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オリーブの花かげに  作者: 入峰いと
発掘を見に行く
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 ビートンさんと二人で、駅の横手でただぼんやりと周辺の木々を眺めているのは気づまりで仕方なかったが、私から持ち出せる話題はすぐに尽きてしまった。前にあったように、一緒に笑いあえるような話題があればいいのだけれど、と私は知恵を絞りながら空を見上げた。先ほど小雨を降らせた雲は海の方へ飛ばされてゆき、ちょうど豊かな日差しが黄色くなった灌木の葉を輝かせたところだった。


「やあ、晴れて来ましたね」


ビートンさんの安心したような声に、私は


「ええ、本当ですね」


と気の利かない答を返したものの、やはりそれ以上話が続けられなかった。何かの鳥が高く鳴く声が響いた。その時、ビートンさんが何か思い出されたように


「そういえば、先日の」


と言い出された。私は先日という言葉にどうしても緊張せずにはいられなかった。とっさにお返事ができず、彼を見返すことすら恥ずかしくて、


「え、はあ…」


とあいまいな声を出しながらうつむき、手袋についた埃を払うふりをしてしまった。しかしビートンさんは


「例の皿のことですが、ご実家からは何か、お咎めになられませんでしたか?」


と続けてお尋ねになっただけだった。


「いいえ、特にはなにも。従妹にお詫びの手紙を送りましたけれども。きっとそれほど高価な品ではなかったのでしょう」


お皿のことは、二人だけの内密の話だ。私はそれがうれしくて、勢い込んでお返事をした。


「それでしたらよかった」


ビートンさんはそう言いながら、上着の袖で眼鏡の汚れを拭いて掛け直される。そんなところでお拭きになってはいけません、と、私は手を出しそうになって唇を結んで自分を抑えた。彼の表情からは、あの時私達の間におきたことの、ロマンチックな面に思いをよせておられる様子は見受けられない。心臓の鼓動を早まらせているのは、ただ私だけなのだ。彼に馴れ馴れしく触れたりしてはならない。私は、通る人影もない砂利道に視線をそらして、ため息にならないように気を付けながら大きく息を吸った。風の中には機関車の煙の匂いが先ほどよりも濃くなっている。


「もう、汽車が来そうですわね」


私がそう口に出すと、ビートンさんは線路の上手、下手を見渡された。


「ああ本当だ、聞こえてきた。」


やってきた汽車は、再び周囲を蒸気と金属の騒音で覆い尽くしてしまった。ビートンさんと私が首を伸ばして降りてきた乗客を見定めていると、待っていた二人が、とうとう小さな駅舎の横に姿をみせた。


 目の細かい千鳥格子柄のジャケットとシンプルなボンネット帽のローズは、いつもの洒落たデザインの服装と感じが違って、意外に活動的なスタイルが似合っていた。彼女は目ざとくこちらに気付いて、「オリビア!」と手袋の手を振った。私は腰をかがめて会釈した。ローズは背後にいたカスターを振り返って微笑んでから、私達に向かって足を早めた。ビートンさんが一歩前に進み出て、


「ようこそおいで下さいました、バイゼリンク嬢」


とその手を握って挨拶した。ローズは


「お招きありがとう。とても楽しみにしていましたの」


と答える。そして私の手をとって


「思ったとおり、のどかで気持ちのいいところね。それにすごく可愛い駅」


と面白そうに付け加えた。ビートンさんと握手を交わしたカスターは


「ご機嫌よう、ブルクスアイド嬢」


と帽子を持ち上げ、私はまた腰をかがめて挨拶を返した。


「それでは、ご案内いたしましょう。1マイルばかり歩くことになりますが、バイゼリンク嬢、支障ございますか?」


ビートンさんはローズの服装を確かめるように眺めた。


「いいえ、喜んで歩きましてよ。」


ローズは私と腕を組んで受けあった。そして実際、彼女は農家の建物や、小川にかかる橋の欄干といったありふれた景物の一つ一つについて


「素敵!童話の絵みたいだわ」


と喜びの声を上げながら村の中を歩いていった。先導するビートンさんは、冗談めかして頭を振ると、


「発掘現場に付く前にお疲れにならないで下さいね」


と注意するふりをされる。


「こちらに来てからというもの、社交上のお付き合いばかりでしたの。私の自由にできる機会は滅多となかったんですから、今日はかりは浮かれてもお赦し願いたいわ」


ローズも軽口で応じた。私はふと、ローズと知り合ったパーティーのことを思い出した。あのときもローズはカスターと一緒だった。私がカスターに視線を向けたので、彼は私に向かって


「別に私が連れ回しているというわけではありませんよ」


と弁解した。ローズは笑いながら、秘密を打ち明けるかのような口ぶりで


「私が適切なお相手をみつけられるまで、ロウフォードさんはお気の毒に、世話役を押し付けられているの」


と言葉を添える。それに対して


「都合よく暇だからね」


とカスターは言った。その言葉には自嘲めいた響きがあった。何か事情がありそうだったが、お尋ねできる立場でもないので、私は言葉を差し控えた。ビートンさんは、ローズの言葉を受けて、


「バイゼリンク嬢は、きっと候補者が多くて選びきれずにおられるのでしょう」


と、からかわれる。ローズは肩をすくめて、


「母の好みがうるさいせいですわ」


と答え、


「今日見せていただけるのはどういう遺跡ですの」


と話題を変える。彼女はそう尋ねて隣にいる私の方を見たが、私には答られなかった。


「あ、それは」


と言い淀むところをビートンさんが引き取って、


「ドルメンと呼ばれる石組みをご存知でしょうか、この地方ではありふれた遺跡なのですが、その一つを調査する取り組みなのです」


とローズへ解説なさった。


「古代の墓石ですわね」


ローズは理解を示したが、ビートンさんは微笑んでかぶりをふった。


「いえ、作られた時代は古代に限ったものではないのです。ドルメン形状の石組みの建設は歴史上長く行われました。目的としても、墓所に限らず退避場所、祈祷や監視などに使われた例もあり…」


先頭にたって進まれながら、ビートンさんは振り返るようにして熱弁を振るわれるので、私は彼が何かに躓くのではないかと気になって、道路の周囲に目を配りながら歩いた。


 村から離れて街道を少し進むと脇の牧草地へ入っていく細い道があったのだが、ビートンさんはそちらに背を向けておられて、気づかずに通り過ぎようとされる。私はお話を遮って、


「ビートンさん、こちらですわ」


と呼び止めた。


「途中から街道を離れてピック道を進むよう、駅の方が仰っていたでしょう」


「ああ、そうでしたね、この、道というか、踏み跡というか、こちらへ参りましょう。皆様、足元にお気をつけて」


細道にはあちこちに水たまりができていた。進む先には、土地がなだらかに隆起してごくささやかな稜線を描いている。


「これならピット道と呼ぶほうがいいな」


と後ろでカスターがつぶやいた。

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