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冥府に咲く花  作者: rumi
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ライバルとは

一体どういうつもりなのかしら?

「今日はクレアスにお願いするからメークは下がっていいよ。」

などと言ったくせに、お茶を取りに行っている間に昼寝をしているなんて。まったく…と思うのにスヤスヤと気持ち良さそうな寝息をたてながら眠るサクラの寝顔を見ていると許せてしまう。まだあどけなさのある綺麗な顔に長い睫が影を落としている。

「っとに、得な子なんだから。」

13年前。ハデス様がサクラを連れてきた時は驚いたわ。それまで赤ん坊と触れ合ったことなんて1度もなかった。なのにハデス様ときたら、

「クレアス、サクラのお風呂や身支度等は女のクレアスに任せる。頼んだ。」

…って、自分で連れてきたんだから責任持ちなさいよ!ちょっとばっかし顔がいいからって!なんて言えるはずもなく、

「かしこまりました。」

…とは言っても赤ん坊の世話などしたこともなかったから死神達と毎日大変だった。

「ちょっとオムツはどうやって替えるの!?」

「沐浴って何!?」

「ミルクの作り方は!?」

「サクラが転んだわよ!」

もう本当に大変で…。だけどサクラが笑えば疲れさえも嘘になりそうだった。

そんなこんなで、気付けばサクラは5歳になった。

あの日、私はサクラの召し物を買いに地上へ出ていた。油断をしていたのかもしれない。穏やかな冥府で気が緩んでいたのかもしれない。私は人間に羽を見られてしまった。見られたのが酔っ払いだったからよかったものの、隠した時には遅かった。

「ヒィッなんて不気味な羽なんだ。恐ろしい、気味が悪い。」

…人間と違うことくらい分かっているわよ。

冥府に帰った私にサクラは笑いかけた。

「何を買ってきたのー?」

「これはお洋服。こっちはケーキ。」

「えぇ!ケーキ♪」

サクラの目がキラキラと輝いた。

「今用意してくるから待ってらっしゃい。」

「はぁい♪」

こんなに無邪気なサクラもあの酔っ払いのように私の羽を見たら怯えるのかしら…サクラは人間だもの。


「どうしたの?クレアス。」

サクラがケーキを頬張りながら聞いてきた。

「口に物をいれたまま喋るんじゃないの。」

「モグモグゴックン。クレアス、元気ないの?」

サクラが小さな手で私の頭を撫でてきた。私はなんだか泣きそうになって、サクラに羽を見せることにした。怯えさせてしまうかもしれない…泣かせてしまうかもしれない…。だけど知っていてほしいと思ったの。羽を広げた瞬間、サクラは目を見開いた。私はサクラの言葉を構えていたのに……

「わぁ!すごく綺麗!いいなぁ、サクラも羽が欲しいなぁ。」

「恐くないの?」

あの酔っ払いと同じように私を不気味って言わないの?

「何でクレアスが恐いの?光が透けてとっても綺麗。」

遥か昔に同じことを言った人がいた…。アシュレイ。私の愛する人。

「君の羽はとっても綺麗だね。太陽の光が透けてなんて美しいんだろう。僕には羽がないけれど、僕は君がどんな姿でも永遠に愛しているよ。」

アシュレイ。目の前にいるこの小さな少女はまるであなたのよう。

「クレアス、どうして笑ってるの?」

花のような笑顔を向けるサクラを大切にしようと私は決めたのよ。

「内緒よ、内緒。」


それにしても、サクラはハデス様にとても懐いている。どこに行くにも後をついてまわる姿は愛くるしいけど…

「サクラ、ハデス様は忙しいのよ。」

「えぇー、ハデスと遊びたい。」

「別に私は忙しくはない。」

ムッ。

「ですが、これからサクラは私とお風呂です。ご遠慮を。ハデス様は男性でしょう?」

「…。」

「クレアス?ハデス?」

「「…。」」

いつの間にか私はハデス様をライバル視するようになってしまった。ハデス様はご自身では分かっていないみたいだけど、サクラといると表情が豊かになる。長年ハデス様を見てきたけれど、こんなハデス様は初めてだった。

成長と共にサクラは可愛さの中に女の美しさも纏うようになってきた。ハデス様にもサクラにも未だに心境の変化が訪れたわけでは無さそうだけど、少しだけ変わり始めてる気がするのは気のせいかしら。

サクラはハデス様以外の男性を知らない。まぁ、メークも死神も男性だけど、そこはおいといて、一番近くにいるハデス様に心が惹かれるのは時間の問題。サクラが恋心を自覚するまでは応援なんてしてあげないの。ハデス様には悪いけど、その時が来るまではライバル視させてもらうわ。

まぁ相手がハデス様とは限らないけど。


「こら、サクラ。起きなさい!」

パッチリと目を開けるサクラ。

「お茶が冷めちゃったわ。それと、お庭はいいの?」

「つい、寝ちゃった!」

サクラはぬるくなったお茶を飲み干した。

「もっと品よく飲みなさいよ。」

これもサクラの愛嬌のうちの1つ。メークだったら口うるさく注意するだろうけど。

「だって、早く庭作りしなくちゃ!昨夜、ケルベロスの散歩したから眠くなっちゃったの。」

「ケルベロス?会ったの?」

「うん、とっても可愛くてお友達になったの♪今日の庭作りも一緒にする予定なの♪」

ハデス様が必死に隠していたケルベロスと?しかも友達になって庭作りを一緒に?………本当にもう……

「フフッ」

「何で笑うのー?」

ねぇ、ハデス様。サクラには心底敵わないんじゃありません?

「秘密。ほら行くわよ♪」

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