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13、レイラの申し出

 それを聞いてレイラが声を上げる。


「ちょ! 倉庫を作るって貴方が? だってユウキ、貴方って戦闘職よね? それもきっとかなりの上級職のはず。そうじゃなければ、この私の牙をさけられるはずないもの」


「はは、上級職なんかじゃないさ。だだの剣士だよレイラ」


「嘘、そんなはずないわよ。そんな動きじゃなかった。それに、ククルの怪我を治したっていうし。騎士の上級職で、治療魔法も使える聖騎士、パラディンとかなら納得がいくけど」


 聖騎士パラディンか、そんな職もあるんだな。

 騎士の上級職なんて格好いいな。

 俺は首を横に振りながら答える。


「そんな格好いい職業じゃないさ。本当に只の剣士なんだ。とにかくさ、まずは倉庫を作ってからだ」


 そう答えながら俺は加工した木材をくみ上げて、簡易な倉庫を作っていく。

 簡易って言っても逃げ出されら意味がないからその作りは頑丈そのものだ。

 目の前で倉庫が出来上がっていくのが楽しいのか、ククルが大きな耳をピコピコしながらナナの腕の中ではしゃぐ。


「はわわ! 凄いのです、楽しそうなのです!」


「はは、そうだな結構楽しいぞ」


 家を作った時ほどではないけど、やっぱりこうやって自分で木材を組み上げていくのは楽しい。

 日曜大工にハマるひとが多いのもよく分かる。

 暫く作業をすると、外からかんぬきがかかる作りになった倉庫が出来上がる。

 あの家に比べたら単純な作りだけど、だからこそかえって頑丈だ。

 一晩こいつらを閉じ込めておくには十分すぎる作りだろう。


「さあ、そいつらをここに」


「わ、分かったわ」


 俺はレイラを促して、その中に悪党たちを入れて外からかんぬきをかけた。


「よし! これでもう大丈夫だ。明日になったらレイラの仲間が来るんだろう? それまでここに閉じ込めておけばいいんだしさ」


「え……ええ。そうね、こいつらが通ってきた森の中の道には仲間にしか分からない目印をつけてきたから、それを見たら印を追ってここにたどり着くでしょうし」


「そうか! なら良かった」


 俺はまだ少し唖然としているレイラに念のために尋ねる。


「なあ、レイラ。この辺りに強いモンスターとかいるのかな? こいつをぶっ壊せるぐらいのさ」


 単純な構造だけにかなり頑丈だとは思うけど、レイラが変化していたあの大きな狼ぐらいの魔物とかがいるなら、あり得るだろうし。

 あいつらもそうだけど、そんなのがいたらあの家だって安全とは言い切れない。

 俺の問いに彼女は首を横に振る。


「そんなのはいないわ。危険な生き物がいるとしたら、せいぜい普通の狼やドリルホーンて呼ばれてる大きな一本角を持った猪ぐらいかしら」


 どうやらこの倉庫を破壊できるような魔物はここにはいないようだ。

 腕利きの冒険者に違いないレイラが言うのだから間違いないだろう。


「へえ、ドリルホーンか。そんな猪がいるんだな」


 一本角っていうとユニコーンみたいな角だろうか?

 あの姿のレイラを見た後じゃ、狼はもう驚かないがそいつは見て見たい気もする。


「知らないの? かなりの大物だと普通の狼よりは遥かに危険よ。獰猛だし。でも、その角はかなりの値がつくわ」


「そうなんだ!」


 さすが冒険者だな。

 森のことだけじゃなくて、素材とかにも詳しそうだ。


「冒険者か、楽しそうだな」


 ちょっと憧れる。


「なによ貴方、冒険者に興味あるの?」


「ああ、ちょっと憧れるなって思って。どうせ何かをして稼ごうと思ってたし、それならやりたいことをやりたいしさ」


 魔王を倒すにしても、その前に生きていくことを考えたらまず仕事だよな。

 それに冒険者なら魔王についても色んな情報が手に入りそうだ。

 というよりは、正直に言うと単純にやってみたいだけなんだけどさ。


「ふぅん」


 レイラはじっと俺を見つめている。


「なんだよ? なんか俺変なこと言ったかな」


 彼女は首を横に振ると少し考えこんでから俺に言った。


「ねえユウキ。だったら貴方、私の相棒にならない?」


「え?」


 意外な申し出に俺が戸惑っていると、レイラは続ける。


「あなたほどの腕を持った剣士なんて珍しいし、森の中でこんなことが出来るなんて貴重だわ。冒険者なら森の中で夜を明かすなんてよくあることだもの。私は相棒なんて面倒なものは嫌いだけど、ユウキなら考えてあげてもいいわ」


 それを聞いてナナが頬を膨らます。


「ちょっと! 相棒とか、なに勝手なこと言ってるの?」


「あら、貴方には関係ないでしょ? ユウキと私の話だもの」


「裕樹と私って! 馬鹿じゃないの、まだ会ったばっかりなのに。それに私にも関係あるんだから!」


 俺はナナとレイラの二人に視線を向けられる。

 また口喧嘩でも始めそうな勢いの二人は、キッとした眼差しで俺を見つめている。


「この厚かましい女にはっきり言ってあげて、裕樹!」


「だから貴方が決めることじゃないでしょ? ねえユウキ!」


 赤毛で勝気な美貌の持主のナナと、大きな狼耳がある凛とした雰囲気のレイラ。

 アイドル顔負けの美少女二人に睨まれて、俺は思わず後ずさりしながらも答える。


「あ、あのさ、とにかく何をするにもナナは絶対一緒だ。俺の大事なパートナーだし」


 ナナも一心同体だって言ってたもんな。

 そもそもが切り離せない仲だし、ナナといると楽しい。

 それを聞いてレイラがジト目でこちらを眺める。


「へえ、そういうこと。貴方たち付き合ってるんだ」


 思わぬ言葉にナナと俺は顔を見合わせる。

 みるみる真っ赤になっていくナナの顔。


「はぁあああ!? あんた今なに聞いてたのよ。ゆ、裕樹は大事なパートナーだって言っただけでしょ! 付き合ってるわけないじゃない!」


「そ、そうだよ! 変なこと言うなって!」


 そもそもナナは【鑑定眼】のナビゲーターなんだからさ。

 レイラは肩をすくめてこちらを見る。


「何言ってるのよ。絶対一緒で大事なパートナーって普通そういうことでしょ?」


 そういわれるとそんな気もする。

 確かに言い方が悪かったかもな。

 ククルが不思議そうにナナに尋ねる。


「つきあってるって何ですか、ナナお姉ちゃん? お姉ちゃんお顔が真っ赤です」


「く、ククルはそんなこと知らなくてもいいの。ほんと馬鹿馬鹿しくて話にならないわ!」


 ナナはそう言うと、ククルを抱いてさっさと家の方に向かっていく。

 そしてテラスのところで振り返ると俺に言った。


「裕樹! さっさと家に入るわよ。もう夜なんだから」


「あ、ああ」


 俺はレイラに言う。


「とにかくそういうことじゃないから。とりあえず今日はもう寝ようぜ、色々あって疲れたしさ」


 レイラは肩をすくめる。


「何だか知らないけど、分かったわよそうしましょう。でも、相棒の件考えておいて。どうせ明日までまだ時間があるんだし」


「ああ、考えておくよ」


 そうだな、レイラの仲間が来るまでまだ時間がある。

 それまでゆっくりと考えよう。

 俺はそう答えて、レイラと一緒にナナたちの方へと向かった。

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