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オリーブの花かげに  作者: 入峰いと
再会の展示会
17/28

17

 話しているうちに、マーティン叔父様はシーゲル卿に挨拶を終えて、ビートンさんに出口の方へ案内されていく。


「我々も、そろそろ失礼しましょうか」


 従兄のジョージがローズに声をかけた。ベアトリスは言葉を交わしていた女性たちに暇乞いをして、カスターに向きなおって軽く笑みを浮かべたかと思うと、その腕に手をかけて、立ち去る準備を整えてしまった。会話しながらでも、ちゃんと周囲に気を配って、滑らかに動けるベアトリスはすごいと思う。


 ジョージは私にうなずいただけだったが、ベアトリスは声をかけてくれた。


「それじゃあ、オリビア、会えてよかったわ。お仕事がんばってね」


「ありがとうベアトリス、またね。失礼いたします、ロウフォードさん」


「ご機嫌よう、ブルクスアイド嬢」


カスターの生真面目な挨拶に、私は、ちょっと迷ってから


「今日はありがとうございました」


と言葉を返した。カスターは少し唇を緩めたけれど、それ以上の会話をする間もなく、御前様のほうへ挨拶に行くジョージたちについて行ってしまった。受付に取り残されていた私を招き入れてくれたことでお礼をいいたかったのだけれど、うまく伝えられなかったかもしれない。


 残された私に向かって、ローズがもう一度振り返って小さく手を振った。さきほど私の両手を握って、揺らしながら


「あなたとご一緒できるのが楽しみよ。オリビア、よろしくね。また会いましょう」


と、早口に言ってくれたのだが、本当に楽しみにしてくれているらしい。私のことを大変な才女であるかのように誤解しているのではないかしら。馬鹿なことを言ってしまわないように気をつけなくてはいけない。発掘現場の参観に誘っていただけたのは嬉しいけれど、本当は少しばかり気が重くもあった。


 父が私の方へ近づいてきた。


「なかなかの盛会だった。マーティン叔父様まで、なにか古代の品を手に入れたいと言い出したよ」


これまでは、お仕事に忙しいのか、父の収集には全く興味を持たなかった叔父様だった。父は冗談めかして、


「まあ、趣味を持つことで、叔父様も新たな人脈をつくろうとしているのかもしれないよ、バイゼリンク家にね」


と付け加えた。


「お父様、わたくし、ローズさんとお近づきになりましたわ。今度、発掘現場にご一緒させていただきますの」


「ああ、そのようだね。才気のある令嬢だ。オリビアと気が合いそうだと思ったよ」


私はどう答えようか、迷った。ローズと向き合うのは少し気後れがすると正直に言えば、父を失望させるだろうか。すると父は、私をみつめて、


「スカートの丈を、もう1インチばかり短くしなさい。ヒールがある靴を履いて、顔をあげるといい」


と言い出した。今日の私の服装は、野暮ったく見えたのだろう。私はあわてて、


「あの、今、新しい帽子を、頼んでいますの。それにすればもうちょっと見栄えよくなりましてよ」


と言い訳をした。父は笑って、


「今の帽子も似合っているさ。ただ、オリビアは裾さばきを気にして、俯きがちだね。それではお前のよいところが見えないだろう」


そういって私の手を取った。


「もうお帰りになりますの?」


「ああ、汽車の予定がなければもっとゆっくりできるんだが。お母様にはオリビアが元気だったと伝えておくよ」


「ええ、お願いしますわ」


父は私に軽く頬で触れて、帰っていった。


 私は他にすることがないかしら、と思ってあたりを見回したところ、シーゲル卿と目があった。どなたかと会話しながら、私に向かって片手を挙げられたので、お呼びに違いない。お傍に寄ると、ご挨拶の方の途切れたすきに、


「ビートンを呼んでくれないか」


とご指示があった。私は心得て、展示室から玄関ホールに向かってビートンさんの眼鏡を探しながら足を運んだ。すぐに、ホールの手前の広間で、ビートンさんが灰色の頬髭の紳士と談笑されているのを見つけることができた。


「失礼いたします、ビートンさん、御前様がお呼びでございます」


私が呼び掛けると、ビートンさんは肩をすくめて、


「おやおや」


と答え、お相手の方に、


「そういうわけで、失礼して、勤めに戻ります」


と会釈をした。私もそれにならって戻ろうと思ったのだが、ビートンさんの会話のお相手の紳士はは、私に向かって、


「ああ、お嬢さん」


と話しかけてこられた。


「はい」


私は足を止めた。ビートンさんや御前様のほうが気がかりでも、目の前の紳士を無視するわけにはいかない。


「あなたはシーゲル卿のところの人かね?」


「はい、なにか御用でしょうか」


「いやいや」


紳士は指輪を嵌めた手を振られた。


「<協会>にあなたのようなお嬢さんはいないはずだし、どういうことかと思ってね。ああ、私はドービンという。オリエント史学協会の役員だ」


「私は、ブルクスアイド、オリビア・ブルクスアイドと申します、御前様」


私は改めてお辞儀をした。オリエント史学協会の理事のドービン氏なら、なにかの資料でお見掛けした名前で、伯爵の位をお持ちのはずだ。たしかラングドン卿とかおっしゃったと思う。


「なるほど。ヘンリー・ブルクスアイドの娘だね」


「はい、父はさきほどお暇させていただきました」


「あなたは、今はシーゲル卿の所に?」


「この秋から行儀見習いに上がったところです」


「ほう、わざわざ田舎暮らしかね」


「都のお屋敷で、奥方様のおそばにおります」


私は、なにかけしからぬ立場と誤解されているのではないかと、心の中で身構えながらお答えした。


ラングドン卿ドービン氏は私の身なりを検分するようにご覧になったうえで、どう納得されたのか、


「なるほど、そりゃ結構だ」


と述べられた。私は、なにか評価していただけそうな話題を持ち出したくて、


「あの、展示にお出しになった、エジプトの、鳥の彫刻を拝見しました。素晴らしい細工で…」


その日見た品物を思い出して、口に出してしまった。しかし、ラングドン卿は肩をすくめて、


「あれは、正直わしにはよくわからん。貰い物でね」


と軽く仰った。皆様、ご自慢の逸品を出品されているのだから、その品物を話題にすれば喜ばれるだろうという私の目論見は空振りしたわけだ。


「いや、引き留めてすまなかったね」


とラングドン卿は、女中を下がらせるような手つきで私を追い払われた。私は落胆した気持ちを顔に出さないように、丁寧に腰をかがめて、その場を離れるしかなかった。

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