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10、狼剣士

 大きな狼の姿から、美しい獣人族の姿に変わったレイラを見てククルが声を上げる。


「ふぁ! おっきな狼がククルと同じになったです!」


 ククルと同じっていうのは獣人ということだろう。

 ナナにしっかりと抱きついて目を丸くしている。

 俺も思わず呆然として、ナナに問いかける。


「お、おい……ナナ、これってどうなってるんだ?」


「ど、どうなってるって、私に聞かれても分からないわよ」


「鑑定眼があるだろ?」


 俺の言葉にナナはようやく気を取り直す。

 突然大きな狼が飛び出してきてからの慌ただしい出来事に、ナナ自身もすっかり鑑定眼を使うことを忘れていたみたいだ。


「そ、そうね。私は騙されないわよ! 妙な術を使ったりして」


 ナナがレイラと名乗る少女を見つめると、俺の前にパネルが開いた。

 そして、そこには彼女のステータスが描き出されていく。


 名前:レイラ・ラフェルティア

 種族:獣人(銀狼族)

 レベル:2757

 職業:狼剣士

 力:2876

 体力:2732

 魔力:2575

 速さ:4245

 器用さ:2751

 集中力:4173

 幸運:2527


 魔法:なし

 物理スキル:剣技Sランク

 特殊魔法:なし

 特殊スキル:イリュージョンダンス

 ユニークスキル:【獣化銀狼】

 称号:古き血を受け継ぎし者


「これは……」


 俺は思わず息をのむ。

 普通に光一たちよりもレベルが高い。

 これから先、連中のレベルが上がったとしたら分からないけど、少なくとも現時点では彼女の方が強いだろう。

 実際にあの大きな狼の動きは、限界突破をして疾風迅雷を使った玲児よりも速かったからな。


 職業は狼剣士か。

 速さと集中力の高さが凄いな。

 ナナが俺に言う。


「普通の剣士よりも上級の職業だわ。狼系で、特別な力を持った獣人族にしかなれない職。さっきの姿は【獣化銀狼】を使ったみたいね。あの姿だとここからさらにステータスが上がるわ」


「ほんとかよ!」


 道理で強いはずだ。

 こんなユニークスキルを持ってる相手もいるんだな。

 少なくとも、この世界に来て戦った相手の中では彼女が一番強い。

 そもそもレベルだって一番高いもんな。

 彼女が言うように、冒険者だとしたらよっぽどの腕利きだろう。

 俺とナナがパネルを覗き込んでいると、レイラが怪訝そうな顔でこちらを眺めている。


「何してるのよ? 変なもの出して。やっぱり怪しいわね」


「はは、ちょっと君のステータスを見てただけだって」


「は?」


 俺の言葉にレイラはますます怪訝な顔になっていく。

 特殊スキルのイリュージョンダンスや称号の古き血を受け継ぎし者っていうのも気になるけど、今はやめておこう。

 これ以上不信感を持たせたらまずい。

 ナナに目配せをするとステータスパネルは消えた。

 まだ警戒してるのか少し離れた距離に立つ彼女に、俺は改めて自己紹介した。


「俺の名前は裕樹、そして彼女の名前はナナだ。さっきも言ったように、この国から山を越えて隣の国に行く旅の途中さ」


「それを証明できるの? そもそも正式な通行許可があれば、わざわざ山越えなんてしないでしょう? 人さらいの連中みたいにこそこそとね」


 それを聞いてナナが声を荒げる。


「だから! 私たちは人さらいなんかじゃないって言ってるでしょ、この分からずやの性悪女!」


「なんですって!」


 そう言って睨みあう二人。

 さっきの口喧嘩の再開だ。


「待てってば! 見ろよ、ククルが怖がってるだろ?」


 ナナに抱かれているククルは、口喧嘩をする二人を見て怯えたように涙ぐんでいる。

 それを見てナナは慌ててその頭を撫でた。


「ごめんねククル! 貴方に怒ったんじゃないのよ、もうやめるから」


「はう……ナナお姉ちゃん優しいです。ユウキお兄ちゃんククルの怪我を治してくれました。ククルは二人のこと好きなのです」


 ククルはそう言ってじっとレイラを見つめた。


「ちょ、そんな顔しないでよ。私は貴方を助けに来たのよ? 同じ獣人族の子供がさらわれたって聞いて、仕事を受けたの。奴隷商人を吐かせて、人を使って貴方をさらわせて、この国の貴族に売るつもりだって聞きだしたから追ってきたのに。どうして逃げたりしたの? 連中を全員逃がさないように叩きのめして縛り上げる間、動かないように言ったのに」


「はう、怖かったです。急に大きな黒い影が上から降りてきて、おっきな獣だったです。動くなってどこからか声がして、ククル食べられると思ったです」


 俺はため息をついた。


「どうやらようやく事情が分かったな。君は冒険者で、ククルを助けるための依頼を受けてここにやってきた。でも、森の中でいきなり悪党たちを襲う姿に怖くなってククルは逃げ出した。そして俺たちに出会ったってことだな」


「な、何よ……私だってこの子を心配して」


 ククル言葉と、彼女がしっかりとナナにしがみついているのを見て、レイラは唇を噛む。

 俺は肩をすくめると笑った。


「分かってるさそんなことは。二人とも悪くない。大体君が居なかったらククルは、きっとその貴族に売り飛ばされてたんだ。そうだろ?」


「そ、そうよ。そうなんだから」


 すっかりククルに怯えられてしまったことに少し寂しそうなレイラを見て、俺はククルに言った。


「なあ、ククル。もう怖くないだろ? 同じ獣人族だって分かったんだし、ほら助けてもらったお礼をまだ言ってないよな」


「はう!」


 ククルは暫くレイラを見つめた後、お礼を口にした。


「お姉ちゃん、ありがとうです。逃げてごめんなさいです」


 レイラはようやく俺たちに対する疑いを解いたのか、こちらに歩いてくるとナナが抱いているククルの頭を撫でた。


「いいのよ貴方が無事なら。私もあいつらを逃がさないように気を取られていたから。怖い思いさせてごめんね、ククル」


 そう言って笑顔になるレイラに、ククルは嬉しそうに頭を撫でられていた。

 その笑顔はとても優しげだ。


「へえ、そんな顔も出来るんだな」


「な! 何よ」


 そう言った後、軽く咳払いをしてこちらを見る。


「悪かったわ、貴方たちが言うように私が勘違いしてたみたいね。どう考えても貴方って悪党ってタイプじゃないもの。ユウキって言ったわね」


 そう言った後、今までのことがあって少し照れ臭いのかレイラは顔を赤くすると、俺に右手を差し出した。


「ああ、よろしくなレイラ」


 俺はそう答えると彼女の手を握った。

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