メークの気持ち
「ねぇ、あの光景を見てどう思う?」
クレアスが廊下の窓から外を指差して言う。
外の庭には水やりをする美青年と美少女と犬…いや、ハデス様とサクラ様とケルベロスの姿が。
「どうって?見ていると癒されますね。」
サクラ様の楽しそうな笑い声が聞こえる。
「癒されますね、じゃないわよ。ハデス様ってサクラのことをどう想っているのかしら?」
ハデス様の笑っている姿が目に入る。2人は恋人でもなければ、父娘でもないし兄妹でもない。冥府を支配する神と人間の少女だ。
「サクラ様の愛らしさを、愛おしく想ってらっしゃるのでは?」
「それを本人は気付いているのかしら?」
「恐らく気付いてはいないでしょうね。」
ハデス様はサクラ様をそんな目では見ていないだろう。
「サクラの前だとあんな顔もするのね。」
「無自覚とは恐ろしいものです。」
「無自覚ねぇ。きっとサクラもそれだわ。」
クレアスがため息まじりに笑った。
「サクラ様も?それは自覚した時が楽しみですね。」
私とクレアスは笑った。そういえば、とクレアスが言った。
「こんな時間も久しぶりね。」
「そうですね。」
クレアスと立ち話なんていつぶりだろう。
「ハデス様はサクラと遊んでいるし、久しぶりにあなたの淹れた紅茶が飲みたいわ。」
「仕方ありませんね。特別に淹れてあげましょう。」
「本当、生意気ね。」
そう言って笑うクレアス。クレアスに恋心を抱いたことはない。クレアスには愛する恋人がいたから。だけど、心惹かれたことは何度もある。美しくて気が強くて優しい。でも恋心ではない。クレアスは私の親友なのだ。そんな事を言ったら恐らくクレアスの事だから、「不気味」だとか「気持ち悪い」だとか言いそうだから言わないけど。
「私たちってサクラの事に関しては親友ね♪」
前を歩くクレアスが突然振り返って言った。思ったことと同じことを言われて驚いた。
「何よ、メーク。変な顔しちゃって。」
本当にもう…長い歳月を共にすると心まで読まれてしまいそうだ。
「何でもありませんよ。」
紅茶を淹れると部屋中に良い香りが立ち込めた。
「2人だけなんて何だか不思議ね。」
「そうですね。サクラ様がいらっしゃらなかった頃はハデス様との3人でしたね。」
あの頃のハデス様は今よりもっと口数が少なくて、食器のあたる音だけが部屋に響いていた。
「そうね。静かなのも良いけど…。」
バン!
いきなり扉が開いた。
「あー!2人でお茶してる!ずるいなぁ!」
「まったく、何でお前はそう騒がしいんだ。」
サクラ様とハデス様が入ってきた。
「はいはい、おふたりにも淹れましょうね。」
「ありがとう♪メーク♪」
そう言って笑うサクラ様。
「ねぇクレアス、聞いて♪」
パッと花が咲いたかのように明るくなった部屋で、ハデス様とクレアスも微笑む。クレアスとの久しぶりのお茶もいいけど、ハデス様とも静かなお茶もいいけど、やっぱりサクラ様のいる賑やかな今がいい。
そう改めて思った。
「サクラ様、ハデス様、紅茶の用意ができましたよ。」




