試作3話
「ここか」
居住区と呼ばれていた場所に到着し、中へと入っていく。
この巨大な建築物の中にあって、書く区域の明確な境はほとんど存在しない。
車両や燃料、食料が置いてあった場所もそうだが、通路と思える場所の途中に唐突にそれらがあらわれる。
居住区も同じで、明確な境があるわけではない。
通路なのか広場なのか分からない空間に面した壁。
その中に人が住める部屋が存在している。
外部から見分けを付けにくい事に多少の違和感をおぼえる。
マンションやアパートのような集合住宅でも、建物そのものは他と区切られていた。
それに比べてここは、境界線がない。
それが、何となく違和感になっていく。
慣れの問題かもしれないが、どうも気になって仕方がない。
内部はホテルやアパートのようになっており、基本的にワンルームタイプの部屋が並んでいる。
外見はともかく、さすがに内部はちゃんと作ってあるようだった。
その中の一つに入り、風呂に入っていく。
それほど汗をかいてるわけではないが、さっぱりとしておきたかった。
ここまで運転しっぱなしだった疲れもある。
お湯でそれを洗い流してしまいたかった。
タオルのようなものは無く、温風で水滴を吹き飛ばすようになっていた。
いかなる仕組みなのか分からないが、ほんの数秒ほど風が当たったと思ったら、体の水滴が消えていた。
寝床も同じで、布団のようなものはない。
眠れば適度な温度に調整され、風邪をひくような事は無い。
かなり進んだ技術で出来上がってるようだった。
寝転ぶベッドらしきものも、横になった瞬間に固さが変化した。
適度に体を受け止めるように変形し、感触も柔らかなものになる。
それでいて沈み込む事もなく、体を受け止める。
驚きはしたが、その感触は不快なものではない。
睡眠に適した形になったベッドに横たわりながら、深い眠りにおちていく。
目を閉じると、照明も程よい明るさに落ち、睡魔を誘ってきた。
思った以上にすっきりと目が覚め、出発は快適なものとなっていく。
武器のある所までここからだとかなり距離があるという。
その出だしが好調であるのはありがたかった。
この先どうなるか分からないが、さい先はよい。
アクセルを踏み込み、目的地へと向かっていく。
その隣に、昨日と同じように立体映像が浮かんできた。
『昨夜はどうだった?』
「かなり快適だったよ」
『それは結構な事だ。
この先、かなりの長旅になるから、休息を事前にとれた事は喜ばしい』
その言葉に、少しばかり不安をおぼえる。
「それで、どれくらい離れてるんだ?」
『一千七百八十六キロ。
現在の速度で、およそ三十時間ほど走行すれば到着する』
「…………」
『途中、休息や食料と燃料の補給が必要になるので、まっすぐに向かうわけではない。
途中の行程を考慮すれば、おそらく到着は四十時間後になると推定される』
「それって、このまま車で走った場合だよな」
『もちろん。
間の休息を入れれば、おそらく三日から五日の行程になると思われる』
思った以上に厳しい旅になりそうだった。
『先は長い。
途中で何が起こるか分からない。
その場合も適切な行動をとるよう願う』
「はいはい」
呆れて返事が適当になった。
「ま、そんだけ余裕があるんだ。
ここの事とか色々聞かせてくれや」
暇つぶしにはなるだろうと思ってそんな事を言う。
立体映像の存在は『承知した』と言って、要望を聞き入れた。
それから運転してる間は、この場所についての説明・解説をBGMにして進む事となった。




