ハロウィンパーティーの後
天界にて~
「どうだったの?ハロウィンパーティーは。」
僕の顔を覗き込んだヘラ。
「ヘラから貰った薬のお陰で大成功だったよ♪兄さんの動揺する姿が見れたからね♪」
サクラちゃんの姿を思い出す。たくさんの女性を見てきた僕ですら言葉にならなかった。だって…少女だった子が面影を残したまま成長し、その姿があまりにも美しく変わったのだから、動揺する兄さんの気持ちはよくわかる。アレじゃね。
ハァー。
「何よ、今度はため息?」
「ため息が出るほどの美しさだったってこと。」
「あっそ。」
ヘラが呆れ顔を向けてきた。
「それって、私よりも?」
突然聞こえたヘラではない声。目に映りこんだのは、美と愛の女神…
「「アフロディテ!」」
「オリュンポスでちょこっと見ただけだったけど、人間には魔法が効くのね。」
アフロディテのこの美貌にどれだけの者が魅了されたことか。
僕はヘラのが断然好みだけどね。
「君には必要ないんじゃないの?」
取り敢えずそう言ってみた。
「必要ないのは分かってるわ。でも、あのハデスが惹かれたのでしょう?」
「兄さんだけじゃなく誰もが惹かれるよ。もちろん僕も。」
ヘラに冷めた目を向けられる。だけど何度思い出しても美しい。
「ゼウスが誰に惹かれようが、どうだっていいけど、あのハデスよ?私の魅力には何一つ関心を示さないあの男が。」
そう言えば、アフロディテって…
「ふふ、相手の子が気になるでしょ?あなたってお兄様が好きだったものね。」
そうだ。兄さんに何度も玉砕してたな。
「違うわよ。私に関心を示さないハデスが珍しかっただけよ。」
アフロディテはそっぽを向いて言った。
「アフロディテ、君は今も兄さんを?」
「そんなことあるわけないでしょ。私に関心がない男なんて興味がないわ。あんな無愛想な男はごめんだわ。」
そう言って笑うアフロディテは少しだけ切なそうに見えた。
「まぁ、そうだね。僕みたいな愛嬌が兄さんにはないからね。それよりアフロディテ、今日の本当の用事は何だったの?」
僕の言葉にアフロディテが表情を曇らせた。
「ヘパイストス(私の夫)が隠し事をしているみたいなの。」
「そりゃ男だもの、隠し事くらいあるわよ。ねぇ、ゼウス?」
思わずヘラの問いに苦笑いを浮かべてしまった。
「そんな可愛い隠し事じゃないわ。……クロノスと繋がっているかもしれない。」
「!?」
クロノス…それは僕の父であり、神々の産みの親であり、大地と農耕の神。聞えは良いが最低な父だった。その父は…僕が冥府の地下にあるタルタロスに閉じ込めたんだ。存在が消え薄れるその時が来るまで、出ることがないよう……。
「ハロウィンパーティーの時に不信感を抱いた死神が居たんだけど……ヘパイストスかクロノスが送り込んだのかもしれないね。」
あの時感じた嫌な予感はこれか。まさかクロノスとは…。何かを仕掛けてくるつもりか。警戒しないといけない。
「アフロディテ、夫であるヘパイストスの監視は辛いだろうが、君に頼むね。くれぐれもバレないように。」
「辛くなんてないわ。愛のない結婚をしただけで夫になった人の監視なんて。
ふふ、私って美と愛の女神なのに、愛の女神は失格ね。」
「ねぇ、ゼウス。サクラさんは大丈夫かしら…。」
「取り敢えず、ヘパイストスはアフロディテに任せるとして…クロノスには冥府に人間がいることがバレているだろうね。
サクラちゃんに危険が及ぶのも時間の問題かもしれない。…今すぐ何かある感じはないけれど、取り敢えず兄さんに話をしておかないと…。」
ずっとそばにいるとサクラちゃんに約束した兄さんはサクラちゃんをどう守るのかな。
ヘラが不安げに僕を見つめる。
「大丈夫。僕はこれでも最高神だよ。」
ヘラの不安がなくなるように、僕はそう言ってみせた。嫌な予感を隠して。




