12・血のめぐり~ず~む~のめかに~ず~む~ Bパート
「それで、実はこちらにも先生に見て頂きたい患者がいるのですが……」
そう言ってミッチーの件をなるべく詳細まで説明して見解を聞いてみた。
「ふむ、記憶の消去と共に性格も穏やかになり甘える仕草も目立つようになったと……」
「ええ。それまでのストレスから解放された影響か、性格的にも幼児化しているようで、無理な魔法による影響かとも思うのですが……」
ひとしきり、考えを纏めているのか、毒島医師は連れの女性(例の亀甲バドガールさんだ)の髪をわしゃわしゃとパンクヘアーにして弄んでいたが、やがて一つの仮説を説いてくれた。
「領主殿は人間の性格が変化したことを気に病んでいるようだが、実は人の性格というものは脳への血流によって結構簡単に操作できるものなのじゃよ。基本、血流が悪くなると人は短気になり我慢が出来なくなる。逆に血流が良くなれば人は穏やかな性格になり優しく、人を信じられるようになる。かの少女も恐らくは幼少期から溜まりに溜まったストレスが一気に解消されたことにより、本来の純粋で甘えたがりな性格が前面に出て来たのだろうと思う。それ程心配する事はなかろうて」
「血流、ですか? そんな事で性格まで違ってくるものなのですか?」
「結構バカにはできない程に違うものですぞ。基本、西洋医学の薬は血流を悪くする性格がある物が多いのですが、漢方などは血流を改善して穏やかに身体の不備を直すという薬物で某も多く処方したりします。実はここにおる娘。ミメットと申すのですが、この者、買ってきた当初は直情熱血と言えば聞こえはいいが、周囲の見えぬ粗忽者で、無謀な相手に突貫した挙句罠に嵌り捕虜となった結果、奴隷として売られて来た者なのです。しかしこの五年程の間に某が薬効のある茶を煎じたりあらゆる魔改造を施した結果、LV25程度で頭打ちだったレベルが二年程の間に急上昇を始め、遂にはLV100の大台に登る程に成長しましたぞ」
「はいっ! ちょっと前までは何もない所でコケたりすることもしばしばでありましたが、ドクターの薫陶を受け、好き嫌いせずバランスのとれた食事と出されたお薬を愚直に飲み続けた結果、他国の騎士に力負けしていた貧弱な坊や? は姿を消し、今ではマッシブな躰と折れない心を手に入れましたぞ。見て下され。この上腕二頭筋」
「そんなキモい物見たくは無いわっ! まぁ、こやつの性格についてはレベルアップした事も少なからず影響していたと思うがの。この世界特有のレベルという概念も実は血流の良化という部分が大きく影響していると見ておる」
成程、確かに俺達自身も急激なレベルアップによってある程度余裕というものが出来たのは間違いない。りえなんかも凶暴性がやや穏やかになった気はするし、みきの場合も、あれだけコケてた娘がバランスの良い立ち居振る舞いを身に付けたのもそれが理由なのだろうか? 桜はあんま変わっていない気がするが……
「心は穏やかに、余裕が出来た事は間違いないの。だが、おぬしの本性は何も変わってないがな。追いつめられると博打に走るし、余裕が出来るとすぐ調子に乗るしの」
「ちょっ! 酷いです。ドクター!」
どうやらそういうものらしい。
「と、言う事はミッチーの件はそう気にしないで大丈夫なのですね?」
「経過は観察する必要があるがの。一度落ち着いたら某の所に連れてくるといい。ところで、某等の住処の件じゃが」
「御希望をお聞きして部下に探させましょう。私としても、是非我が街に住んで頂きたいと思っておりますので」
「それはありがたい。出来れば郊外でも良いので緑の豊かな地域に住めればと思っておる。水辺があれば尚良いがの」
「御希望に添えるよう考慮いたします。それにしても、レベルの概念が血流に影響されているとは知りませんでした」
「まぁ、観察する術が無いですからの。平たく言えば血圧が上300から500、下200から350になっても微動だにしない心肺機能と血管に生まれ変わる。そのことによって運動能力にボーナスが生じる事がレベルという概念なのだと仮説しておりますぞ。ぜひ領主様方にも医学の発展の為にもサンプルとして参加頂きたいものですがな。がっはっは」
こうして、第一回目の会談はお開きとなった。しかし、血流か。
数日は商業ギルドの紹介した宿に滞在するそうだ。なのでその間に住居の世話をする事を約束した。
「ああ、そうそう。建物に関しては手持ちがあるのでお世話無用ですぞ」
手持ち?
「先生は時空魔法のアイテムでもお持ちなのですか?」
「いや、アイテムではなく、某の固有魔法ですな。アイテムボックスというのですかな? 如何なるものも収納して持ち運ぶことが出来る重宝な魔法でしてな。某の生家を周囲の庭園ごと持ち運びできるようになった為、最初に居たガロマン帝国を出て諸国漫遊の旅に出たのが切っ掛けでこちらのシガー陛下とも知己になれました。終の棲家を探す旅ではありましたが、某の体が若返ったおかげで出来る事も増えましたでな」
「実はガロマン帝国でヤヴァい薬を蔓延させた所為で居たたまれなくなったというのが真相でありますがな」
「しーっ、余計な事言うなっ!」
ミメット女史に卍固めを決めた。アグレッシブなじいさまだ。いや、姿は10代なのだが。それよりも、完全に極まった所為でスカートがずり上がってきておぴゃんちゅが!
「こほん」
みきのおかげで正体を取り戻した俺と先生はばつの悪い思いを隠す為、再度土地の話を振った。
「み、皆様は何かご要望はありませんか?」
「そ、そうだな。何かあれば領主様に言うだけ言っておくがいい」
「私はお館様にお仕え出来れば特に」
「自分も今更住処にはこだわりません。と、いうかドクターのお屋敷のベッドとトゥッサン殿の料理さえあればどこでも天国でありますし」
「と、いうことらしいの」
「はあ、左様で」
こうしてこの日は屋敷の設置場所について何点かポイントを絞って候補地を提案する事を約束して散会となった。
「思った以上にダイナマイトなドクターだったな」
「思った以上にダイナマイトな乳でしたね」
会談では一言も話さなかった桜が話を振ってきた。お前が言うか? 峰不二子並の乳の持ち主のくせに。
「正直、どう思った?」
「あのドクターの持つ知識をプリキ○ア計画に活かしたいですね。何かいい薬を処方してくれないでしょうか?」
それは最早プリキ○アではなく強化人間だな。
「ムラサメ研究所をやる気はないぞ」
「あああっ、時が見える……」
その手の冗談を宗教家がやるのはどうなんだ?
「言葉の意味は良く判らんがとにかく凄いヤヴァ気な台詞じゃの」
シガーが判らないなりに何かを察した。




