サクラのいない休日
サクラが学校に通い初めて1ヶ月が経とうとしていた。
学校生活にもすっかり慣れたようで、毎朝楽しそうに冥府を出て行く。帰ってくると、また嬉しそうにその日の出来事を話す。
ロエンはというと、一緒に昼食をとるほど仲良くなったらしい。
サクラ曰く、打ち解け始めたロエンは生徒に大人気だとか。
常にロエンと過ごしていることは、若干、面白くはないが、ロエンにサクラを頼むと言ったあの日から、ロエンなりにサクラを守ってくれているのだろう。
私自身が頼んだのだから、口を出せる立場ではない。
「ハデス様、サクラ様がいない休日にも大分慣れてきましたね。」
メークが茶を淹れながら言った。
そうだ。
今日は休日なのだ。
いつもなら賑やかな休日だが、サクラが学校に行っていると、冥府はとても静かだ。
「慣れるも何も、帰ってきたら騒がしいだけだ。」
「とか言いながら、ずっと時計ばかり気にされていますよ。」
気付けば時計を見ている自分がいる。まだ学校に行ったばかりだというのに…。
「これでは、サクラを地上へ帰す日が思いやられるな…。」
「…ハデス様、本当にそのようにお考えで?」
メークが茶を差し出しながら寂しそうに呟く。
「あぁ。サクラのことはロエンに頼んできた。」
「会って話されたのですか?」
「…あぁ。引き受けてくれたよ。
人間は人間界で暮らす、そう決まっているのだ。
それにクロノスの件もある。サクラを守るためには傍に置いておくわけにはいかない…。」
メークは何か言いたそうな顔をしたが、言葉を飲み込むかのように黙った。
静かな沈黙。
「…私は少しケルベロスの散歩にでも行ってこよう。」
自分の発した言葉に気持ちが沈みそうになるのを、何かで紛らわしたかった。
「えぇ、それでしたら私も一緒に宜しいですか?」
メークの申し出に驚いた。
メークとケルベロスの散歩などいつぶりか。
「ふっ、懐かしいな。」
遠い昔と今が重なる。
一人で散歩に行こうとする私に、メークはいつだってこう言うのだ。
「ハデス様が寂しそうだったので。」
と。




