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冥府に咲く花  作者: rumi
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サクラの誕生日

それにしても遅い。ただ地上に散歩に行くだけだと言うのに。

私は月も星も、太陽さえもないただ薄暗い冥府を窓から眺めていた。不便など感じたことはないが、この景色はとても神が支配している世界とは誰も思うまい。死者には悪魔と呼ばれる始末だ。

「ハデス、お待たせ。早く行こう♪」

私の腕にくっつき笑顔を向けるサクラ。悪魔と呼ばれようとも、この笑顔は私に悪魔でも良いとさえ思わせてくれる。

「早く行こうとはなんだ。まったく支度にどれだけー…」

じーっとサクラを見てみる。

「クレアスがやってくれたの。どう?馬子にも衣装でしょ?って言ってた。」

「フッ、生意気。」

サクラの頭を小突いて言った。羽織物を持ったメークが戻ってきた。

「ハデス様。お持ちしました。…それにしても、何と可愛い!これならハデス様の幼女趣味も納得でき…」

ゴン!

「誰が幼女趣味だ。」

「よーじょ趣味って?」

「何でもない。」

メークの持ってきた布を羽織りサクラを抱き抱え、頭をさすっているメークに言った。

「では、行ってくる。」

「はい。気をつけて行ってらっしゃいませ。それとサクラ様、今夜はご馳走ですからね。」

「ありがとう。メーク。行ってきます♪」

「えぇ。素敵な誕生日を。」

メークに見送られ地上へと出た。出た場所はサクラを拾った古井戸だ。

今宵の空は星の輝きに満ちていた。星がよく見えるように小高い丘に立つ木の上に腰を下ろす。

「わぁ。天の川!見えるね!織姫様と彦星様、無事に会えたかなー。」

目を輝かせながら話すサクラに思わず笑みがこぼれる。

「あぁ。会えたとも。」

「良かったぁ。」

サクラを拾った夜も星の輝くこんな夜だった。この場所で一人、星を眺めていたのだ。だがもう、一人で星を見ることはなくなった。

「サクラ、誕生日おめでとう。」

サクラの首にプレゼントをかける。可愛らしいネックレスだ。

「えっ?くれるの?」

「なんだその反応は?」

「だって…」

サクラに物を贈ったのは初めてだった。今までは夜空を見る地上の散歩だけだったが、サクラはもう13歳だとか、年頃だとか、うんざりする程散々言われたのだ。

「(メークを含めた)死神たちがうるさいからな。いらないなら返してもらう。」

「いるからダメ!」

そう言ってサクラは私に抱きついた。

「あのね、ハデス。私を拾ってくれてありがとう。」

サクラは誕生日が来る度、私にありがとうを言う。

「大好き、ハデス。」

「あぁ、知っている。」

時折香るサクラが纏う香水。背伸びをするのは構わないが…

「香水は私と一緒の時だけつけるように。」

「えー!何でー?折角クレアスがくれたのに。」

「なんでもだ。子供にはまだ早い。」

「また子供扱いしたー!!」

口を尖らせ文句を吐くサクラのおでこにキスを落とし抱き抱えた。

「そのネックレス、よく似合っている。」

「ッ!?」

「皆が待っている。帰るぞ。」

「あっ待って!」

「?」

どうやらサクラは花を摘んで帰りたいらしい。見下ろせば花畑が広がっていた。

「摘みたいのか?」

「うん。」

「摘んだらすぐに枯れてしまうぞ?」

「…うん。」

「綺麗に咲いた花をそれでも摘むのか?」

「…やっぱり可愛そうだからいらない。お家帰る。」

しょんぼりとした様子のサクラ。その様子が面白くて少し意地悪を言い過ぎたか。

「ならば、館の前に庭を作ろう。あの場所だったら唯一植物を育てることができる。」

「本当!?」

「あぁ。サクラの好きに使うといい。」

「嬉しい!ありがとう!ハデス!」

サクラに庭を与えようと思っていたがこんなにも喜んでくれるとは…。

「では、帰るとしよう。」


「ハデス様、サクラ様、お帰りなさいませ。」

冥府に戻るとメークや死神たちがご馳走を作って待っていた。

誕生日などない私たちにサクラが来るまでは思い描くことさえできなかった光景がここにある。


「サクラ様、お誕生日おめでとうございます。」

メークの一言を合図としてサクラの誕生日を皆が祝った。様々な声が飛びかう。

「おめでとう!サクラ!」

「大きくなったのぉ。」

「13歳とはどんなもんだったか思い出せん…。」

「あれ?そのネックレスは?」

「ハデスからのプレゼント!」

「「なんとッネックレスを

!」」

非常にやかましいが、こんな冥府は悪くない。

「あとね!ハデスにお庭をもらったの!」

「「…なんとッ庭まで!」」

悪くはないが、うるさい。

「メーク、後でサクラの庭作りを手伝ってやってほしい。」

「えぇ。喜んで。」

「ありがとうメーク。」

「お安いご用ですよ。」

「そうじゃなくて…メークも死神さんたちも私を育ててくれてありがとう。」

思わず笑みがこぼれる。

「サクラ様…。」

「どうしたものか。涙が溢れて止まらない。」

「サクラに泣かされるとは…。」

「ちょっとみんなぁ!!」

照れる者も涙ぐむ者もいる。皆がサクラを囲む光景はサクラが冥府に来た日と同じだ。

「懐かしいですね。サクラ様が来た日を思い出します。」

「あぁ、私も同じことを思っていた。」

「あの日のドッキリは忘れられませんよ。何て言ったって冥王が赤ちゃんを拾ってくるのですから。」

可笑しそうに思い出し笑いをするメーク。

「ですが、こんな日々が過ごせて私たち死神は幸せです。」

幸せ…

「まったくその通りだ。」

「2人して何のお話してるの?」

サクラが私に抱きつく。

「お前には敵わないって話だよ。」

「?」

この笑顔には誰も敵わないだろう。

「サクラ様はすぐにハデス様にくっつきすぎです。」

「誕生日だもん。ダメなの?」

「あなたの場合、常に!ですからね!ほら、ハデス様からも言ってください。」

…ギュッ

「コラー!!」

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