王様の耳はロバの耳 (もうひとつの昔話18)
ある国に、とてもいばった王様がいました。
この王様。国民の言うことにちっとも耳を貸さないので、妖精からロバの耳に変えられてしまいました。
このことが知れたら一大事。
王様はロバの耳を隠すため、いつも大きな帽子をかぶっていました。ですからだれも、王様の耳がロバの耳だとは知りませんでした。
ある日。
王様は伸びた髪を切ろうと、町の床屋をお城に呼び寄せました。
「おまえが見たことは、だれにもしゃべってはならんぞ。しゃべったら死刑にするからな」
王様はそう言って帽子をぬぎました。
――わっ!
床屋はおもわず声が出そうになりました。
王様の耳はロバの耳だったのです。
床屋は口をつぐんで王様の髪を切りました。
お城からの帰り。
――王様の耳がロバの耳だなんて。そんなこと、だれも知らないだろうな。
床屋はだれかにしゃべりたくて、どうにもウズウズしてきました。
その思いは、それからもふくらむばかりです。
そこで床屋は教会へ行き、神父にすべてを相談しました。
「このままだとだれかにしゃべってしまい、わたしは死刑になります。どうすればよいのでしょう?」
「穴を掘って、その中にしゃべりなさい。秘密を埋めてしまうのです」
神父はそう教えてくれました。
床屋は町から遠く離れた野原に行き、秘密を埋めるべく深い深い穴を掘りました。
「王様の耳はロバの耳―」
深い穴の奥に向かって、床屋は何度も何度も大声で叫びました。
「王様の耳はロバの耳―」
そのうち胸がスーとしてきて、しばらくは黙っていられそうでした。
床屋は穴の中に秘密を埋めました。
床屋が帰ろうとしたときでした。
どこからか、だれかの叫び声が風に乗って聞こえてきます。
「おきさき様のシッポは、馬のシッポー」
床屋は声のする方に近づいてみました。
するとそこには、
「おきさき様のシッポは、馬のシッポー」
地面に向かって、何度も叫んでいる服の仕立て屋がおりました。
その仕立て屋。
床屋がお城に呼ばれたとき、おきさき様のドレスを仕立てるよう命じられていました。
――アイツも秘密を知ってしまったんだな。
床屋は仕立て屋に同情しました。
馬のシッポはふさふさして長い。おきさき様はドレスで隠すのも苦労するにちがいありません。
――おきさき様、なんてかわいそうなんだ。馬のシッポがはえてるなんて。
おきさき様にはもっともっと同情しました。
床屋は自分のお尻に手をやりました。
――よかったよ、オレのは短くて。
そこにはクルンと巻いた、短いブタのシッポがはえていたのでした。