ハデスと神様
ここはオリュンポス宮殿。
四季折々の花が庭一面に咲き誇り、空の色は薄い水色。雲1つ無く、夜も来ない。天空にある楽園のようなもの。ここでは度々神々が集まり、お茶会と称しては近況報告をし合い精霊たちを交え、お喋りに花を咲かせる。私はそんな場所が苦手だ。
「ハデス?」
サクラが繋いだ手を軽く握った。
「大丈夫?」
そう言い私を見上げる。
私が不安にさせてどうする。サクラの名前が書かれた茶会への手紙。メークとクレアスもいる。
「あぁ、大丈夫だ。」
手を握り返すと、サクラは微笑んだ。まるで花のようだ。私が守らねば。
「キャア♪ハデス様よ♪」
「いつぶりかしら?」
「いつ見ても何て素敵なの。」
精霊たちの耳障りな声が聞こえる。
「ハデスって大人気なんだね。」
「私はあぁいうのが苦手だ。」
思わずため息が出る。
「あの女の子は誰?ハデス様の何かしら?」
「人間だって聞いたわよ。」
ヒソヒソと話す声が聞こえる。サクラにも聞こえているのだろうか。若干顔がこわばっている。
「サクラ、笑顔よ、笑顔!」
クレアスが言う。
「えぇ、サクラ様の笑顔に敵うものはありませんよ。」
続けてメークが言う。
「あぁ、そうだ。サクラの笑顔は花のようなのだから。」
サクラがヒソヒソ話す精霊たちに向かって微笑んだ。
「こんにちは♪」
たちまち花が咲いたかのように空気が明るくなった。
「まぁ!」
「なんて可愛いのかしらね!」
「それにお連れの方も美男美女ね。」
そんな声が聞こえメークとクレアスが顔を見合わせている。その様子に私とサクラは笑った。
そんな時、
「ハデスが笑っているところなど初めて見た。久しいな。」
大柄な男が話しかけてきた。この男は…
「ポセイドンか、変わらずで何より。」
私の兄弟でもある。
「人間の娘がいると聞いたが…」
ポセイドンがサクラに目をやる。私はサクラを守るように私に寄せた。
「これは驚いたな。名前は何と言う?」
私が答えるよりも先にサクラが答えた。
「サクラです。初めまして。」
「サクラか、良い名だな。」
微笑むサクラにポセイドンも微笑んだ。
「そう言えばゼウスが見当たらないが、どこに居る?」
「ゼウスならその辺を散歩でもしているのだろう。久しぶりの茶会だからな。」
「そうか。」
「そんなことより久しぶりの再会を話しながら祝おうじゃないか。」
こういうのも苦手なのだが近況報告をしないわけにもいかない。それがお茶会の本来の目的なのだ。
サクラをそばに置いておきたいが、そうもいかない。
「メーク、クレアス。私は少し茶会に出るから、サクラを頼んだ。」
「「かしこまりました」」
私は握っていた手を離しサクラの頬に手を当てた。
「メークとクレアスと行動を共にするように。知らない者には付いていかないこと。分かったか?」
サクラが頷く。
「すぐ戻る。」
私はサクラをメークとクレアスに任せ、ポセイドンと共に茶会へ向かった。
「よほど大事にしているんだな。」
ポセイドンにそう言われ何のことを言われているのか分からなかったが、すぐにサクラの事だと気付いた。
「長年、兄弟として見てきたが初めて見せる顔ばかりだ。」
そう言って言葉を続けた。
「だが、あの子は人間。あれだけの美少女なら気持ちも分からないでもないが、ずっと冥府におくつもりか?」
ポセイドンに言われた言葉。分かっている。
「そんなつもりはない。ただの気まぐれで拾っただけだ。」
サクラを拾った日の光景が脳裏をよぎる。
「それにしては、あの娘に恋情を抱き、自分のものだと言っているように見えたぞ。」
確かに私のものだ。私が拾ったのだからそうであろう?恋情…端から見ればそう見えるのか。
「サクラはまだ子供だ。」
「そうか?充分、女に感じたが…?」
「私はお前のそういうところが苦手だ。」
どうしてこうも神というのは女にだらしがないのか。
「ハハハ、悪い。だが後3年もしたらあの娘はいい女になるだろう。」
サクラがいい女など想像も付かないが…。
ポセイドンはオリュンポス宮殿の扉を開けた。




