伝えない想い
クレアスは私の話を黙って聞いていた。そして言った。
「あなたの気持ち分かるわ。だって、アシュレイを好きになった私も同じだったから。私は冥府のコウモリで、彼は人間だったからね。」
クレアスは目の前で羽ばたいて見せた。
「誰にも言えず苦しんだ日々が続いたわ。それでも、アシュレイを愛し過ごした日々は幸せだったの。そんな人間に恋した私を冥府の皆は笑わなかったわ。
ハデス様なんて、アシュレイと共に過ごせる時間をくれたのよ。
メークは戸惑う私の背中を押してくれたの。
ねぇ、サクラ。」
クレアスが私の顔を覗き込む。
「気持ちを伝えない、とか、隠す、とか、それはあなた自身が決めることだけど…あなたの気持ちをハデス様が嫌がるとでも?」
「だって、ハデスは私をそんな風に見てくれないもの。」
「ふふ、そうね。
(あの男こそ気持ちを隠すわね。だったら、なおさら…)
だからこそ、あなたがいっぱい伝えたら?
今までだってそうだったでしょ?
メークが口うるさく言うほど、サクラはハデス様にベッタリで。毎日のように「大好き」って。(クスクス)
それでいいんじゃないの?」
クレアスは続けて言う。
「ハデス様も私もメークも、冥府の皆も、サクラの笑った顔が好きなのよ。特にハデス様を想って笑うサクラが。こんなに可憐な花を誰が枯らしたいと思うかしら。
いいのよ。サクラはそのままで。ハデス様を好きでいいのよ。」
クレアスの言葉は、私の言われたい言葉だった。
「いいの?私は人間なのに…。」
「いいのよ。人間だからこそ出会えたのよ。」
「でも、ハデスは神様なの。」
「えぇ。ハデス様だからこそ、サクラは恋をしたのよ。」
頬を伝う涙をクレアスが拭ってくれた。そして、落ち着くまで頭を撫でてくれた。
「ありがとう。クレアス。」
「落ち着いたなら良かったわ。」
「あのね、私がハデスを好きってこと、皆には言っちゃダメだよ?」
するとクレアスは笑った。
「言うも何も、知らないのは本人だけってね♪」
「?」
「それから、サクラ。恋をすると女は美しくなるのよ。ハデス様に意識してほしいのなら、存分に恋しなさい。」
そう言ったクレアスはとても楽しそう。
昨晩の私がバカらしく思える。だって、そのままの私でいいって。
私は誰かに肯定されたかったのかもしれない。
クレアスの言葉が嬉しかった。
「帰ったら温かいココアでも淹れてあげるわ。こんなにいい天気なのに、もうすっかり冬ね。」
冥府にはない四季の移り変わりを肌で感じた。
「うん、本当だね。」
「で、あの様子は一体なんです?」
ベッタリとハデス様にくっつくサクラを見て、メークが声のトーンを低くして私に言った。
「あれがハデス様に対するサクラの精一杯の愛情表現なのよ。」
「ということは…気付いたんですね。」
「やっと、と言うかなんと言うか…。」
帰り際にサクラが言った。
"気付いた気持ちは、ハデスには内緒。だけどね、いつかハデスが私を見てくれたら言うの。"
そうね。それでいいと思うわ。だって、あなたは大人へと向かい始めたばかりだもの。
ハデス様に笑顔を向けるサクラ。
「ハデスが好き♪」
「あぁ、知っている。」
だからって、アレじゃねぇ…(クスクス)。伝わらない方に無理があるわ。
「見てよ、あのハデス様の嬉しそうな顔。」
「えぇ、本当に。鏡でも見せてあげたいものですよ。まぁ、気持ちに気付いたことは良しとしても……」
メークがニッコリと笑みを浮かべて二人に近づく。
「くっつきすぎですからね!」
ふふ、しばらくはこんな冥府でもいいかもしれないわね。
だって…サクラが笑い、隣にはハデス様。その二人に詰め寄るメーク。何とも滑稽で、穏やかなこんな日々を幸せだと思うんだもの。




