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秋物語り  作者: 大橋むつお
27/30

27:『それぞれの秋・2』

秋物語り・27

『それぞれの秋・2』       


 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗シホ 高階美花=呉美花サキ


 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名




 秋元君……一見元気そうだった。


「まいど、どうもありがとうございました!」


 元気に言うと、なんだかカーネルサンダースが若くなって挨拶しているみたいで、女性客の中には笑い出す人もいた。


「さて、在庫点検しよか~♪」


 いそいそと、インスペクト(在庫点検用の端末)を持って書架を回り始めた。その間にも、お客さんから質問され、テキパキと答え、ここでも笑いを誘っていた。


「秋元、なにか良いことでもあったのかな……」


 文芸書の西山さんが、頬笑みながら言う。


 わたしは違うと思った。


 なにか自分を誤魔化すために明るくふるまっている……そんな感じがした。だから、秋元君が倉庫に入っている間に、インスペクトを手に、もう一度確認した。ここでミスると、甚だしい場合、棚卸しのときに大変な手間になる。


「なんか、ミスった?」

 気づくと、真顔の秋元君が立っていた。わたしは最後の棚を確認して答えた。

「ううん、エラーは無いわ」

「そうか、良かった。これ書評が良かったんで、ポップ書いてみよかと思って」

 瞬間で笑顔に戻ると、抱えた五冊ほどを手に持って平積みのコーナーに行こうとした。

「なにかあったんでしょ。その明るさ変だ……『明るさは滅びの徴であろうか』って、笑顔だよ」

「太宰の言葉だね、『人も家も暗いうちは滅びはせぬ』って、続くんだよね。さすが亜紀ちゃん。女子高生とは思えない答だよ」

「……わたし、高校なんかとっくに卒業してる。気持ちの上ではね」


 で、バイトが上がったあと、その名も『斜陽』って喫茶店で二人で向かい合った。


「やっぱ、気持ち誤魔化してたんじゃないの……」


 どちらが年上か分からない言いようで、秋元君の心の毒を聞いたあと、グサリと言ってしまった。秋元君は身をよじるようにして小さくなった。


「秋元君の年齢で、女の人と付き合って、友だちの関係で良しなんてあり得ないよ。雫さんには気持ち伝えたの?」

「おめでとう……って」

「はあ……」

 思わずため息をついてしまった。

「でも、これでいいんだ。最初は落語の『三枚起請』みたいに思ったけど。雫とは、最初からそういう約束の付き合いだしさ」

 そう言うと、お手ふきで汗を拭くフリして涙を拭った。


 ことは、こうだ。


 大阪落語の『三枚起請』の説明をしていると、雫さんが、好きな男性が出来たと打ち明けた。

 最初は半ば好奇心から体の関係になったけど、三か月じっくり考えた。

 そして、彼が家の都合で田舎の福島に帰らざるを得なくなり、雫さんの彼は、今年いっぱいで退学することになった。

 震災後、親は無理をして東京の大学に入れてくれたが、お父さんが倒れ……それでもご両親共々「気にするな。良太は大学で勉強しろ!」と言う。帰ってこいと言われるよりも辛かったそうだ。

 そして雫さんは、本気で彼のことを愛していることに気づいた。

 そして、秋元君も雫さんが好きなことに気づいた。


 そして、嫌なことに、自分の「好き」という気持ちの中に男の欲望が混じっていることに気づいた。


 とっても自分が賤しく、薄汚い者に思えて仕方がない。だから、出来ることなら自分の脳みその中から、薄汚い男の部分を切り捨ててしまいたいぐらいだ。とも言った。

「でも、それ吹っ切ろうとして、仕事に打ち込んで、ミスしなかったんだから、オレも大したものだな!」

 造花の向日葵のような笑顔で、秋元君は、話しに幕を降ろそうとした。

「秋元君って、童貞……?」

 降りかけた幕を、わたしは強引に引き上げた。

「……アハハ、それは亜紀ちゃんにも秘密だな。ごめん遅くまで付き合わせて。さ、帰ろう!」

 膝を叩くと、秋元君は伝票を掴んでレジに向かった。


 何も解決していない。秋元君の傷を広げただけだ。


 駅の改札に行くまでに、わたしはコンピューターのように、いろんなことを演算した。

「明日もがんばろうぜ!」

 秋元君は、改札に着くまでオチケンらしい饒舌を、その言葉で締めくくった。そしてパスホルダーを出して、改札機に当てようとする手を、わたしは掴んだ。


「今夜、少しだけ大人になろう。二人とも……」


 秋元君がフリーズした……。



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