オリュンポス~愛する者
(オリュンポスにて)
メークがついてきてくれて良かった。
「兄さん大丈夫?」
「お兄様が元気そうで良かったわ。」
「クロノスに刺されるとは、ハデスもボケッとしてるんだな。」
「ハデス様、傷って痛むの?」
……
各々が話し始めると、途端に賑やかになりうんざりする。
そんな私の様子を見てメークが笑いを堪えている。
メークのお陰で苛立ちも紛れた。
「そんなことより、あの2人に何があったんだ?」
視線の先にはアフロディーテとヘパイストス。
アフロディーテがべったりとくっついて、ヘパイストスは顔を赤らめている。
「ふふ、アフロディーテが初めて恋におちたのよ。」
ヘラが可笑しそうに笑う。「なんでもヘパイストスが自分を守るためだったことに心打たれたみたいだよ。」
ゼウスも2人に目を向ける。
私の視線に気付いたのかヘパイストスが足早にやってきて頭を下げた。
「俺のせいで…勝手な行動をして、本当に申し訳なかった。」
「この人がしたこと、ごめんなさい。あなたに傷を負わせてしまって…。」
アフロディーテも頭を下げた。
「別に大したことはない。…私もヘパイストスと同じ行動をしただろう。」
「「!!」」
(何だ?)
その場にいた誰もが驚いた顔をした。
「そうだね、僕もヘラのためならヘパイストスと同じくしてたよ。愛する者を守るためならね。」
ゼウスが言う。
そうか。みんなが驚いた顔をしたのはソレか。
私に愛する者がいることに驚いたのか。
まぁ、無理もない。
この私だからな。
それから12神(+メーク)で話し合いをした。
後はクロノスが悪魔を率いて攻めてくる日を待つだけだ。
怯えるヘラに寄り添うゼウス。
私もサクラにそう寄り添えたら…。
そんな気持ちにゼウスが気付いたのか、
「サクラちゃんはどうするの?」
と聞いた。
「サクラは地上へ帰す。」
「…それは一時的に?それとも永遠に?」
「……永遠にだ。」
私はそう言って視線をずらした。
「ちょっと!お兄様ッッ!!」
ヘラが声を荒げたのをゼウスが止めた。
「ふーん。まぁ、兄さんが決めたのなら、いいんじゃない?」
ゼウスはそう言うと部屋を出ていった。
何故ゼウスが苛立つ?
出したくもない答えを出して苛立っているのは私の方だというのに…
これでいい。人間のサクラにとっても、これが最善なんだ。
そう自分に言い聞かすことにすっかり慣れてしまった…。
溜め息を吐く。
「ハデス様、気分は大丈夫ですか?」
メークは何でもお見通しだな。
「あぁ。大丈夫だ。私たちも帰るとしよう。」
私はメークと共にオリュンポスを後にした。
(ゼウスとヘラ)
「ちょっと待って、ゼウスったら!」
僕の後を追ってくるヘラの呼び掛けに足を止めた。
息を切らしたヘラが僕を睨む。
「どうして、お兄様に言わせてくれなかったのよ!?」
ヘラの言いたいことなど、手に取るように分かる。
僕だって言いたかったさ。
だけど…
「今の兄さんには何を言っても無理。クロノスがこれから攻めてくるからね。」
まぁ守りたいから離れるのは納得できる。僕だってそうする。でも、
「神と言うだけで…人間だから…と、そこに捕われすぎているよね。」
僕はそう呟いて笑った。
ヘラが手を伸ばし僕を抱き締めた。
「えぇ、本当に不器用で勝手ね。昔のあなたみたい。」
昔の僕?
脳裏に思い出される記憶。
あの頃の僕は、ヘラを想うがあまり離れることを選んだ。
僕といると悲しませてしまうのではないかと、そう思っていたんだ。
「本当だ。あの頃の僕みたいだね。」
ヘラと向き合う気持ちに臆病な僕の背中を押してくれたのは、兄さんだった。
「クロノスの件が終わったら、今度は僕が兄さんの背中を押そう。」
そう言うとヘラは微笑んだ。
「えぇ。
サクラさん無しでは、お兄様はもう無理ね。冥王ハデスではいられないもの。」
「どうしてそう思うの?」
ヘラは笑った。
「だって、あなたがそうじゃない。」
「!!
(クスクス)うん。そうだね。僕はもう君無しでは生きていけないよ。」
ヘラを抱き締める。
この世の全てが平和であるよう、最高神である僕が鎮めなければ。
愛する者を守るために。




