00. 桔梗の花
10月下旬、夏の暑さも忘れそろそろ冬の準備を考えはじめる季節。
東京都区内某所の花屋にとある男性がいた。 彼の名は『向山 雄太』、高校生である。
「すみません…花束を……桔梗の花束を作ってもらえませんか」
彼は手近にいた女性店員にそう依頼した。ポニーテールが良く似合う、目鼻立ちの整った彼と同年代であろう女性である。あと数年経てば美人といえる女性になるだろうか。
店内には他にも店員がいたが、彼が彼女にお願いした理由、それはただ単純に見た目は同世代だから話しかけやすそうだからだったからである。
ちなみに他の店員はお年を召した女性が多かった。
「かしこまりました~お見舞いでよろしいでしょうか?」
彼女は花束の目的を聞く。花屋の店員としては当然の質問を話しかけてきた少年に問う。季節は初秋を迎え、この季節を感じられるお見舞いの花として桔梗はまさにちょうど良いのである。
しかし、彼の表情は少し困ったような、どうしようかと複雑なそれを浮かべながら
「まぁ、そんなところです…」と回答するまでだった。
「ありがとうございました~」
明るい女性店員に見送られ、彼の手には彼女によって作られた、白や紫など色とりどりの桔梗の花から成される花束ができあがっていた。
そして彼は歩き出した。
その花を渡すべき人のところへ…