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秋物語り  作者: 大橋むつお
22/30

22:『目黒のサンマン・1』

秋物語り・22

『目黒のサンマン・1』        


 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗シホ 高階美花=呉美花サキ


 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名




 秋は春と並んで新刊本のシーズンだ。ワッサカ出る新刊本のチョイスが問題になる。


 わたしの店は、床面積百坪ちょっとという中型店。大型店も多い渋谷で生き残るのは、並大抵ではない。新刊本を何でもかんでもというわけにはいかない。

 で、正社員、バイトを含めて、みんなで顧客のニーズに合った本を選んで並べる。場合によっては、書評や、ちょっとした感想を肉筆で書いて、ポップにすることもあり、バイトでも、なんだか経営参加してるような気になれて、学校なんかでは味わえない充実感がある。この春にも、わたしがポップを書いたラノベが、二百冊ほど出て鼻が高かった。


「なんてったかね、亜紀ちゃんが二百売ったって……」

 

 文芸書担当の西山さんが、制服を着て売り場に出たところで聞いてきた。


「ああ『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ですね」

「あれ、姉妹版があるんだろ?」

「ええ『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』です」

「あれ、出ないかな。二三問い合わせも来てるんだけどなあ」

「ネットじゃ、けっこう読者掴んでるらしいようですけど、ちょっと問い合わせてみますね」


 青雲書房という小さな出版社。電話したら、社長さんが直々に出たので恐縮した。


「……そうですか。また出るようなら、扱わせていただきますので」

「どうだい?」

「資金難で、見送っているようです。今度出すとしたら、文庫で600円くらいにしたいらしいんですけど、どうも五千は売れないと苦しいようで、二の足ってとこらしいです」

「『乃木坂』は、四六判で1260円か……うち以外じゃ売れてないだろうなあ」

 売り上げの記録を見て、西山さんがため息をついた。

「でも、ラブコメでありながら、演劇部のマネジメントが身に付くって、スグレモノでしたから」

「ま、注意して見といてよ……」

 

 西山さんとの話が終わりかけたのを見計らって、秋元君が間に入ってきた。


「これ、置いてもらえませんか!?」


 秋元君が手に持っていたのは、DVD付きの落語の週刊本だった。


「いや、パンフ付きのDVDなんです」

「え……?」

「一応書籍なんですけど、本体は見開き四ページだけのペラペラで、完全にDVDに軸足置いて、価格は類似商品の2/3なんです」

「でも、落語じゃなあ……」

「ちゃんと、マーケティングリサーチもしてあります。うちの店の前は、一日の通行人が三万ほどあるんですが……」

 秋元君は、タブレットを出して説明しはじめた。


 うちは、一日に二千人ほどのお客が入るけど、その大半が学生やOLなどの若者。中年以上の人は、表の週刊誌の立ち読みだけというのが多い。ところが通行人の半分は中高年。それを、この店は取り込めていない。


 中高年は、本を見る目がシビアで、読書幅も広く、うちのような中型店ではこなしきれず、ハナから大型店に取られるものと決めてかかっているところがある。それを取り込もうというのが、彼の理屈。でも、これだけのデータ、どうやって集めたんだろう……と思うと、店の前で気配。


 なんとT大オチケンのみなさんが、交通量調査に使うようなカウンターを手に並んでいた。むろん雫さんも。どうやら、部員総出で調べたようだ。


 かくして『はるか わけあり転校生の7か月』の発売はできなかったけど、DVD本の『AKG48』の店頭販売が決まった。AKGってのはRAKUGOから、AKBに紛らわしくなるアルファベットを抜いて並べたもの。

 第一巻は三遊亭音楽の『目黒のさんま』だった。


「あたし、目黒のお店に出向なんだけどお、これって左遷かな?」


 麗から相談を受けたのは、明くる日の食堂。

 麗は珍しく、カレ-うどんを一杯しか食べなかった。

 


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