13・そして、伝説の戦士が50t Bパート
「そういえば、りえ? さっき言ってたエージェントとやら、どうなった?」
「そりゃあ、半数は無事に帰国させたわよ。残りの半数は【粉】になってもらったけどね。帰国させた奴らの目の前で」
うわーっ! 捕虜の人権とか、考えるだけ無駄だった。今のエルダードラゴンちゃんと同じ運命とは・・・
なんか考えると飯が食えなくなりそうなのでスルーして大事な事だけ聞いてみる。
「で、どこの国の間者だ?」
「なんとびっくり、ナンカンの忍者でござったよ」
ござ? あそこは懐柔して味方に付けたかったんだがな。しかし居るのか、忍者。
「死して屍拾う者無し」
まぁ、拾えんがな。粉末忍者じゃ。
「てっきり、ボーラ連邦あたりかと思っていたがな?」
「そちらが望みならそちらに罪をなすりつける手もありますよ? 要は国債をうやむやに出来ればいい訳ですから」
頼むから教育に宜しくない台詞をぽんぽん排出するな! さっきからガクブルしてるんだが。エルダードラゴンを倒したばかりのドラゴンスレイヤーさんたちが。
「どうしよう? やっぱり頼んじゃいけない人に力を授けて貰っちゃったんじゃ?」
「今更遅いっスよ。うちらの道は血塗られた道。もう後戻りはできないっス」
「……肯定。既にレベリングの為だけに多くの命を散らしてきた私たちが言えた義理ではない」
「いえいえ~ そんなに言われてる程怖い人達じゃないですよ~ お胸の豊かな人に悪い人はいません~」
それ、桜だけだから。しかしなんか、レベルが上がるごとに亀裂も大きくなっているような……
「だ、だいじゃぶ。俺達は怖くないよ~ ただ、政治の事になるとちょっとだけ聞かせられない話もしなきゃいけないだけで……」
「それ、もう誤魔化せてないのじゃ」
そうは思うがいわんといて。
ともあれ、ここにきて何やらこっちの陣営にちょっかいを掛けようとしている連中が居ることだけは確かなようだ。この数日のうちにも似たような侵入者がヨソノランドにも数多く現れているらしい。らしいというのは、あの宰相のジジイからの情報だが、あのジジイはあれで結構な武闘派だから、半端な間者では情報掴む前に返り討ちにされてしまう。今の所は重要な情報の漏洩は無いと思う。それこそ他国は続けて勇者召喚をしたという事実すら知らないはずである。
「だとすれば、こっちにまでリスクを背負って侵入してくる理由はなんじゃろうな?」
「多分、私達がこちらに侵攻した成果を秘匿しているという疑いを持っているのではないでしょうか? それこそ資源やら領土を奪っておきながら報告していないという風に思っているとしたら、彼らはヨソノランドと一緒にこの領地まで奪えるのでは? と考えていても可笑しくはないでしょう」
確かに、こっちが戦果を過少報告しているという可能性は疑うよなぁ。
「実際には戦争では何も得ていない上に、資源や切り取った領地は御主人様の個人的な戦果で今はまだ絵に描いた餅だ、では誰も納得はしないでしょうし、ましてや魔王と和解が成立しているという事情は、遠く離れた為政者たちには理解できない反逆行為と思われても仕方ありません。言うなれば私達が世界を敵に回した証拠ならちょっと調べればあちこちにばらまかれている状況です。それを穏便な形で債権国に納得して貰う事は最早出来ない相談かもしれませんね」
「いや、諦めたらそこで試合終了だよ? 俺としては別に人類を裏切ったつもりはないし、それは国王も承知している。だからこその叙爵だったし、ジョゼとの婚約でもあるわけだから」
「まあ、傍から見ればそのタイミングも不味かったかもしれませんね~ お金を貸した方からすれば疑心暗鬼になる理由はいくらでもありますからね。裏を取っておきたいという気持ちも判るのですよ~」
とはいえ、こうも度々怪しい奴を送って来られてもいい加減困るんだがな。
「やはり、ここは皆さんを他国に送り込んではどうでしょうか? 目には目を、埴輪ハオですよ」
いや、字が違ってるんだが。
「こっちもスパイ戦やるつもりか?」
「どちらかというとボランティア活動ですね。予定通り各チームを各国に送り込み、それぞれアイドルになって貰いましょう。そして各国で知名度を得られればそこで政治的発言をしてもらい、いざヨソノランド侵攻が始まったらこっちに戻って敵に対する防波堤をやってもらえれば、騎士階級はともかく徴兵された一般人相手には十分な精神的防壁になるんじゃないですか?」
「そう、うまくいくかしら?」
「うまく行かなくてもいいのですよ。その時は力押しで押し戻せばいいだけですし、それが出来る位には既に武力も持たせてあるのですから。要は新国家樹立までの時間稼ぎが出来ればいいのですから」
ほんと、こういう事考えさせたら一番上手い。
「それで、誰がどこへ行くかですけど……」
「俺としては、ナンカンに行きたいな。元々の国としての成り立ちが参考になりそうだし」
「じゃあ、あたしは戦乱の帝国群かしら? 戦いの機会には恵まれそうだし」
「それなら私がボーラ連邦ですね~? GDPの2割は引っ張ってきましょうね~」
「みきは……悪いがりえに付いて行ってくれないか? 一人だとこいつ何やるか分からないし」
「承知しました。無難にまとめ上げるのが使命ですね」
「何気にディスった――――っ!」
と、言う訳で俺達はそれぞれしばらく旅に出ることになった。それぞれ少女達を監督する役割として。
「留守はシガーとジョゼに任せる事になるが、内政にしろ実戦にしろ、いい様にしてくれればいい。と、いうか、俺が縛りをした方が碌な事にならないだろうからな」
「うむ、承ったのじゃ。ジョセフィンとなら朕も何も心配なく内政に打ち込めるしの」
「ミッチーちゃんの事はお任せください。内政組のしずくさんや明乃さん達も残りますから、寂しい思いはしないと思います。何かあれば時空魔法でお迎えに上がりますし」
問題はいくつもあるとは思うがそう言う事に決まった。とりあえず、嫁公認で若い愛人達とのお泊りデート、もとい、実態は幼女の引率であるが。まぁ、そこに国家の興亡レベルの事情が絡まる以上、決して緩い旅にはならないだろうが。実際やる事は大型の魔獣退治だったりする訳だし。
「にやけてますよ。御主人様」
だって、ねぇ。




