ロエン
季節は冬。
しばらく様子を見ていたけれど、これでは身体がすっかり冷えきってしまう。
何度呼び掛けようとも反応しないサクラさんに、
ようやく僕の声が届いた。
良かった。
"帰ろう"と差し出した手にサクラさんの手の冷たさが伝わる。
(こんなに冷えて…。)
"もう泣かない"と彼が迎えに来るのを信じて気丈に振る舞う彼女の笑顔に、僕は思わず抱き締めた。
"すみません"
そう言って体を離した。
サクラさんは不思議な顔をしたけれど、僕の顔を見ると微笑んだ。
家に帰ると祖父が思っていた以上に待ちわびていた。
"よく来たね"
そう言った祖父はとても優しく笑った。
(これからは三人で暮らすのか。)
ずっと祖父と2人きりだった食事にサクラさんがいる。
気恥ずかしい感じがする。
サクラさんが笑うと途端に空気が明るくなった。
だけど…違う。
どんなにいつも通りに振る舞っていても、違うんだ…。
ずっとあの笑顔を見ていたから分かるんだ。
こんなこと、分かりたくなかったんだけどな。
ベッドに寝転がった。
サクラさんは寝れただろうか。
少しは心休まっただろうか。
彼は…どんな気持ちで離れたんだろう……。
眠れなくなった僕は部屋から出た。
温かいものでも口にすれば寝付けるだろう。
(キッチンから灯りが?)
そっと中を覗いてみれば、祖父とサクラさんが話をしていた。
(サクラさんも眠れなかったのか。無理もないよな…。)
祖父の声が耳にはいる。
それは祖父の娘であり、僕の母の話だった。
今まで詳しく聞いたこともなかった。
聞いたら祖父が悲しむかと思ったからだ。
でも、そうじゃなかった。
僕は母に愛され、祖父は娘を誇りに思い、僕を我が子のように大切に育ててくれた。
気付いたら涙が溢れていた。
それはあたたかい涙だった。
泣いたのはいつぶりだろう。
大の大人が泣くなんて…見られないように部屋に戻ろうとしたのに、祖父にはバレていて呼ばれた。
恥ずかしくて顔から火が出るかと思った。
そんな様子をサクラさんが声を出して笑った。
驚いた。
そこには僕の好きな笑顔を浮かべたサクラさんがいたから。
…そっか。
祖父の言いたかったことが分かった。
きっと祖父なりの慰め方だったのかもしれない。
母、ナリアは冥王様だ。
おそらくサクラさんは僕。
逆でも考えられる。
お互いがお互いを守ろうとしてるんだ。
"守るべきものがある者は強い"
その言葉は僕の心にも響いた。
ありがとう、おじいちゃん。
ありがとう、母さん。




