ゼウス様
「ハデスがあんなにモテるなんて知らなかった。」
「何言ってるのよ。あんな美形そうはいないわよ。」
「そうなの?」
「まったく、近くにいすぎて見えてないんだから。」
「でも、メークだって美形だよ?」
「サクラ様に言われると特別に嬉しいですね。」
メークの微笑みをクレアスが阻止するように言った。
「メークとハデス様は全くの別物よ!」
メークの顔がたちまちひきつる。あーあ、また始まった。いい加減見慣れた2人のやり取りを見ていた。
それにしてもここはなんて華やかな場所なんだろう…それに綺麗な女の人ばかり…お茶会が終わったら話したりするのかな…ヤダ…
ん?ヤダって何だろう。この気持ちはーーー?
「今日も不安げな顔してる、この前と同じだね。」
不意にかけられた言葉に驚いて見ると、そこにいたのは、
「え?あの時の猫さん?」
そう、この前私の部屋にきた黒猫が私の顔を見上げていた。
「それにしても、あの2人はいつもあぁやって痴話喧嘩をしているの?」
言い合いをし続けているメークとクレアスを見て、呆れぎみに言った。
「うん。それより猫さん、ここにいるってことは、やっぱりあなた神様とかそっちの類いなんだよね?」
すると、猫はあの日と同じように言った。
「さぁ、どうだろうね。知りたいなら僕についておいでよ。」
猫は行ってしまった。チラッとメークとクレアスを見る。少しだけ離れたって大丈夫だよね?ハデス、怒るかな?でも…
「私のそばから離れるなって言ったくせに…。」
私は猫の後を追った。
「あれ?困ったなぁ。猫さんどこ行っちゃったんだろう?」
ここがオリュンポス宮殿なのかな?猫が入った扉に私も入った、まではいいんだけど、どうやら見失ってしまったらしい。知らない場所に一人ぼっち…不安にならないわけがない。
気付けば涙が頬を伝う。
「どうして泣いているの?」
そう言って私の頬に触れたのは、優しく微笑むハデスによく似た男の人。多分この人が…
「ゼウス様?」
その人は一瞬驚いた顔をして、
「いかにも。」
と、少しだけ切なく笑った。
あれ?この表情…それに、瞳の色もこの声も…私が探していた、
「ゼウス様は猫さん、でしょう?」
「それも、正解。よく分かったね。」
「ゼウス様の表情が、あの日の猫さんと同じだったから。」
ゼウス様が首をかしげる。
「寂しそうな顔してた…。」
「ハハッ、寂しそうな顔?
僕はもう一度サクラちゃんに会えて嬉しいけどな。」
「でも、ゼウス様が会いたいのはハデスでしょう?」
すると、ゼウス様は言った。
「どんな顔をして兄さんに会ったら良いか分からないんだ。もしも拒絶されてしまったら…。」
「拒絶なんてしないよ!ハデス、冥王で良かったって言ってたよ。」
「本当に?」
「本当だよ。」
「もし本当なら、あの日の僕を許してくれるかな。」
「ハデスはきっと許すも許さないもないって言うよ。だからね?もう自分を責めなくていいんだよ、ゼウス様。」
私は目一杯背伸びをしてゼウス様の頭を撫でた。ハデスがいつも私にしてくれるやつだ。私はハデスに頭を撫でられるのが大好きなの。
「まいったな…。」
ゼウス様は少しだけ照れたように笑った。




