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秋物語り  作者: 大橋むつお
24/30

24:『なにかが違う・1』

秋物語り・24

『なにかが違う・1』       


 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗シホ 高階美花=呉美花サキ


 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名



 なにかが違う……と、思った。


 久しぶりにバイトを休んで、真っ直ぐ家に帰った。もともとシフトからは外れていたんで、表面的には、いつもの通りだ。

 でも、今日シフトに入っていても休んだかも知れない。


 なにかが違う……。


 うちに帰ると、弟がだいぶ前に録画していたテレビ番組を見ていた。手塚治虫の一代記で、前世紀のアイドルで、今はベテランの域に達したタレントがやっていた。これはハッキリ言える。この人は、わたしの趣味じゃない。


「締まりのない顔して観てんじゃないわよ」

「イテ、なにすんだよ……」


 わたしは、側にあった少年ジャンプで、コツンとしてやった。

 弟は、AKRのオシメンである小野寺潤が、準主役で出ているので、それだけでご機嫌である。ファンであることは勝手だし、好きになるのも自由。でも、だらしのないのは許せない。仮にも同じ血が流れている弟が、こんなアホ顔をするのは、耐えられない。


「ほれ、また口が緩んでる」

 今度は、アゴを下からポコンとしてやった。はずみでヨダレがついた。

「あ、ヨダレがついちゃたじゃんか!」

「自分のヨダレでしょ」

「だって、ジャンプ買ったばかりで読んでないんだ……」

「なによ、文句があるんなら、最後まで言う。オトコでしょうが!」

「スゴムなよ。ただでもおっかないのに……メンスか、姉ちゃん?」

「なんだと!」


 鼻の穴に指を突っこんで顔を引き寄せた。


「イテテ……」

「そ-いうことは言っちゃいけません! セクハラだぞ……!」

「わ、分かった、分かった……」


 その時、バカなことを思い出した。教室でHを立たせるときは耳を掴んだが、弟は鼻の穴だ。指にはハナクソが付いたが、それほどの嫌悪感は湧かない。ガキンチョのころ、よく弟とハナクソの付けあいをやって遊んだことを思い出した。


 ティッシュでハナクソを拭いていると、テレビの手塚治虫が、こう言った。

「僕に出来るんだから、あなたにもできますよ」

 これが、このドラマのテーマかと思うと同時に、それは違うと思った。


 で、思い出した。今日学校で麗が言った言葉。


「ねえ、亜紀もさ、本屋のバイトなんか辞めて、うちの店においでよ。経験者優遇。本屋の三倍は時給出るよ」

「ごめん……なにかが違うんだよね。わたし、本屋さんが性にあってんの」


 麗が、一年の時の水泳部事件以来、タイプは違うのに友だちでいてくれるのは、とても嬉しかった。麗も美花も、そう言う意味で誘ってくれているのは、よく分かる。でも、麗が「本屋のバイトなんか」と言った時には、今まで感じたことのない違和感があった。極力表情には出さなかったけど、こういうことに鋭い美花には、なにか違和感というところだけが感じられたかもしれない。


 そのころは、他の人が変わってしまい、自分は変わってきているとは感じなかった。


 お父さんが、帰ってきて、手塚治虫のドラマだというので、珍しく缶ビール片手に、風呂上がりに録画を観ていた。


「違う、手塚治虫は、こんなんじゃない」

「僕に出来るんだから、あなたにもできますよ。なんて歯の浮くようなことは言わなかったでしょ?」

「いや、手塚治虫の口癖だよ。それはいいけど、なにかが違う……うまく言えんけどな」


 お父さんの言うことなんか、大概にしか聞いていないけど、今の言葉は頷かざるを得なかった。なんたって、本物の手塚治虫と同じ時代を生きたマンガ少年だったから……。



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