オリュンポスからの手紙
まだ冥府の夜さえ明けていない時間だというのに、サクラが布団に入ってきた。
「…コラ、一体何時だと思っている…。」
「だって、寝たんだけど起きちゃって…気になったら眠れなくなっちゃって…。」
「?」
サクラが手紙のようなものを出した。これは、オリュンポス宮殿からの手紙…。
「何処でこれを?」
「黒猫さんが持ってきたの。ハデスに渡してって。」
黒猫…?どこかの神が化けたな…。
「そうか、他には何を?」
「な、なにも言ってなかったよ。ただそれだけの用事だったみたい。」
サクラは嘘が苦手だ。顔を見ればすぐに分かる。だけどまぁ気にする程度ではなさそうだ。私は手紙をベッドの片隅に置いた。
「え?見ないの?」
「あぁ、眠るから見ない。」
手紙の内容など読まなくても分かる。恐らくまたアレだろう。
「どうして?見てから寝たらいいじゃない。」
「見なくても分かっている。目を通す必要などない。」
サクラは納得していない顔をしている。
「私だって…」
そう言いかけて少しだけ泣きそうな顔をして私の胸に顔を埋めた。
「どうした?言いたいことがあるなら言うといい。」
「だってハデスが困っちゃうかもしれないもん。」
「お前に困らされるのはもう慣れた。まったく、どの口が言っている。」
サクラの頬っぺたをつまんで言った。
「ごめんなひゃい…。」
「それで?言いたいことは?」
サクラは言いにくいことを言うかのように口を開いた。
「私はここが冥府でハデスが神様だってことしか知らない…。私だって色々知りたいの。」
何を言うかと思えば…、
「なんだそんなことか。サクラが庭で元気がなかったのもそれが理由か?」
頷くサクラ。私はサクラの頭を撫でた。
「まぁ今の私をよく知っているのはお前だとは思うが、まぁ良い。色々と言うならば話そう。だけど…、」
「だけど?」
「今は寝たい。だから今夜地上を散歩しよう。そこでサクラの知りたいことを話そう。それで良いか?」
サクラが私に抱きつく。
「分かったら部屋に戻りなさい。」
「後少しで起きる時間だからここでいいの。」
「メークにまた叱られるな。」
いつの間にかサクラの規則正しい寝息に誘われ私も眠りについた。で、
「コラー!またあなたたちは!」
お決まりのメーク。
私はメークに静かにするように命じサクラを起こさぬようベッドから出た。
「メーク、これを。」
私はサクラが持ってきた手紙をメークに渡した。
「これは、オリュンポスからの手紙ですね。なぜ郵便受けではなくこちらに?」
「サクラの元に黒猫が届けに来たらしい。」
「黒猫ですか。黒猫…。まぁ、恐らく…。」
「あぁ、名は明かさなかったようだがな。」
「直々においでになられるなんて…。それもこれもハデス様が手紙を無視しているからですよ。」
「分かっている。だが仕方がない。あぁいった集まりは嫌いなんだ。」
「まったく、あなたは12神の内の一人なのですからね。中身は読まれましたか?」
「いや、読んでいない。」
「またですか。」
メークがため息混じりに言った。
「まぁ、今回は読むとしよう。」
オリュンポスからの手紙など陽気な神々が集まる茶会への招待に違いないのだ。分かっているからこそ気は進まないが仕方ない。黒猫がわざわざサクラに届けに来たのだから。
封を切り目を通してみる。
内容はやはりオリュンポス宮殿で開かれる茶会の案内と…。
「どうされました?」
メークも手紙に目を通す。
「サクラ様もお茶会に?」
…。
「ふぁー。あれ?メーク、おはよう。」
「おはようございます。サクラ様。」
「メーク、出席すると返事を出しておいてくれ。私は仕事に行ってくる。それと、サクラ、私には朝の挨拶は無しか?」
「あ、おはよう♪ハデス、行ってらっしゃい♪」
「ハデス様、サクラ様にはどのようにお話をしたら…」
「サクラには私から話そう。今夜、地上へ散歩に行く約束をしたからな。では、行ってくる。」
サクラとメークを残し部屋を出た。
サクラの知りたいことを話すと言ったが一体何から話そうか…。そもそも知りたいのは手紙の内容か…。
手紙…メークに出席の返事を頼んだが、私とは違う神々の集まる場所にサクラを連れて行くことに不安がないわけではない。サクラは人間だから。神々のサクラ見たさか、私の強制参加か。長年、無視し続けていた代償なのかもしれないが、取り敢えず私と居ればサクラに手を出す者はいないだろう。特にあのゼウス。アレには注意をするようサクラにもよく言っておかねば。
私は死者たちを裁くため、扉を明けた。




