11・西から昇ったお日様が東へへなーらさんせっとっ! Bパート
「もう、この際【クラン】を立ち上げてしまった方がいいのではないでしょうか?」
と桜が意見を述べるとプリキ○アを知らないシガーも同意した。
「亡国の姫君とそれを守るプリキ○ア達の戦記。絵になりますよね?」
「いや、まだ亡国してないから」
「いずれそうなりますって。それに広告を打つにしても準備期間は重要ですよ。ヨソノランドにうかつに攻めて来たおっちょこちょいは全て世界の敵に仕立て上げてみせますから。どうですか?」
うーん。正直魅力的な提案なのである。表向きの戦力として彼女らを矢面に立たせつつ裏の実行部隊として俺らが敵の兵站をめちゃくちゃにしてやれば普通に国家レベルの敵であれば怖い相手はこの世界には存在しない。
に、してもこういう意見がぽんぽん飛び出してくる桜さんこえー。あの生徒会のメンバーと比較すると彼女らのピュアさが良く判る。私立白鳥坂学園、いい教育をしていますなぁ。
「それにしても、お前、本当に14歳か? 一桁違っても不思議じゃない気がするんだが」
「正真正銘14歳ですよ、失礼な! まぁ、くぐって来た修羅場の数は並ではないと思いますが」
「で? 具体的にはどう育成していくつもりだ?」
「それもカリキュラムは出来ていますよ。先ず毎日起床は5時半。身支度をしたら直ぐにヒンズースクワットを5000回。腕立て伏せを1000回を2セット。腹筋200回を5セット」
「って、ちょ、ちょっと待て! なんだ? その頭の悪そうなカリキュラムは?」
「? 何言ってるんですか? そんなの朝食前の準備運動ですよ? 食事のメニューも鳥ささみ肉のボイルとノンオイルのツナに最低限の炭水化物と各種サプリメントを一日6食。午後は実戦訓練としてダンジョンに潜りつつレベルを上げて夜は整理体操として朝のメニューをもう一セット」
「お前はどんな超戦士を育てようとしてるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「朦朧としながらも汗のプールが出来る程自分の躰を苛めぬく幼女たち。素敵な絵面だと思いませんか?」
「それ以前に精神の壊れたマッチョ軍団が出来るだけぢゃね――か!」
いやだよ。そんな筋骨隆々なプリキ○アとか。完全にしくった。話を持って行く相手を間違えた。
「ま、冗談ですけどね」
「……は?」
「向うの世界でならともかく、こっちの世界ではレベル至上主義ですから、それ以外の育成方法に余り意味はありません。ま、私クラスになれば基礎のある方が腰を据えてレベルアップしても土台の差がモンスター相手の闘いで生きてきますけど、他国の雑兵相手に睨み効かせるのが役割のアイドルに対してそこまで求めても意味は無いですし」
「ほっ、ちゃんと用途は理解してるじゃないか?」
「だから言ったでしょう? 修羅場の数が違うって。勇者様みたいにいい所のお坊ちゃんで幼馴染と女中付で異世界へ来た人には判らないでしょうけど」
「何気にディスってんじゃねーよ!」
「これでも頼りにしてるんですよ~ 鉄血の勇者様の権能は他に比類なき【権能】ですからね。代わりが効かない分ご自愛頂かないと」
「やってる事は塹壕掘りから都市開発になっただけだけどな」
「私の【権能】は強力とはいえ、ありふれたもので他に代わりを出来る人は大勢います。でも、貴方のそれは、鉱物を抽出し、精製、圧縮、加工、量産、運搬まで一人でできる。どこのコングロマリットですか? 15世紀のヨーロッパ並の文化水準しか持たないこの世界では、生きているだけで600年程の格差を生み出すんですよ。貴方という存在は。正に『戦略生物兵器』!」
それって広田さくらの異名だったか?
「まぁ、以前にも言ったが、陸海空軍といった国軍というシステムは最早意味が無い。実際どこかの国を滅ぼそうとしたら、軍隊を派遣するより、自然災害を装っておけば無駄な費用をかけずに済む。後でお悔やみでも言った方が人道的だし、体裁もいい。それ以前に経済システムに介入して『乗っ取り』やら『売り浴びせ』でもした方が儲かる上に人的被害を出さずに済む。ついでにネットでディスってやれば最早回復不能なまでにやっつけられる。無理に派兵する意味なんかない。これをこちらの世界で真似してやったら、免疫の無いこちらの王族が俺達の尻尾を捕まえる前に世界は俺らの物になってるぜ!」
「オフコース! そういえば、以前アメリカでスカル&ボーンズが企画していた『神様を騙って第三世界の人々を誑かし実質奴隷化する計画』ってのがあったじゃないですか? あれってどう思いました?」
「それこそ、そのへんの国の発展が予想以上に早すぎて使う機会を失ったのが笑止だったな。あの辺の組織の連中こそお前が蔑む『お坊ちゃん』の集団じゃねーか。実際碌に何も出来ないまま立ち消えになった計画だろ? どのみちモノ本の神様が住まうこの世界では通用しない方法だよな」
「ですね~。お茶、もう一杯いかがですか?」
「いただきましょう」
ポットから湯気が立ち上ったところでうつらうつらしていたシガーが
「んが?」
と、目を覚ました。
「で、結局そのプリキ○アというのは何をするものなのじゃ?」
今更ながら俺らのやってる計画を理解していなかったシガーが聞いてきた。ホントに今更だなぁ。
「一番簡単に説明すると俺達の居た国で流行っている英雄譚だな。小さな女の子は必ずといっていい程に一度は通過し憧れる」
「ほう、必ず、というからには相当なイケメンが主人公なのだろうな」
「いや、主人公は俺ら位かそれより下の女の子だ。それも大抵複数の少女が主人公だな」
「! な、なんとっ! ずいぶんとドラスティックな物語じゃな。そんな物語に需要があるのかの?」
「そこにこそ重要な社会的使命がありますのですよ~ この物語を通じて少女達は自分が近い将来成りたい自分の姿というものを主人公に投影し共感する。その将来の夢、希望、そういったものを取り上げようとする悪の魔王と闘うというのが基本のストーリーですね」
「ふむ、つまりあの子らに朕を討伐させようと?」
喪黒福造みたいなジト目で聞いてきやがる。ためしに「ドーン!」ってやらせてー。
「どうしてそうなるっ! おまえのような政治的な立場としての魔王ではなくて、絶望だとか妬み嫉みとか、そういった概念の権化としての魔王が敵役だな。そういったものとの闘いを通して人として大事な事や曲げてはいけない信念、普段からの立ち居振る舞いの仕方などを育むという物語だ」
「ほう、段々興味が湧いてきたぞよ。随分と教育的なものなのじゃな。そういった悪徳に真摯に諭し、闘いを挑む訳じゃの? だが、こちらの英雄譚と違いずいぶんと地味な気がするのう。闘いの要素が蒟蒻問答か?」
「いえ、基本武器すら持たずひたすら殴る蹴るの物理的攻撃で痛めつけて最後にアーティファクトなんかを使って浄化するといった戦闘スタイルですね」
「……え? 武器も持たずにって、剣とか使わないのか? で、ひたすら殴る蹴る? どんな野蛮人じゃ!」
「いやいや、武器を持たせないのはある意味武器を持たずに生きる事が美徳とされる俺らの国だからこその話だという事は間違いない。子供が危ない武器を持ちたがらないようにとの配慮もある。なによりも、物理だけでも途轍もない身体強化によって守られた主人公は疲れはするけど負傷したりは無い。巨大な悪に対し仲間との友情、絆をもって身一つで勝負を挑むのさ」
「そ、それは、いくら悪徳の概念が敵とはいえ、なんか弱い者いじめみたいじゃの」
「慧眼ですわよ。ぐにさん。実際ピンチにはなってもすぐに潜り抜けられる程度にしかピンチになりませんから、なんだかんだ言っても日本の様式美の見本みたいなお話ですわね」
おまえ、生徒会のみんなにあやまれー! なんちゅう身も蓋も無い意見言いやがる。それも未見者に。




