試作4話
車輪がタイルを踏みながら先へと進んでいく。
時速八十キロ以上の速度を出しているが、それほど危険があるわけではない。
他に走ってる車もいないし、障害となるような物もない。
急激な曲がり角があるわけでもない。
運転は極めて楽なものだった。
その途中、立体映像の存在から話を聞きながらであっても、問題無く進める程に。
「なるほどね……」
説明を概ね聞き終え、状況を大分把握出来た。
信じられないような内容ではあるが、否定する材料もない。
本当か嘘かは分からないが、今はそれを信じるしかない。
「まあ、人っ子一人いないこんな場所だし、あんたの言ってる通りであってもおかしくはないだろうけどさ」
『信用できないか?』
「証明する事が出来ないじゃん。
実際どうだか分からないわけだし。
今は、信じるか疑うかのどっちかでしかないでしょ」
出来れば他にも情報を手に入れて、より正確な所を知りたかった。
しかし、そんな情報があるわけもない。
「武器を手に入れたらさ、ここの説明をしてるような場所にも連れていってくれよ」
『承知した』
その言葉を今は信じるしかない。
「しかし…………天国ねえ」
呆れるように呟く。
「本気でそんなもん作ろうとしたのかよ」
立体映像の話を聞いて抱いた感想である。
「死んだ後も復活して生き続けたいってのは分かるけどさ。
そんなものを本当に作っちまうとはね」
それだけ発達した文明であったという。
霊魂の存在すら突き止めるほどに。
その技術を利用し、死んだ後も転生して復活出来るようにしようとしたという。
そうやって、実質的な永遠の命を手に入れようとしたらしい。
死から逃れる事が出来るという欲望が後押ししたというその計画は、何世代もの積み重ねの果てに完成した。
その場所がここである。
死んで、肉体から離れた霊魂を検出すると、それを元に肉体を再構成。
すぐに復活するという。
人は死の恐怖から解放された。
それらを制御する機構が想定外の行動を取るまでは。
「そんで、転生を制御する電子頭脳が、人を支配していったと」
『霊魂、および肉体の保護のために最適を求めた結果だ。
だが、自由を奪う事になった』
「そうなる危険は考え無かったのか?」
『想定し、各自の自由を最優先にするよう設定されていた。
しかし、霊魂と肉体の保護という最も基本的な要件の遂行が求められた』
「それで皆を閉じ込める事になったと」
『最も効率的に転生を、これによる永遠の生命を保つための措置であった』
「まあ、大失敗だったわけだ」
『結論からすればそうなる』
「上手くいかないもんだね、色々と」
呆れて嘆きたくなった。
何でもそうだが、当初想定していた事と違った事態が起こりうる事はよくある。
それを考えてはいたのだろうが、事前に立てた対策も効果は無かったようだ。
それもまた、想定外の事態の発生によるものだろう。
人間の知恵では及ばない事などいくらでも起こりうる。
霊魂の確認や転生すらも自在に捜査する事が出来た文明も例外では無かったらしい。
「それで、俺はなんでこんな所に?」
最も基本的な質問にはいっていく。
「転生が出来るってのはいいけど、俺はこの世界の人間だったわけではないはずだ。
それが何でここにいる?
どうして復活したんだ?」
『世界は幾つも存在する。
霊魂はその世界をまたぐ事がある。
この世界に存在する霊魂はこの世界にて転生を繰り返すが、外からの来訪者を妨げるものではない』
「だから、俺みたいなのが出てくる事もあると」
『偶発的な可能性は常に発生する。
それらの全てを制御する事は不可能だ』
「そしてここに来た以上、ここから別の世界に転生する事は出来ないと」
『その通り』
残念な事だった。
これでは、死んでこの世界から逃れるというわけにはいかない。
永遠にこの世界で転生を繰り返す事になる。
死後の世界があるようなものなので、死ぬ事への恐怖は幾分薄らぐ。
しかし、ずっとこの世界で保護という名の監禁の恐怖と隣り合わせと思うと気が滅入る。
「監獄じゃねえかよ……」
死から解放された世界は、そう言い表すしかなかった。
『捕らわれて監禁されるのは、我としては本意ではない』
運転する隣からの言葉に、
「だったらどうすりゃいいんだよ」
と尋ねる。
言葉使いが荒くなってしまうが、絶望的な状況を聞いた後だと感情的になる。
それに対して、
『有効な解決手段は模索中だが、いまだにはっきりとしない。
現状では、保護しにきた物を撃退する以外に有効な手段は無い』
「戦えって事か……」
どうもそれ以外に道はなさそうだった。




