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冥府に咲く花  作者: rumi
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クレアスと地上

「おはよう♪ハデス」

私の部屋にはいるなり寝ている私に飛び付いてきたサクラ。

「…重い。」

「おはよー♪」

「…あぁ、おはよう。」

なんだってコイツはこんなにもニコニコしてるんだ?

バン!

勢いよく扉が開きメークが入ってきた。

「サクラ様!男性のベッドに乗るんじゃありません!」

ギャアギャアと言い合う2人。こっちは寝起きだと言うのに耳元で騒々しい。

「おはようございます。ハデス様。」

コウモリ、いやクレアスが部屋に入ってきた。サクラはベッドから降りるとクレアスの元へ駆けよった。

「サクラは何故あんなに上機嫌なんだ?」

メークに訊ねるとこれからクレアスと地上に行くらしい。

「地上へ?何をしに?」

「ハデスがお庭をくれたから花を買いに行くんだよ♪ね?クレアス♪」

「えぇ、ハデス様。サクラの事でしたらどうぞご心配なさらずに。」

笑みを浮かべクレアスが言った。

「聞いてないぞ。」

「言ったよー!昨日!」

そう言えば…

「明日はクレアスとお花を買いに地上に行ってもいい?」

「…。」

「ねぇ、行ってもいい?」

「…。」

「ねぇってば!」

「あぁ。」

「いいの?」

「いいよ。…?」

…昨日のアレか!睡眠不足の頭にサクラがしつこく寄ってきたから面倒くささに空返事したのだが、地上へ行く話だったとは。

「私が話し終わったあと、ハデスはすぐに寝ちゃったから覚えてないんだよー。」

頬を膨らませサクラが言う。

「あぁ!ハデス様は前の日の晩ケルベロスを散歩に…」

「ケルベロス?」

ケルベロスとは言わば冥府の番犬であるが、1つの体から3つの頭。その見た目はなかなか恐ろしい姿をしている。私はメークを軽く睨んだ。

「さ、さぁさぁ、サクラ様はクレアスと部屋を出ていってください。ハデス様はお仕事のご用意を。」

サクラにはケルベロスのことを話していない。もちろん会わせたこともない。会ってサクラが冥府を恐がってしまったら困るからだ。だかしかし、ケルベロスを散歩させないわけにはいかない。私はサクラが寝てから時々ケルベロスの散歩をしているのだ。

「じゃあ行ってくるね♪ハデスはお仕事頑張ってね。」

「…ちょっとこい、サクラ。」

サクラが私の傍による。

「どうしたの?」

サクラが私の顔を覗き込む。

「ハデス、怒ってるの?」

「怒ってなどいない。」

「お花買ったらすぐに帰ってくるよ?」

「当たり前だ。」

「クレアスがいるから大丈夫だよ?」

「分かっている。」

「…何かお土産ほしいの?」

コイツは人の心配をよそに……デコピン!!

「見知らぬ者にはくれぐれも気を付けるように。」

「うん、行ってきます♪」

パタン。閉まった扉を見てメークが言った。

「ハデス様。そんな顔をしなくてもクレアスが一緒なら安心ですよ。」

笑みを浮かべメークが言った。

「…まぁ、ハデス様のお気持ちは分かりますが、ハデス様は冥王としての務めを果たさないと。さぁ、身支度を整えてくださいませ。」

「あぁ。さっさと仕事を終わらせるぞ。」



「クレアス、今日は買い物に付き合ってくれてありがとう。」

花屋で相当悩んだ私は、たくさんの花の種を買った。色とりどりの花が咲く冥府を想像したらワクワクしてきた。冥府に花だなんて誰が思うかしら?ハデスも死神さんもみんなビックリしちゃうはず。

「何よ、嬉しそうな顔しちゃって。さぁ、帰るわよ?」

「あ、待ってクレアス!私の用事は済んだけど、クレアスは用事はないの?」

「…この前あなたのプレゼントを買いに来たときに済ませちゃったわ。」

「そうなの?どんな用事だったの?」

「愛する人に会いに来たのよ。」

しれっと言うクレアスにびっくりした。まさかクレアスにそんな人がいたなんて!そんなことを考えたこともなかった。

「彼に会わせてあげましょうか?」

「いいの?」

クレアスの彼は一体どんな人なんだろう。隣を歩くクレアスは誰が見たって美人だし、性格はきつめだけど本当は優しい。

「私てっきりクレアスはハデスを好きなのかと思ってた。」

「ハデス様!?間違ってもそれはないわ。大体もし私がハデス様を好きだって言ったらどうするのよ?」

「ダメ!ハデスは私のだもん!」

例え相手がクレアスでもハデスはダメ。何で強くそう思ったのかは分からないけど…。

「クスッ。安心なさい。私が愛するのは後にも先にも彼しかいないから…。ほら着いたわよ。」

クレアスが着いたと言った場所は広い野原で心地よい風が吹いていた。

「ここって…。」

至るところに石碑があり花が手向けられていた。

「お墓よ。」

クレアスはアシュレイと刻まれた石碑の前で優しく微笑んだ。

「アシュレイ。今日は友人を連れてきたのよ。若くて可愛いからと言って目移りしちゃダメよ。」

まるですぐそこに彼がいるかのように話しかけるクレアス。

「…いつ死んじゃったの?」

「そうね、もうずっと昔。どれくらい前だったかしらね。忘れちゃったわ。」

舌を出して笑うクレアスはいつものクレアスだ。

「寂しくないの?」

「寂しくないわ。寂しかった時はとっくに過ぎちゃったもの。私の心にはいつだってアシュレイがいるわ。愛した人が彼で私は幸せなの。それに今は…どっかの誰かさんのお世話が大変!」

「…それって私のこと…?」

「あなた以外に誰がいるのよ。」

そう言ったクレアスは何だか楽しそうだった。それから少しだけクレアスはアシュレイさんとお話をした。ほぼ私の悪口だった気もするけど…。

「さて帰りましょうか。アシュレイ、また来るわね。」

クレアスは石碑に口付けをした。

「クレアス!私もまた来てもいい?私もアシュレイさんに会いたい!」

「仕方ないわね、特別に許してあげる。さぁ行きましょ、ハデス様があなたを心配して待ってるわ。」


冥府に戻ってからなかなか寝付けなかった私は寝ているハデスにくっついた。

ギュー。

「…お前は私の睡眠を何度妨害すれば気が済むんだ?」

「…。」

「地上は楽しかったか?」

「(コクン)。」

「ならどうした?」

「…ハデスは私が歳を取っても変わらないハデスでいてくれる?」

ハデスは私の質問にため息をついた。

「何を言い出すかと思いきや…歳を取ろうがサクラはサクラであろう?私が変わるとでも?」

ハデスに抱きついた腕に自然と力が入った。

ギュー。

「私はサクラが人間で良かったと思っている。そうでなければ私はサクラを拾わなかったであろう。今をこうして過ごすこともできなかった。」

ハデスの声は心地よくて眠たくなってきた。

私、人間でよかった…

「…大好き…」

「知っている。だが眠るなら自分の部屋にーーー。」

ハデスの声はどんどん遠退いて私は眠りについた。

「まったく私は抱き枕か何かか?」

寝息をたてるサクラの頭を撫でる。クレアスの今は亡き恋人にでも会いに行ったか…。人間の寿命とは私たちと比べたら儚いものだ。だが儚い時間の中で過ごした記憶は永遠に消えることはない。共に歳を取ることはできないが、日々を共に過ごすことはできる。

「困ったな。目がすっかり覚めてしまった…」

私に抱きつき眠るサクラをそっと離し部屋を出た。ケルベロスの散歩にでも行くとしよう。

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