試作5話
「そんじゃ、やってみますか」
手にした武器の具合を確かめながら独りごちる。
転生直後から追跡してるという保護目的の敵の方向を見据える。
「間違いなく来てるのか?」
『存在は既に検出している。
接触まで、二日ほどかかるが』
「ゆっくり出来るのはそれまでって事か」
無論、言葉通りにゆっくりするつもりはない。
出来るだけの準備を重ね、確実に撃退出来るようにするつもりだった。
手元にあるものはそれほど多くはないが、やれる事はやっておきたかった。
少しでも成功する確率を上げるために。
「もう少しこの辺りの状態を教えてくれ。
一番良い場所で出迎えたい」
『分かった』
周辺の地図や、立体的な映像などが周囲に展開される。
それらを見ながら、作戦を考えていく。
武器を手に入れはしたが、戦力は一人だけである。
出来るだけ有利な状況を作っていかねばならない。
でなければ返り討ちにある可能性が出てくる。
相手はそれほど強力ではないとは言うが、それでも生身の人間がかなう相手ではないらしい。
人間を捕獲するためにいるのだから、太刀打ちできないくらいの強さを持ってるのは当然だ。
武器を手にしたところで、油断すれば返り討ちにある可能性がある。
だからこそ、周囲の地形などを把握し、仕掛けられる罠は可能な限り設置したかった。
そんなものを用意するだけの余裕も無いし、そもそも技術がないが。
だが、相手の弱点や手にした武器の特性を聞き出し、なるべく上手くやれるよう考えていく。
二日後。
迫ってくる保護専用の機械が見えてきた。
一体だけではない。
四体で行動するそれらは、一人で対処するしかない身からすれば大きな脅威であった。
やってくるそれらを銃に取り付けた狙撃鏡ごしに見て、緊張を高めていく。
ほぼ一直線の通りの中に車を止め、その上で相手が近づいて来るのを待つ。
車はいつでも動かせるように、動力部を動かしたままだ。
その上でいつでも銃を撃てるようにしている。
弾丸の有効射程は数百メートル。
まとめに命中させようとしたら、更に接近するのを待たねばならない。
遠距離での射撃のために狙撃鏡を付けてはいるが、それでも近距離の方が命中させやすい事に変わりはない。
なるべく近くで、それでいてすぐに逃げ出せるように。
そう考えながら敵の接近を待つ。
狙撃鏡の中に敵をとらえた所で引き金を引く。
連射に合わせてあった銃から数発の弾丸が飛び出す。
それらは狙い通りに捕獲機に当たり、外板に穴を開けた。
命中した捕獲機は内部構造を損傷させ、機能の幾つかを停止させる。
すぐに全ての機能が停止するわけではないが、動きは格段に低下する。
それを見て他の三体が動きを変えていく。
並んで動いていたのが、不規則に左右に揺れていく。
狙いを付けさせないようにしてるようだった。
それくらいの融通はきくらしい。
面倒で厄介な連中だと思いながら車両を動かす。
数が多いうちは出来るだけ移動して攻撃を続ける事にしていた。
一体相手でも手間取るというのだ。
数が上回ってる間は出来るだけ距離を置いて対処するしかない。
例え一対一になっても、接近するのは危険ではあるが。
それでも、数が減るまでは足(車両)を動かすしかない。
出来るだけ広い場所には出ないよう気をつけながら移動していく。
広い場所で敵が広がってしまったら対処が出来なくなる。
なるべく狭い通路の中で、相手の動きが制限されてる所で攻撃を仕掛けねばならない。
上下左右の動きが少なければ、それだけ当てやすくなる。
そういう通路に引き込むべく車両を動かしていく。
大事なのは敵の位置で、これが分かってるかどうかで対応が変わってくる。
幸いにも立体映像であらわれる存在が敵の現在位置を教えてくれるから、この問題は解決出来ている。
あとは上手く立ち回って、敵を撃破出来るかどうかになってくる。
戦闘経験がないのでそこは不安だが、今はどうにかしてやっていくしかない。
ありがたい事に、車両の方が速度は上である。
こういった有利な部分を上手く使っていければ勝機もある……と思いたかった。
逃げては撃ち、逃げては撃つ。
繰り返すその動きで、敵は更に一体を失った。
残り二体。
戦力差は一気に縮まった。
それでもまだ不利なので、距離をなるべく保っていく。
その距離を保ったまま、細い通路に入っていく。
幅も高さも数メートル。
他の場所に比べれば格段に狭い。
回避行動を取るのも難しい。
自分自身の動きも大きく制限されるが、相手は更に不利になる。
捕獲機の利点は、地上を歩いたり走ったりしてる事ではない。
空中に浮かんでる事にある。
飛行と言うほど自由自在に動いてるわけではなく、高度もそれほどとれるわけではない。
しかし、左右だけでなく上下に動けるというのはやはり大きい。
動ける範囲が大きければ、回避行動の範囲も広がる。
そんな相手に広い場所で対処しても不利なだけ。
だから、この場所に誘い込んだ。
上手くいくかどうか分からなかったが。
こればかりは賭だった。
それは成功しつつある。
上手くついてきてくれた敵を見て車を止める。
そして、荷台に置いてあった即席武器を手に取る。
束ねた手榴弾を。
安全ピンを外して、一気に投げつける。
迫ってくる捕獲機に向かっていったそれは、爆発で相手を吹き飛ばす。
残念ながらそれだけで捕獲機を破壊する事は出来ない。
相手もその動きは見てるし、回避行動を取る。
大事なのは、相手の動きを制限する事。
爆風から逃げようとすれば、おのずと動きは決まってくる。
その分狙いも付けやすくなる。
すぐに手に取った銃で捕獲機を狙い、引き金を引く。
連射で飛んだ弾丸が相手を貫く。
捕獲機の一体は体中に穴を開けてそのまま活動を停止した。
残り一体は一気に距離を詰めてくる。
そちらも銃で撃とうとするが、引き金を引いても弾丸が出ない。
弾切れだった。
弾倉を交換する余裕はない。
見切りを付けて銃を手放し、用意してあったもう一つの武器を手に取る。
本来の用途からすれば武器ではないのだが、殺傷能力や破壊力は攻撃に用いるに十分ではあった。
他に、用意してあった別の物も幾つか手に取る。
それを手にして接近してくる捕獲機に向かっていく。
相手は、丸っこい胴体にある開閉口を開き、中に収納してあった捕獲用の網を放とうとする。
そこに向けて、手にしたものを投げつける。
何の変哲もない鉄棒。
ガラクタとして置いてあった何かである。
それが放たれた網に絡みつき、狙いが逸れていく。
広範囲に広がるものなので、多少狙いがはずれても問題はないものだった。
なのだが、放たれた瞬間に棒きれに当たったものだから、ろくろく広がる事もなくそのまま地面に落ちていく。
すぐさま別の開閉口から新たに網を投射しようとするが、それも手遅れだった。
接触するほど距離は近づいている。
網という道具の特性上、それほど距離を開けて使うわけにもいかない。
そのためどうしても相手に接近せねばならない。
今はそれが裏目に出た。
捕獲機の基本は、相手に接近して網で絡め取る事にある。
その為、距離が離れていてはほとんど何も出来なくなる。
接近は捕獲機の基本的な行動となっている。
それが分かってるから、対抗手段として遠距離攻撃が求められる。
銃はその基本的な手段となる。
だが、接近しすぎても今度は問題となる。
投射武器の網は目前まで接近した相手には使えない。
使える範囲が決まってるのがこの武器の欠点であった。
もちろん、接近した場合の、接触と言ってよい距離に近づいた場合の道具も装備されている。
すぐに捕獲機はそれを用いて相手を捕らえようとした。
だが、相手が手にした道具がそれを遮った。
手で持てる程のバーナー。
トーチとも呼ばれる、着火委・溶接のための道具。
それが最大火力で捕獲機を貫いた。
燃料を極限まで小型化し、火力は可能な限り最大限にまで増大したそれは、容易く捕獲機の外板を溶かしていった。
瞬間的に伸びた炎は、鋭い刃よりも簡単に捕獲機を貫通する。
そこから縦に切り下ろされ、胴体を二つに切り裂いた。
内部で様々な回路が切断される。
更に熱の刃はもう一度上に向かって振り上げられ、まだ繋がっていた上部を切り裂いた。
鉄の溶ける臭いと共に、捕獲機は左右に分かれて転がった。
それと同時に溶接用バーナーの炎が消える。
最大火力で用いた場合の威力は、このように機械を両断するほどである。
しかし効果時間は短く、射程も長いとは言い難い。
使うとしたら接近戦でしか用いる事が出来ず、そうなるとかなりの危険が伴う事になる。
だが、接近された時には切り札として使えるかもしれない……そう思って手元に置いておいた。
本当に使う機会があるとは思わなかったし、出来ればそうならないよう願ってはいたが。
(助かったな……)
役目を終えたバーナーを見てそう思った。
もう二度とここまで接近するような事が無いよう願いつつ。
『終わったな』
立体映像が状況を短く説明した。
『他の三体もまともに行動できる状態ではない。
いずれこちらに来るだろうが大きな脅威ではない。
仕留めるのは簡単だ』
「ありがたいね、まったく」
楽をしてここまでこれたわけではない。
最後は危険を覚悟で突っ込まざるをえず、かなりの冷や汗をかいた。
『あとは捕獲機から核を抜き取ってもらいたい。
それが燃料になる』
「はいはい」
人使いが荒いなあ、と思いつつ言われた通りにする。
バーナーに新しい燃料を取り付け、捕獲機を解体していく。
先ほどより熱量を絞り、立体映像の指示通りに捕獲機を解体していく。
その体の中から、核と呼ばれる部分を取り出すために。
『──それだ』
指されたそれは、体の中央近くにあった。
青く光る水晶のような結晶体。
それが捕獲機の原動力であるという。
(石油とかじゃないんだな)
そんな感想を抱きながら核を取り外す。
これを加工して車両の燃料などに用いるらしい。
『それと、捕獲機の一部も荷台に。
これらも再処理して原材料にすれば様々な道具に出来る』
「溶鉱炉にもでもぶちこむのか?」
『似たようなものだと思ってもらえれば良い。
全くその通りというわけではないが』
「まあ、持っていけばどこかで役に立つって事か」
『そういう事だ』
どういう事か分からないが、とりあえず言われた通りにする。
持ち運べる位に細切れにして車両の荷台に載せる。
さすがに全部は載せられないので、余った分は諦める事になる。
「それじゃ、行きますか」
銃に弾丸を詰め直し、来た道を戻っていく。
銃弾を浴びせはしたが、まだ完全に倒したわけではない捕獲機が残ってる。
それらも倒して核を回収せねばならない。
燃料などの製造は、現在ほとんどされてないという。
他の道具も同じだ。
人を保護した場所では生産されてるらしいが、それ以外の場所では生産が停止されている。
設備自体はあるのだが、人がいないから動かす必要がない為である。
なので、これから生きてくならば必要なものを自前で調達する必要がある。
材料を設備のある所まで運搬し、必要な道具を作らせねばならない。
核や倒した捕獲機の一部を持って行くのは、今後の生活の為だった。
生きていくためには敵から、人を捕獲しようとしてる存在から逃げねばならない。
にも関わらず、敵を倒してその生命源などを奪わなければならない。
矛盾というか、二律背反というか。
おかしな話になってるもんだと思った。
事を全て済ませてから移動をしていく。
次の目的地は、核や回収したくず鉄(としか言いようが無い)の再処理施設。
そこで今後必要になる道具を調達する事になる。
また長い移動になる。
「今度は、七百四十キロか……」
なんでこんなに広いのかと嘆きたくなる。
一日かければ到着出来る距離だが、だからと言って楽というわけではない。
何より怖いのは、それだけの距離がこの場所では取るに足らない小さなものでしかないという事だった。
この場所の果てがどこにあるのかを知ってる者はいない。
立体映像であらわれる存在も、正確には把握してないという。
『時間と空間から切り離された場所に作られてるから、理論上無限に拡大出来る。
そして、拡張工事は今もまだ続行されている』
輪廻転生を自由自在に操るこの文明は、そんなものすらこしらえたという。
いずれ寿命が来る星の上から、永遠に存続する場所を自らの手で作り出すために。
だからこそ空間や時間から切り離された異空間に自分達の世界を作り出したのだとか。
壮大すぎて理解や把握が追いつかなくなりそうな話だった。
「住む場所には困らないだろうけど……」
それだけの広さがあるなら、土地問題は起こらないだろうとみみっちい事を考える。
それくらい単純化して考えなくては理解が追いつかなかった。
「けど、もうちょっと楽に移動出来るようにしてくれないもんかねえ」
それだけはどうにかして解決したかった。
ともあれ、転生した男の新たな人生はこうして始まった。
誰もいない巨大な都市にて。
というような話を考えてみました。
サイボーグとか銃とかが出てくるような話とかを転生もので出来ないかと考えた結果であります。
似たような話は既に存在してるかもしれないけど。
話としてはもうちょっとどうにかしないといけないなとは思う。
が、とりあえず出すだけだしてみるかと思って、こういった形で出してみた。
短編にするには長いかなと思ったので連載形式に。
とはいえ、そんな長くもないけど。
もし連載する場合は、もっとメカとか出したいもんです。
サイボーグ的なものとか、パワードスーツ(動力付き装甲服)とか、ロボットとか、AIとか、車両とか、飛行機とか。
宇宙戦艦とかも捨てがたい。
もちろん、コンピューターネットワークは欠かせません。
意識をネットワークに直結するとか話に出してみたいもんです。
実現するか分からんですが。
何は無くとも、今やってる連載をどうにかしないといかんですけどね。
そちらを終わらせてからこちらに手を付けようかと。
以上、だらだらとした後書きでした。