つ下げる(使用制限96回)】
マスタースキル:【鑑定眼】【伐採の極み】
称号:召喚されし勇者
ステータスを見て俺は思わず首を傾げる。
「ん? あれ……レベル1になってるのにステータスが下がってないぞ」
「そりゃそうよ。だって、マスタージョブに木こりが付いてるじゃない」
ナナの言葉に俺は納得する。
「そうか! マスタージョブの木こりのステータスになってるんだな。さて、今度は剣士を上げないとな」
「ふふ、上げるっていうより下げるんだけどね」
「はは、そうだな」
俺は笑いながら頷くと、レベルダウンを二回使った。
「レベルダウン!」
自分の体が輝いてステータスで剣士のレベルが0になってるのを確認した後、もう一度レベルダウンする。
「さて、もう一回レベルダウン!」
再び俺の体が光に包まれる。
その後、俺は自分のステータスを確認した。
名前:佐倉木裕樹
種族:人間
レベル:レベル9999
職業:剣士
マスタージョブ:木こり
力:8274
体力:8721
魔力:4712
速さ:8215
器用さ:7524
集中力:8527
幸運:5732
魔法:なし
物理スキル:剣技Sランク
特殊魔法:なし
特殊スキル:なし
生産スキル:伐採Sランク
ユニークスキル:【自分のレベルを一つ下げる(使用制限94回)】
マスタースキル:【鑑定眼】【伐採の極み】【一刀両断】
称号:召喚されし勇者
初めての戦闘職だ、なんだかドキドキする。
俺はパネルを見つめた。
「おお! 剣技がSランクになってる、凄いな……それにステータスもさっきより上がってないか?」
力と体力はさっきと変わってないけど、それ以外のステータスは上がってるよな。
ナナが俺に言う。
「剣士も木こりそれぞれ得意な項目があるからよ。木こりは力と体力が高いけど、剣士の方がそれ以外は高いもの。特に速さや器用さ、集中力とかはね」
「そっか! 確かに剣士には必要なステータスな気がするよな」
玲児とのバトルでも、速さや集中力の大事さは身に染みた。
あいつの攻撃を見極めてかわしたり反撃できたのも、そのお蔭だもんな。
「それから、後は剣士のマスタースキルの【一刀両断】か。なあナナ、これはどんなスキルなんだ? そういえば木こりの【伐採の極み】もまだ聞いてなかったし」
一刀両断は名前から何となく想像はつくけど、伐採の極みも気になるしナナに聞くのが一番だよな。
俺の質問にナナは一つづつ説明してくれた。
「ええ、まず【一刀両断】ね。これは剣士が集中力を高めて闘気をまとい、それを武器にまで通わせて対象を一刀両断するスキルね。簡単に言えば気を高めて、その力で肉体や武器を強化して一気に切り裂くって感じかしら」
「へえ! 何だか凄いな」
流石、剣士を極めた時に身につけられるマスタースキルだ。
自分が高めた気を体や武器に纏わせるとか漫画家かアニメみたいだよな。
格好良さそうだ。
ナナは【伐採の極み】についても教えてくれた。
「【伐採の極み】は角度や力の入れ具合を完璧に見極めることで、より太くて大きな木も伐採を可能にするスキルね。自分が切り倒せる木なのかどうかも、これを使えば見極めることが出来るわ」
「なるほど、自分が斬り倒せる木の限界も分かるんだな。それなら安心して作業が出来そうだ。何だか職人芸って感じだな。ありがとな、ナナ」
「ふふ~ん、何でも聞いて!」
また胸を張るその姿に俺は笑った。
ナナが色々教えてくれるお蔭で助かる。
「さあ、裕樹。早速やってみましょうよ、私たちのお家を作るんだから!」
「ああ、そうだなナナ。俺たちの家か、何だか楽しくなってきたな」
思わず気合が入る。
せっかくだ、覚えたばかりのマスタースキルを使ってみよう。
「まずは【伐採の極み】を使った方がいいよな」
「ええ、そうね。それは一度使えば、使用を停止しない限り継続されるタイプのスキルよ」
「了解! やってみるよ」
俺は【伐採の極み】を使ってみる。
「伐採の極み!」
すると俺の体が淡く光った。
スキルが発動したんだろう。
後は自分で停止するまでは機能が継続するって話だよな。
俺は辺りを見渡す。
そして、あんぐりと口を開けた。
「……嘘だろ?」
ナナが不思議そうに首を傾げる。
「どうしたのよ、裕樹」
俺はすぐ近くに立っている結構な大きさの木を見つめた。
「いや、こんなに大きな木も切り倒せるみたいなんだよな。確かに家を作るには良さそうだけどさ」
なにしろ持ってるのは剣だから、もっと細い木を使うことを考えてたんだけど。
ステータスが凄いことになってるだけに俺がよくても、あんまり無茶な使い方をしたら剣の方が折れちゃいそうだもんな。
かといって確かにあんまり細い木で家を作るなんてぴんと来ないよな。
辺りにもそんなに小さな木は生えてないし。
ナナは俺に言う。
「何言ってるのよ。木こりのマスタースキルを使って確かめたんでしょう? なら大丈夫だわ。自分を信じなさいって!」
そう言ってその木の方へ俺の背中をポンと押す。
ナナにそう言われるとその気になってくる。
「やってみるか」
「どうせなら【一刀両断】も使ってみたら? 身にまとった気の力で武器だって強化されるんだし」
確かに武器も強化されるならやってみる価値はあるか。
「分かった。やってみるよ」
正直ちょっとやってみたかったしさ。
気を体や武器にまとうなんて恰好良いもんな。
俺は剣を握ると目を閉じて集中していく。
剣士としてカンストしているからだろう、次第に自分の体に強い力が宿っていくのが分かる。
それを見てナナが叫んだ。
「凄いわ、裕樹!」
「ああ、自分でも分かる。今までにないぐらい力が漲ってるのが」
俺はゆっくりと目を開けると剣を握る自分の手を見つめた。
まるで、その手はオーラのようなものをまとっている。
多分、俺の全身がこうなっているんだろう。
まるで格闘アニメに出てくる主人公みたいだ。
「はぁああああ!」
気合と共にさらに集中していくと、手にした剣にまでそのオーラが伝わっていく。
ナナが教えてくれた通りだ。
【伐採の極み】のスキルからの警告も感じない。
このまま一刀両断を使っても大丈夫だと、木こりのマスタースキルが本能的に教えてくれる。
俺は剣を構える。
「いくぞ、ナナ!」
「ええ、裕樹!」
その瞬間、俺は自分の気が最大限に高まったのを感じて叫んだ。
「一刀両断!!」
まるで居合切りのように腰に構えた剣を一閃する。
気をまとった剣が、大木を横に薙いだ。
何の抵抗も感じない程鮮やかに。
木はゆっくりと倒れて、地響きがする。
「やった……」
自分でも信じられなくてちょっと呆然としてしまう。
まさか、一撃で切り倒せるとは思わなかった。
ナナが俺の周りを飛び回る。
「やったぁ! 裕樹、凄い凄い!!」
木こりと剣士の力を合わせた効果は、思った以上に絶大だった。
他の職業には、一体どんな力があるんだろう。
そう思うとなんだか胸が高鳴る。
「はは、やったな! ナナ」
俺はナナの小さな手とハイタッチして、二人で本格的に家づくりに取り掛かることにした。