試作9話
「あれか」
『そうだ』
見つめる先にあるものについての質問に短い返事。
それだけで十分だった。
「それじゃ、行ってくる」
『必要な情報はいつも通りに出す』
「頼むぞ。
周りの事まで気が回らないからな」
そう言って銃を手に取る。
目標は前方。
人間を追っている捕獲機。
それにめがけて引き金を引いていく。
狙いははずれる事なく目標に当たり、外装に穴を開けていく。
敵は次々に倒れ、残骸となっていく。
銃器に取り付けた照準装置から見える映像がヘルメットのカメラに表示され、狙ってる場所を表示してくれる。
そのおかげで命中精度はかつてよりかなり上がっていた。
数え切れないほど銃を扱ってきた経験も大きい。
それらが敵を容易く倒す事に繋がっている。
時間にしてほんのわずか。
数秒のうちに終わった戦闘に終われていた者は唖然とする。
後ろから追っていた何かが地面に落下しているのを見て、起こった出来事を認識していく。
『大丈夫だ』
ここまで一緒にやってきた立体映像の存在の声を聞く。
『これを倒したのはあそこにいる者だ』
車に乗って自分に近づいてくる者を幻影の指が指す。
『あとはあの男についていけば良い。
少なくとも敵ではない』
その言葉をどこまで信じて良いか分からない。
だが、ここに車でずっと導いてくれていた。
その事実を信用の裏付けにしたかった。
走ってくる車に自分から近づく事は出来なかったが。
(警戒してるか……)
無理もないとは思いつつも、相手の固い表情に少しばかり悲しくはなる。
久しぶりというには長すぎるほどの時間を一人で過ごしていた。
人恋しくなるような事はなかったはずなのだが、やはり自分以外の誰かが来たとなると多少は気分が高揚した。
その最初の接触が、警戒心をもたれたものであるのは少々切ないものがある。
(無理もないけど)
誰もいない場所で何者かに襲われた直後だ。
仕方ないとは思う。
なのだが、もうちょっと態度を和らげてもらいたかった。
我が儘だとしてもだ。
だが、そんな態度を出すわけにもいかない。
「大丈夫か?」
とりあえず最初の接触を試みる。
敵ではないはずだと信じて。
「とりあえず核だけ回収したい。
悪いけど、車で待っててくれ」
話しかけようとしたが、まずは先にそちらを片付けようと思った。
ここに来るまでに消費した燃料もある。
核を回収してその分の補填をしたかった。
余裕があるなら残骸も回収して材料に転用したいものだった。
それだけの余裕があればだが。
ただ、敵が迫ってるならこの限りではない。
「近くに敵は?」
『いない。
こちらに接近してるのはいるが、最も近くにいるもので七百四十キロ先だ』
「じゃあ、余裕はあるな」
見つかって追跡される危険のある距離までまだ余裕がある。
その間に核を抜き取る事は出来る。
残骸を解体して荷台に載せるとなるとギリギリになってしまうが。
その間、人間の方は車で待ってもらう事にする。
不安ではあるだろうが、こればかりは仕方ない。
折角倒した貴重な燃料兼材料をこのまま捨てていくわけにはいかない。
その間は、立体映像の方になだめておいてもらう事にする。
「悪いけど、そっちのお客さんの相手をしててくれ」
『もうしている』
話が早くて助かる。
『納得はしてないが、おまえの言い分を聞くそうだ。
出来るだけ早く終わらせてやってくれ』
「分かってるよ」
長居するつもりはない。
言われるまでもなく手短に終わらせるつもりだった。
核は全部回収する事が出来た。
だが、残骸の回収は諦めた。
敵との距離はまだ十分にあったが、安全を優先する事にした。
ここまで燃料を考えれば赤字だが、不安そうな客の顔を見てるとその場に留まるのは気が引けた。
「待たせたな」
そう言って運転席に座り、車を動かしていく。
荷物はそれほどでもないので滑らかに発車していく。
これがいつもなら、タイヤが少しきしむくらいまで荷物をのせている。
上々の加速を見せるながら車は進んでいく。
帰路にて滑らかな走りを見せるのは珍しい。
「それで」
そのまま無言でいるわけにもいかないので本題に入る。
「そちらのお客さんについてだけど、なんて呼べばいいのかな?」
まずは名前から。
少なくとも呼び名くらいははっきりさせておきたかった。
「……ヨウジ」
「そうか。
俺はツヨシだ。
よろしくな」
それが本名かどうかは分からないが、相手をなんて呼べば良いのかはこれではっきりした。
結局そこから話が弾むという事もなく、必要な情報などは立体映像が主に進めていった。
とはいえ、ヨウジの方から話すような事はほとんどない。
転生直後からここに至るまでの時間は短く、語って聞かせるような事はほとんどない。
運が悪く転生した場所の近くに捕獲機がいた事と、それから逃げてきたというのが話の全てだった。
その情報を立体映像が中継してツヨシに伝えた。
立体映像としてツヨシとヨウジの前に現れてる存在だが、基本的には同一の存在である。
この都市における支援用の機構であり、必要であれば都市の各所に現れる事が出来る。
立体映像として出現してるのは、その一部である。
なので、情報は全て共有している。
おかげで、ほとんど時間差を発生させる事なく、ヨウジが襲われてるという情報を伝える事が出来た。
「それを聞かされたのは、眠ってる最中だったけどな」
非常事態なのは分かってるが、さすがにこれはつらかった。
「なんか、すいません」
「気にしなくていいよ」
ヨウジが悪いというものでもない。
運が悪かったのだから。
「まあ、これから頑張っていこう」
慰めにもなってないような事を言って、この話を切り上げる事にした。
「人手は欲しいところだったし、これから助けてもらうから」
実際、一人でずっとやってきたが、限界も感じてはいた。
誰かがやってきてくれてありがたいのは確かである。
「君にとっては災難だろうけど」
「いえ、そんな事は。
助けてもらいましたし」
「いやまあ、そういう事じゃなくてさ。
こんな所にやってきちまったって事がね」
それだけは本当に哀れに思った。
「この先、ずっとこんな所にいる事になるから」
経験者として、それだけは伝えねばなるまいと思った。
「君もこの先、ここでやっていく事になる。
その覚悟をしておいて欲しい」
「あ、はい……」
なんだか妙な事を言うなと思ったが、何か意味があるのだろうとは思った。
思ったので尋ねてみた。
黙っていても理由は分からない。
「その、それってどういう意味なんですか?」
返答は薄く浮かんだ笑みと、
「ずっと続くんだよ、ここで」
という言葉だった。
沈んだ調子の声が、事の重大さを伝えているように思えた。
それからしばらく沈黙があり、
「……ここでな、ここに転生してな」
再び口を開いた。
「それから何十年も生きて、死んで、また転生して」
「はい……」
「それを何回も繰り返した。
今回で何度目だったかな」
『六回目だ』
「そんなになるのか」
そう言って再び沈黙した。
聞いてたヨウジも何も言えなかった。
ここに来て六回の転生。
一回の人生がどれだけの長さだったか分からないが、六十年や七十年としても三百年以上になる。
それだけの期間、ここにいたという事なのだろう。
繰り返し繰り返し、ずっと。
その事の意味をヨウジはまだ完全には理解していない。
しかし、なんとなくおぞましい何かを感じた。
(もうそんなになるか)
逃げる事も出来ず、捕まる事に怯えながら絶えず続く人生。
寿命を迎え、死が訪れ、そしてまた連れ戻される。
その繰り返しが六回目だという事に驚いた。
もう数えるの面倒だし、無意味な事に思えていた。
なので気にせず日々を過ごしていた。
先の事もこれまでのことも、考えると絶望を抱いてしまう。
長い長い時間がある。
ただ、長い時間だけがある。
終わりのない永遠がここにはある。
何かに怯えて暮らすだけの日々が。
(捕まりたくねえなあ)
この調子の日々が、しかも自由まで失った状態で永遠に続くとなるとたまったものではない。
絶対に捕まるわけにはいかなかった。
しかし。
逃げて逃げて逃げて。
敵を倒して撃退し、身の安全を保ち続ける事にも疲れていた。
終わりのない、区切りがつかないという事は、人を疲弊させるようだ。
(早く終わってくれないもんかねえ)
それがどういう形でも良い。
ただ、こんな状況にさっさと終結が訪れてほしかった。
出来るだけ良い形で。
だが、それが何であるのかは分からない。
その為に何をすれば良いのかも。
出来る事は、捕まらずに過ごしていく事くらいである。
安全圏を確保し、自分が自分でいられる状態を保つ。
長い時間をかけてそれをしてきた。
おそらくこのままこの調子でこれを続けていくのだろう。
何のためなのか、どうしてなのか分からないまま。
それでも思う。
(そのうちどうにかなればいいけど……)
あてのない期待を抱きながら今日も生きてく。
とりあえず終わった一人だけの日々を少しだけ楽しみながら。
出来ればもう少し賑やかになってくれればとも思う。
(でも、この調子だと、他の奴が来るのもかなり先になりそうだな)
また、ただひたすら堪え忍ぶ日々が続くのだろう。
それはそれでつらいものがあった。
まあ、何がなんだか分からない話ではあるでしょうが。
やってみたいなあ、と思ってる話がこんなもんです。
SFっぽい舞台の上でファンタジーなことをやってみたいというのもある。
ファンタジーと言っても、過去のヨーロッパみたいな世界ではないけども。
まあ、空想や幻想というか、現実には存在してないものという意味でファンタジーな話を書いていきたい。
とりあえず、こうしてお話にもなってないような話を、試作品として出している。
こういう話を考えてるという見本でもある。
実際、本格的に連載をする場合は、これを土台にしたもっと違った話にするつもり。
読みたい人がどれだけいるか分からないけど。
まずは書いてる途中のもうひとつの連載をどうにかしないといけませんな。
そちらをがんばってみます。




