04・汚い欲望を持った美少女をクレンジングでごきげんよう Bパート
ちゃっちゃっちゃちゃちゃ~ら ちゃっちゃっ♪
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「まったく、会場へ入ったら葬式会場みたいなテンションで予は身の置き所も無かったぞよ」
何故に国王まで付いてきた?
「それで、この少女が件の事件を起こした少女かえ?」
「はい。あの、王様、倉田さんは何か罰を受けなければならないのでしょうか?」
それは無い。剣を抜いて国王に斬りかかったとかならともかく、友達同士のじゃれ合い程度の話だ。
「ああ、いや、心配めさるな。単に予が心配じゃっただけじゃ。それに」
国王が俺の方を期待するような目で見ている。
「新しい魔法医術を使うのであろう? 記憶の消去とか。上手く使えれば我が国に入って来た間者なんかをパーにして敵国に帰せないかのう?」
「そんな非人道的な事に使うつもりは無いぞ」
「なんじゃ。連れないのう」
「そんな事よりも」
俺は先生が連れて来た五人の少女に話を振った。先生の話と倉田さんの記憶のこともかいつまんで説明した後、俺は頭を下げて彼女らに懇願した。
「この倉田さんがさっきあんな暴れ方をしたのは、理由としては、俺が事情を知らずにしずくちゃんの傷を治した事が原因だ。すまない。だが、そこに至るまでの人生で彼女は余りにも辛く厳しい生活を送って来たらしい。しずくちゃんの傷が彼女にとって母親との絆だった、なんてのはしずくちゃんにとっては迷惑な話だと思うが、そんなものにも縋らなければ彼女は平静を保てなかったようだ」
「確かに美津江さんのお母様は気の毒な最期でしたが、美津江さん自身は今では私のおじいさまの娘の一人です。決して孤独な訳ではありませんわ」
明乃嬢が俺の言葉に異議を申し立てる。確かに日本での思い出が全部が全部悪い訳でも無いだろう。
「だからこそ、恥を忍んで君達にお願いしたいんだ。今の時点で倉田さんの心を救うには一度人生をリセットして記憶をデリートしてやるのが一番手っ取り早い。他の方法では迂遠すぎるし、どこかにしわ寄せがくる確率が高い。この際、異世界で新しい自分をスタートさせてあげる方が、父親の記憶からくる粗暴さ、不幸な生い立ちからくる嫉妬心、なによりも、他人と仲違いする自分自身に対する嫌気、そんな負の感情と縁を切れていいのではないか? ただ、一度君達の事も忘れてしまうかも知れない。その時は、君達、もう一度友達になってやってくれないか?」
確かに、ある意味本人の希望を無碍にして記憶を消す訳だから、非人道的とも言えるかも知れない。それでも、この歳で人を呪って生きて行くなんて辛すぎる。だから、これは俺のエゴだ。そう、確信犯になってでもこの施術を進めるつもりだ。
「わた、し、は」
最初に反応したのはしずくちゃんだった。
「倉田さんと、今までの事は忘れて仲良くなりたい。わたしの傷は勇者さまが直してくれましたから、もう何も倉田さんと争う必要もありません。もしも、皆さんが許してくれるなら私は倉田さんとお友達になりたいです!」
「相川さん……」
明乃嬢が何やら感動したような顔をしている。
「わたくしこそ、意地悪な事をしてごめんなさい。身内になった倉田さんが不憫で貴女に辛く当たってしまいましたが、こんなわたくしを許してくれますか?」
「もちろんです。五条さん!」
「私も……今までミッチーと一緒になって意地悪してごめんなさい。他の二人の分も謝りますから許して」
「そんな! 南さん。私は、気にしてません。あの日だって、先生を呼びに行ってくれたのは南さんじゃないですか? もし、あの時先生を連れてきていなかったら、もっと決定的な事になっていたかも」
「「私達も、ごめんなさいっ!」」
「喜多さん。西さんも、ありがとうございます。でも、今は倉田さんの話です。私は倉田さんの心が少しでも軽くなるならこの話、やるべきだと思います」
「ええ、ええ。勇者様、是非お願いします。私の叔母を救ってくださいませ。新たに友達になる事位リスクでも何でもありませんわ!」
「「「お願いします」」」
どうやら、話は纏まったようだ。
「ありがとう。必ず倉田さんは救ってみせる!」
俺はそう断言すると、最後の懸念を説明した。
「日本の記憶全てが無くなる訳だから、こちらの世界で生きていた事にしようと思う。名前は、そうだ、さっき君が言ってた仇名」
「ミッチー?」
「そう、それだ! 新しい名前はミッチーにしよう! とりあえず、基本設定は俺の妹。君達は友達。そんな所でいいかな? 後はアドリブ、と、しようか?」
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目が覚めるとすっきりした感覚でした。
すっきりし過ぎたのか、名前が思い出せません。そもそも、私は誰? ここはどこ?
「目が覚めたかい。ミッチー」
「誰? ですか?」
「俺は君の兄だよ」
「「「「ミッチー!」」」」
優しそうな顔をした女の子たちがいました。
「あなたたちは、だぁれ?」
「わたくしは五条明乃。あなたのお友達ですわ」
「私は喜多八葉」
「西一子よ」
「南鈴音。ミッチーの親友だよ」
「相川、しずくです」
「みんな、ミッチーを心配して集まってくれたんだよ」
「私は、長谷見沙紀。みんなの先生やってます」
「ジョセフィンです。お兄様の婚約者です」
「その父親の王様じゃ!」
「聞いとらんがな。どさくさに何アピールしてんだ?」
お兄ちゃんという人がつっこみ? を入れてます。
「? 覚えてない、よ?」
「ちょっとした事故に会って記憶に障害が出ているそうだ。なに、心配することはないさ。みんなが君を覚えている。それに、何だかすっきりとした顔をしてるよ?」
「なんか、長~い夢をみていたの。最初は怖かったと思うけど、内容は忘れちゃった。後の夢はと~っても幸せな夢だったよ! お兄ちゃんが出てきてた。なんか、素敵な夢だったなぁ」
忘れちゃったけどね。
☆☆☆
「そうか。俺、出てきてたか」
ここだけの話、日本の記憶を消した部分がぽっかり空いていたので、そこに「お兄ちゃん大好き~」な記憶を書き足しておいた。空虚な記憶の隙間を残しておく方が危険だと思っての緊急措置ではあるが、この位の役得はあってもいいだろう。
「わたくしは? 出て来ませんでしたか?」
「私は?」
「一子は?」
「わたしわたし!」
「……」
「そういえば、みんな出てきてたと思うよ? えーと、しずくちゃん?」
「はい?」
「しずくちゃんにお友達になりたいって言われたと思うよ。わたしでよければ、お友達になってくださいっ!」
にぱっ! とした笑顔で右手を差し出した美津江、いや、ミッチーの手をしずくちゃんが握り返した。
「ええ、ええ、よろこんで」
ちぱちぱと大人組が拍手をする。つられて子供達も。これからの事を思うと不安もあるが、落ち着く所に落ちついたのではなかろうか?
「ところで、国王がこんな所で油売ってていいのかよ?」
「! い、いかん! 会場に戻らねば。それでは子供達。またの会う日を楽しみにしておるぞ!」
ばびゅーん、と去って行く国王の慌ただしい姿を見て俺も子供達も半笑いだった。
「国王様も大変ですね~」
先生一人が同情していたが、自分でサボって来ただけなので同情の余地は無いぞ。