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幸せ♡ロリコンえんぱいあ♡  作者: おまわりさ~ん こいつです~
第一章 7年生たちの憂鬱
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03・汚れちまった悲しみにぃ~幼女の青春もなんぼのもんじゃい! Bパート

トゥルルル 「ル○ンザシャ~ド」「ありっ?」

「そういう事でしたの。つまり、相川さんは奨学金を不正に受給する為に見知らぬ高校生を誑かしてカンニングペーパーを作らせたりしていた。その企みがバレたら自爆覚悟で諸共相手を害しようと」


「そうなんです。私達はたまたま彼女達が図書館で揉めている場面を目撃して……いやらしくも、相川さんが男に体を触らせて油断した隙に本棚を倒して男を殺そうと……」


「な、なんて恐ろしい……判りました。そんな人にこの学園の秩序を蹂躙させる訳には参りません。かくなる上はおじいさまに事情を申し上げて、相川さんは退学にしていただきましょう」


 明乃さんはそう約束してくれた。ふふん。案外チョロイのね。憧れの存在だった彼女すら掌で躍らせる事に成功した私は、最早恐れるものも無い、全能の存在。そう、信じてしまう程にはやはり幼かった。


 調子に乗って詰めを誤ってしまったのだ。


 だから、あんな悲劇が降りかかったのだ。



「もうお終いよ、相川。この際はっきり言うけれどあんた、自分でこの学校辞めちゃいなよ。その方が誰にも迷惑がかからなくていいでしょ?」


 数人のクラスメイトと共に取り囲んで最後通告をしてやった。なんて親切な私。


「……」


「ハァ? はっきり言えよ! コラぁ!」


「わた、し、達にはもう、何処にも行く場所なんて、無い、のに、どこ、にも、行けない、の……」


「知るか! 行く気が無いなら行く気になるまで痛めつけてやる!」


 私は相川の髪を取って引きずり倒すと、相川の頬に貼られた絆創膏を無理矢理剥がした。


 一瞬、顔に残った傷痕が思ったよりも大きく怯んだが、むしろ、それを見ていい事を思いついた。


「あんたの傷、もうすぐ直りそうよねぇ? でも、そんな事許せる訳ないじゃない?」


 揉み合った時に倒れた誰かの机から落ちた洋裁鋏が私の目の前にあった。


「その傷、もっと大きく切り開いてあげようか? 二度と鏡を見る事も出来ない程、醜く整形してやるよ!」


 私は笑っていた。後から考えると自分でも引く位異常なテンションだったと思う。実際、クラスメイトの一人はビビッて先生を呼びに行く位。


 鋏を振り下ろし、グサリ! グサリ! 相川の頬を抉る。生意気にも悲鳴一つ上げない相川に怒りが爆発した。鋏は頬を貫通している筈だが、思ったよりもリアクションが無い。その様子が余裕あり気に見えて何とも憎らしい。グサリ! グサリ! 四度刺した所で、私は当時の担任に静止させられた。




 結局、相川は救急車で搬送され20針程縫う重傷だった。


 そして、私は警察病院での精神鑑定の結果、極度の心身喪失状態だとの事で一年程の入院を強制された。救急車が動く程の怪我をさせた以上、無罪放免とはならなかったのだ。


「お嬢さんの心身喪失状態時の異様な凶暴性は、過去の虐待が原因ではないでしょうか?」


 医者は、母に対してそう説明した。母が父と離婚したのは、そもそも父の暴力に耐えられなかったからである。


 父は元々札付きのワルだと自ら吹聴して歩いているような男であった。

 街を歩いては、目に付いた相手にいきなり殴りつけ、それから因縁を付けて回るような暴力的な男で、当然その凶暴性は母や私にも牙を剥いた。正直10歳を超えるまで生きていられたのが不思議な位で、来る日も来る日も父に怯えて生きて来た。そんな男なのに、これまでその罪を只の一度も償う事無く普通に暮らしていられる事に不思議な気持ちもあったと思うが、そんな気持ちもいつしか摩耗して消えて行った。


 そんな男の暴力性が私の中にもある。その事実に私は打ちのめされていた。


 だが、母はもっと打ちのめされていたのだろう。




 私の入院中、母はそう多くは面会に来なかった。見捨てられたのだろう、そう思うと、この原因を作った相川に対する憎しみがまた再燃した。一緒に居たクラスメイトにも、私を止めた担任にも。


 いや、判っている。全部自分が悪いという事も。


 だが、実際は私の起こした事件での民事裁判で忙しかったというのは後になって知った事だった。


 相川の父親と名乗る人物が事件を知り弁護士を連れて学園に来たのが事件の一週間後。彼は、相川とその母親を蔑ろにして、学校と直接民事裁判を起こし私や一緒に居た子たちの親と学校相手に総額一億円の損害賠償請求の訴えを起こしたそうだ。


 相川の父親もうちと一緒でゲスだったのだ。ざまぁ! とは、随分と後になって知った事実であるが。



 結局、賠償額は4700万円。学校が管理責任不行き届きで3500万。生徒が各300万という賠償金支払いで和解した。


 他の生徒の親は不満たらたらであったが良い所のお嬢様なので難なくポンと支払い、この事件を早く忘れようとしていた。しかし、うちは貧乏生活の母子家庭。300万なんて金は出てくる訳が無い。


 母は、この窮地を前にしても、


「大丈夫。美津江は何も心配しないでいいからね」


 と、最期に会った時には言っていた。実際、大丈夫な様にしてくれていた。


 母は、


 母は身辺の整理を終えた後、学園の理事長。つまり明乃さんのおじいさんに私の事を託し、


 自殺した。


 死亡保険金数千万円を私に残して。




 結局、愚かさが原因で大事な物を全て失ったのは私だった。


 私への教育資金と保険金だけは、しっかりと残していた母だった。もしも父に殺されたとしても、私にお金だけは残るようにとずっと昔から計画していたようだ。父の呪縛から逃げ出した後にそれが必要になるとは皮肉なものであるが。


 そうまでして残してくれた保険金も、賠償金と贈与税を差し引くと辛うじて私の卒業までの学費と生活費だけあるか無いかという程度。寄る辺も無い上に精神的に時限爆弾を抱えた問題児を引き取る事を当然母の両親も親戚も快く思っていなかった。


 救いの神はやはりこの人だった。


「あなた。わたくしの叔母になりなさいな。それが一番いい解決策だと思うわよ」


 一瞬、意味がわからなかったが、つまり、明乃さんのおじいさんが養子にしてくれるという事だった。


 元々学園の生徒が困った時に助ける用意は常にしてあったそうだ。


 一年後、私が復学した後で知った事だが、うちの母も相川の母もこの学園のOGであり、離婚後に夫から逃れる為のシェルターとしてこの学園の世話になっていたそうだ。


 今回は私の起こした事件が公に報道された所為で相川の父親に捕捉されたが、和解金には二度と子供と母親に近づかないようにとの手切れ金の意味もあったらしい。


 そういえば、私の父は離婚後顔も見た事が無い。元々興味が薄かったのか、向うも会いたいとは思っていなかったようだ。それなら最初からほっといてくれればまだしも家族の真似事位出来たかも知れないのに。


 そうして、復学すれば嫌でも相川の顔を見る事となる。とはいえ、クラスも遠く、遠目に見る程度ではあるが。相川の頬の傷痕。遠目にも目立つ傷が、今となっては母が生きていた証に見える。


 だから、あの傷が無くなった時は、母の生きた証すら奪われた気分になって、絶対に許せなかったのだ。



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