ハロウィンパーティー
何やら嬉しそうなゼウス様。冥府に来るなり怪しげな小瓶を差し出してきた。
「ゼウス様、これは?」
「これはね、サクラちゃんが魅力的になっちゃう魔法の薬だよ♪」
…怪しすぎる…。
「いけません!例えゼウス様からだとしても受け取ってはいけませんよ!」
と、メーク。
「何が入っているか分かりゃしないわ!魔法ですって?怪しいにもほどがあるわ。」
と、クレアス。
「僕の妻、ヘラからの贈り物だよ?」
「「受け取りましょう。」」
2人が口を揃えた。
「ちょっと君たちヒドイよ…。」
落ち込むゼウス様に私は聞いた。
「その薬を飲むとどうなるの?」
するとゼウス様は唇に指を当てて言った。
「それは秘密。だけど、今日はハロウィンパーティー♪兄上もビックリする仮装になるよ♪
ねぇ、あの堅物ハデスを驚かせたいと思わない?」
ハデスが驚く?そんなことあるのかしら?もしあるなら…
「驚かせたい!」
「なら、クレアスと用意をしておいで?僕たちも用意をしなくちゃね。兄さんがそろそろ帰ってくるよ?」
私はクレアスと部屋をでた。ゼウス様の言う魔法の薬を持って…。
閉まった扉を見ながらメークが問う。
「ゼウス様、あの薬は一体…?」
「(クスクス)さぁ、楽しいハロウィンパーティーが始まるよ♪」
「なんて可愛いの!これ!」
私は思わず鏡に映る衣装に声をあげた。
「よく似合っているじゃない。」
死神さんが作ってくれたハロウィンパーティーの衣装。フリルの付いた黒いドレスにキラキラと輝くステッキ 。これは [魔女]だ。
冥府にいながら黒を召したことがない。いつも白とか可愛らしい感じのものが多いから、なんか…
「新鮮…。」
「ふふ、本当そうね。あなたが黒を召すのを初めて見たわ。黒はね、女をより美しく魅せるのよ?」
クレアスはそう言うと私の唇に紅をさした。
「これだけでも十分、ハデス様を驚かすことができそうだわ。」
鏡に映る私は途端に大人っぽくなった気がした。
「ねぇ、クレアス。この薬飲んだらどうなるのかな?」
「さぁ、どうなるのかしらね。まぁヘラ様からだし大丈夫でしょう。(私たちは別として)サクラが使える魔法があるなら見てみたいわ。」
魔法かぁ…今日はハロウィンパーティー。魔女の格好をした私が魔法でどう変わるのか。
私は意を決して小瓶に口を付けた。
それにしても何なんだ、この仮装は…。メークに任せていたももの、用意されていたのは[ウサギ]か。 仕事から帰ってくるなり着替えさせられ、お腹を抱えてゼウスが笑う。
「ハデス様に少しだけ可愛さをと思いまして。」
「可愛さなどいらぬ。」
モフモフとした着ぐるみに尻尾まで付いている。
「まぁまぁ兄さん。とっても似合っているからいいじゃない♪」
「嬉しくない。」
何故私がこんなものを…。
「ですが、ハデス様のそのお姿。サクラ様はさぞかし喜ぶでしょうね。」
……。
「サクラ様はウサギが好きですからね。」
「ハァー。今日だけだからな。」
それにしても、サクラはまだか?クレアスと用意をしているらしいが…女ってのは時間がかかるものだな。子供のサクラに何をそんな時間をかけるのか。
ガチャ。
「「失礼します。」」
ワラワラと死神たちが料理やスイーツを持って部屋に入ってくる。
そうだった。確かゼウスが死神たちも一緒にと言っていた。横目でゼウスを見てみれば、
「忘れてた…。」
やっぱりな。それにしてもこの雰囲気は懐かしく思える。
「こうして死神たちと集まるのは、サクラ様が来た時以来ですね。」
メークも懐かしそうに呟く。
「あぁ。つい昨日のことのようだ。あの日もこんな感じだったな。」
「はい。懐かしいですね。」
皆でサクラを抱き、あやしたものだ。その度に笑うから皆もつられて笑った。なんとも冥府らしかぬ穏やかな日々を過ごしてきた。
「ハデス様がサクラを拾ってきたときはどうなることやらと……。」
仮装ともとれる姿をしている死神たちが、何やら思出話に花を咲かせ始めた。何故かゼウスも一緒に。最高神が死神と盛り上がっているなど誰が思うか。
「(クスクス)何とも可笑しな光景だな。」
「えぇ、本当に。それにしても、クレアスとサクラ様は支度に随分と時間がかかっておりますね。(あの薬で何かあったのでは…?)」
何故かメークがゼウスを見る。
「僕が迎えに行ってくるよ。(飲むべきものじゃなかったのかもしれない…。)」
「いい。私が行ってこよう。」
この格好なのが癪にさわるが、仕方ない。私は重い腰を上げた。
「待って!兄さん!」
「ハデス様はこちらでお待ちを!」
ゼウスとメークが私の前に立ちふさがる。
「??
何をそんなに慌てている? 」
「サクラちゃんの仮装で兄さんを驚かせるんだからここに居てよ。」
驚くだと?私が?
「サクラの仮装などに驚くわけないーーー…。」
その時、カチャっと扉が音を立てた。




