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オリーブの花かげに  作者: 入峰いと
発掘を見に行く
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 ビートンさんは岩板に触れた手を名残りおしそうに離して立ち上がられた。そして、手の埃を払いながら、


「もしこの岩に加工の痕跡が残っていたならば、意匠や技術からその時代を推測することも可能だったでしょう。しかしそれがないとなりますと、とても難しいのですよ」


と、マシューズ教授の答えを補足してくださった。残念そうなビートンさんの様子を見て、私の口から


「なら、加工する技術がない時代だったのかもしれませんわ」


という言葉が飛び出した。ビートンさんが驚かれたように私をご覧になった。私はただ、何か彼の助けになりたくて、そう、作られた時代を推測する手がかりは、と考えたとたんに、頭に浮かんだことをそのまま口に出してしまったのだ。それにしても唐突すぎたらしい。しばらくどなたも何もおっしゃらなかった。私は変な沈黙をなんとか打ち破ろうと懸命に言葉を探した。


「つまり、この辺りで岩を切り出すことができないから、わざわざ遠くから岩を運んできたのではないかと、思ったんですの」


と口ごもりながら意図を説明しようとした。マシューズ教授は髭の下で口元を少し緩められた。


「しかしながら、近くの岩を切り出す技術があったにもかかわらず、この岩に特別な意味があったからこそ、あえて遠くから運んできたのかもしれないですよ?」


と私に向かって反問された。教授の表情と気さくな口調から、私の意見をおとがめになっているわけではないことがわかった。ちょうど父と私が、時折、美術品について語り合う時のようだった。おかげで私は落ち着いて、その平たい岩をもう一度よく眺めてから答えることができた。


「この岩は、目立って美しいとはいえません。特別に扱う意味はございませんでしょう」


「なるほど、あなたのおっしゃる通りかもしれない。しかし外見とは関係なく、例えば誰かの思い出の岩だから選ばれたのかもしれませんね。この岩を運んできた理由について、当てはまりそうな推測はいくらでも考えだすことが可能です。しかしそれらの推測のうち、どれが正しいか判断することはとても難しいのです」


教授は丁寧に説明して下さったが、それはつまり、私の意見は的外れということだろう。ビートンさんも


「証拠に基づく推論ならば、より蓋然性が高いのですが…」


と遠回しながらも否定的な言い方をなさった。やはり碌な知識もないのに口出しするのではなかった。私がお詫びしようかと考えかけところに、ローズが発言した。


「あの、様式論というものがありますでしょう」


それは私の知らない言葉だったが、きっとローズが大学で勉強した用語なのだろう。私は彼女の言葉の続きを待った。


「このようなドルメンは他にもございますから、様式を分類して、発展や変遷を見極めれば、建立の時期が分かるのではないでしょうか」


ビートンさんはそのローズの言葉を聞いて少し首をかしげられたように思えたが、教授はローズに向かって大きくうなずかれた。


「様式論は確かに有用な理論です。このドルメンの場合、元々あった岩盤由来の下部の岩石に、天井となる岩板を載せただけという構成ですね。これはかなりプリミティブな様式と分類してもよいでしょう。ただし作られた時代に主流の様式であったのか、費用などの制約でたまたまプリミティブな様式になってしまったのかは、判断できないですね。様式論でもブルクスアイド嬢の推論でも、同様に、それだけでは難しいのです」


私は困ってローズの表情を探った。大学で学んだ知識が、私の思いつきと同じだと言われて、がっかりしてはいないだろうか。しかしローズは私に向かって目配せすると


「あら、私達、おあいこらしいですわね」


と言う。私を励ましてくれるのがわかった。ビートンさんは教授に向かって


「様式論は、ある種空論と言いましょうか、書物や図面ばかり見て、考古学がわかったつもりになってしまう所があるのかもしれません。私共は机上で研究するばかりではなく、やはり発掘現場を体験するべきなのでしょうね」


と嘆息するように言われた。教授は軽く手を打ち合わせ、


「ああ、そうそう、現場でした。こうして天井石を眺めているよりも、ドルメンの内部をご覧に入れたほうがよろしかった。どうぞ、そちらの段差から降りてお出で下さい。掘り下げた土を崩さないように、ご注意願います」


と私たちをお招きになった。私の中途半端な意見は、結局年代を判定する役には立たなかったが、お叱りを受けることもなかったので、ちょっとした講義のきっかけになったと思って、くよくよしないことにしよう。私はそう自分に言い聞かせた。


 ドルメンを囲むように土が取り除かれて、2フィートばかり低くなっている。ちょうど人夫が平たい道具で地面を薄く削るように掘っていた。ローズはその様子を熱心につま先立ちで眺めた。

 

 教授がおっしゃったように、下の面に降りるための段差が、いくつかの麻袋に土をつめこんで、簡易的にこしらえてあった。ビートンさんは教授に続いて下まで降りられ、ローズがその後に続いた。カスターは私に『お先に』と手で合図し、私は段差に足をおろした。私の前でビートンさんがローズに手を貸して助け下ろした様子に私はなんだか緊張してしまい、それを打ち破ろうと勢いよく踏み込んだ拍子に、緊張ではなく麻袋を靴の踵で破ってしまった。そのまま滑り落ちかけたところを


「危ない!」


とカスターが肘を掴んでくれたおかげで私は踏みとどまったが、麻袋から中身の土がボロボロと零れ落ちた。ビートンさんが私を振り返り、


「大丈夫ですか」


とお尋ねになった。


「ええ、でも土を、すみません、こぼしました」


「それはいけない」


ビートンさんは慌ててマシューズ教授に呼びかけた。


「教授、申し訳ありません。袋の中の土をこぼしてしまったようです」


「おやおや、袋が傷んでいたのでしょうか」


ビートンさんと教授は土が溢れたところにひざまづいて検分される。掘り下げた土を崩さないようにと注意されていたのに、私が不調法なことをしてしまった。私はただ気を揉んでお二人の様子を見つめた。私の後ろにいたカスターは段差のないところからひょいと下へ飛び降り、段差に立ち尽くしていた私に


「ブルクスアイド嬢、そこにいないほうがよいでしょう」


と声をかけてくれた。確かに私の重みで麻袋からますます土が溢れるかもしれない。私は段差の上へと戻った。


「はっきり色で区別できますし、試料が混ざる心配はないですよ」


教授はビートンさんにそう話された。そして立ち上がると、地面を削っていた人夫に、


「溢れた土を掬い上げて、上で新しい麻袋に詰め直してくれ」


と指示された。


「後代の遺物を含んだ土層が混入すると時代の判定に誤りが生じますからね」


ビートンさんはローズに向かって解説される。


「色で区別できるとはどういうことですの?」


ローズの質問にはマシューズ教授が、


「ここを見ればおわかりになるでしょう。掘り下げるにつれて、土の色が白茶けて、粒が粗く、風化した岩石の割合が増えているのです」


側面の壁を指し示された。土をこぼしてしまった私は、影響がなかったことに安心したものの、教授にお詫びする雰囲気でもなくなったので、どうしようかと上の段でためらっていた。


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