サクラを守りたい
「そうか、クロノスが…。」
ゼウスから話を聞いた私は、庭でクレアスと無邪気に笑うサクラを見ていた。
「タルタロスから出るのをヘパイストスが手助けしたのは間違いないだろうね。ただ何を企んでいるのかは分からない。僕に恨みは相当あるだろうけど…。」
「ゼウスだけではないだろう。」
クロノスをタルタロスに閉じ込めたのはゼウスだけではない。私やポセイドンもそうだ。その他の者もクロノスを閉じ込めることに賛成した。
「うん。そう考えると、いつサクラちゃんに手が回るか分からない。ハロウィンパーティーで気になる死神がいたからね。今日冥府に来てみたら、案の定その死神はいないんだから。」
「気が付かずに申し訳ありません。」
メークが頭を下げる。
「いや、誰もが皆、気が付かなかっただろう。穏やかな日々にすっかり油断した。」
サクラのあの笑顔は此処が冥府であることを忘れさせる。
「まぁ、サクラちゃんが冥府にいる限りそんなに心配しなくても大丈夫かな。兄さんが裁きに行っている間はメークやクレアス達がいるし。」
「いや、サクラは地上の学校に通わせることにした。」
「じゃあ学校に行っている間はサクラちゃん1人ってこと?」
サクラの望みは何だって叶えてあげたい。
「ハデスー!」
サクラが手を振りながら私の名を呼ぶ。
手を振り返せば、あまりにも笑顔なものだから私もつられて笑う。
「ねぇ、メーク。兄さんってあんなにも優しい顔をするんだね。」
「えぇ、サクラ様がいらしてからはハデス様は随分と変わられましたからね。(クスクス)」
「サクラちゃんが平穏な学校生活を送れるように、僕、いいこと思い付いた♪」
「えっ、クレアスも一緒に?」
ゼウスの思い付きとは、クレアスも一緒に地上へと行かせることだった。
まぁ、サクラ1人よりは安心できるが…。
「クレアスも学校に通うの?」
「ふふ、一緒に通いたいところだけど、私は学生にはなれないわ。」
「年を食い過ぎです。」
メークの一言にギャアギャアともめ出す2人。まぁ、確かにクレアスの容姿では学生は無理だろう。
「じゃあどうやって一緒にいるの?」
サクラの問いに私は頭を撫でた。
「心配無用。だってクレアスは…」
「コウモリだもの。」
クレアスはコウモリに化けパタパタと羽ばたいて見せた。
「1人じゃ少し心細かったから、クレアスが一緒で良かった。」
「それから、サクラ。」
サクラの首もとに手を伸ばす。触れたものは以前サクラに贈ったネックレスだ。
「このネックレスには加護が付いている。」
「加護?」
サクラが小首を傾げる。
「あぁ、お前を護ってくれる。私の分身のようなものだ。」
「ふふ、ハデスは心配性だね。」
サクラが可笑しそうに笑う。
「心配して何が悪い?」
「(クスクス)嬉しい♪」
そう言って抱きつくサクラ。
私の力を込めた加護が、サクラを護るだろう。それにクレアスもいる。
1人で行かせるよりはよっぽどマシだ。
確か明日に学校見学に行くと言っていたな。
取り敢えずまだ見ぬ世界に唯一、ロエンがいることが、サクラの不安をより和らげてくれるだろう……。
不本意だが任せるしかないな。




