ライバルとは
「あなた達起きなさぁい!!」
メークの叫びともとれる声で起こされた。一体なんだと言うのだ。ふとぬくもりを両腕に感じた。そういえばサクラがいるのを忘れてた。私の腕にすっぽりと収まるサクラは抱き枕のようだ。子供だからサイズが丁度良いのか。
「ハデス様!手を離す!!サクラ様!離れなさい!!」
「…あれ?どうしてメークがいるの?」
「どうしてじゃありません!ここはハデス様のお部屋であって、あなたのお部屋は廊下のあちらです!まったく、サクラ様は立派な淑女なのですから…(ガミガミ)」
「ねっ?メークはやっぱり淑女って言ったね♪」
サクラがいたずらが成功したかのように嬉しそうに笑う。この笑顔を見るとつられて笑ってしまう。
「あぁ。そうだな。」
「何を2人して楽しそうに笑っているのです?さぁさぁ、ハデス様はお仕事ですよ!サクラ様は勉強をした後に庭の手入れをされるのでしょう?」
「忘れてた!ハデス、お仕事行ってらっしゃい!」
サクラはパタパタと私の部屋を出ていった。
「寝起きから騒がしいヤツだ。」
「大体ハデス様もハデス様ですよ?サクラ様にはとことん甘いんですから!」
「私が招いたのではない。」
「そうだとしてもです!」
「それからケルベロスと良き友になったらしい。」
「…!?」
「ケルベロスもサクラが気に入ったようだ。」
「新たなライバル出現ですね。」
「何がライバルだ。では行ってくる。サクラを頼む。」
私は部屋を出た。まったくメークは可笑しなことを言う。私はサクラをそんな目で見たことなど一度もないのだ。
「冥王様、私はどちらに行くのでしょうか?」
黒い影が私に問う。
「お前は罪を犯すこともなく、人に尽くし人に愛されてきた。よって天国行きである。」
「ありがとうございます。冥王様。」
「私ではない。優しき人間よ。」
黒い影は私の前から消えた。
「フゥー…」
今日もたくさんの死者がいるな。死者のリストを見て疲れが出てくる。よくもまぁ毎日毎日…。
ふと昨晩のサクラの様子を思い出した。寝付けないと悲しみを浮かべた顔をして私のもとにやってきたと思ったら、会わすまいと隠していたケルベロスと仲良くなり、嬉しそうに微笑んでいた。そして今朝メークにしかられ、いたずらに笑ったサクラを思い出しては笑いそうになる。
「何を笑っているのです?」
そこにはメークがいた。思わず口を抑えた。私は笑っていたのか?それをメークに見られたなんて、なんたる失態…。そんなことより、
「何故いる?メーク。」
当たり前のように茶を注ぐメークに言った。
「何故とは?」
「私はサクラを頼むと言ったはずだが?」
「えぇ。ですが、サクラ様がクレアスを望みましたので。庭作りも今日はクレアスとするみたいですよ?」
「そうか。メークに飽きたか。」
「違いますよ!サクラ様も年頃ですし女性同士が良いときもあるでしょう。」
少しムッとしたメークが言った。
「あぁ、そうだな。今日は死者の数が多いが、終わり次第サクラの様子を見に行こう。どんな庭になることやら…。」
「私は始めからそのつもりでしたよ。勉強はともかく、庭作りをクレアスに任せてはいられませんからね。」
メークとクレアスはサクラのことに関してはまるでライバルだ。ライバルか…
「新たなライバル出現ですね。」
メークの言っていたことを思い出す。なるほど。恋情ではなく、こういうことか。私がサクラに恋情などあるわけないのに何を間違って解釈したのか。
「早く仕事を終わらさねば、庭作りに間に合わなくなってしまうな。」
「えぇ、お願いします。ハデス様。」
私はメークの注いだ茶を飲み、鈴をならした。
「次の死者よ。参れ。」