09・軍事という面で言えば確かにシャピロは偉大であった。だが、それも20世紀の理屈でしかないのだよん Aパート
「遠路はるばると御足労であった。朕は、魔王シガー=グニ=ヴォグゾール。そこな『勇者』の伴侶にして、ドゥワイアン国の絶対的支配者であるぞよ(どやぁ)」
ドヤ顔で新勇者一同に対して威嚇の波動を込めて宣言する赤髪の魔王さまは、絶句する一同の反応を見て非常にご満悦であった。だが、その栄光は儚く、長くは続かなかったのだ。
「ぐにちゃん~ あたしらを差し置いて勝手に小っちゃい子威嚇してんじゃないわよっ!」
魔の手はその魔王の赤髪の横に生えている羊の角の隙間を人差指の第二関節でぐりぐり「梅干し」攻撃で攻め立てた。
「うぎゃーす! 痛いのじゃー! 痛いのじゃー!」
必死に暴れつつ恐怖の拷問技から逃れようとする魔王さまを後目に俺は出迎えの一同に労いの言葉をかける。
「出迎えお疲れっ! こちらが【第五次異世界勇者召喚の儀】によってやってきた勇者一同42名だ。長旅で疲れていると思うので先ずは落ち着ける所へ案内してくれ」
「かしこまりました。みなさまどうぞこちらへ」
メイド服姿のみきが一同を案内する。短めのポニーテールをなびかせて背を向けた彼女は優雅な所作でしずしずと歩く。少女にしては風格と威厳があった。
一年前まではぽんこつだったとは思えない程の堂に入った仕事ぶりである。
「桜は?」
皆を先導しながら俺はここに居ないもう一人の行方を聞いた。
「今は聖堂でお勤め中です。ドゥワィアン族の人々との共存について町の有力者に法話をしていると思います」
公職の最中なら仕方ない。彼女の紹介は後にして、道すがら俺は他のメンツを紹介する。
「さっき、自分でも言っていたが、彼女は自称魔王のシガー(笑) ドゥワイアン族の国で国主をしている。で、そのシガーにうめぼしかましてたのが、俺の幼馴染で勇者の一人、金子りえ。双剣使いのエクスプローラーだ。で、案内役のメイドが早川みき。彼女も勇者の一人で高レベルアサシンだ」
「えーと、魔王さんって王様が言ってた魔王さんですか? それにメイドさんなのに殺し屋さん? 幼馴染の方も魔王さんをあんな扱いって???」
気持ちは分かるよ、先生。後ろの生徒達もがくぶるしてるし。
ぶっちゃけると現在この「ヴレイヴラント」にはこの世界の最大戦力が集結している訳で、多分他の大国が全て連合して戦争仕掛けてきてもかすり傷一つ無く追い払える位戦力差があると思う。
そして、この場に居るのがその最大レベルの戦力トップ5である。(一名不在)
実のところ、この世界、人間の最大戦闘力はかなり低い。ぶっちゃけ魔法やスキルを駆使したとしても、普通の人が最大限強くなれる限界は精々ミスター○タンのレベルまでである。それ以上となると、種族的な壁を超える何らかのアイテムの力を借りるか、それこそ神の加護を受けるか、位しかないのである。だからこそ、の【勇者召喚】なのである。あっちの人間にとっては迷惑この上ないが。
ちなみに、この世界での個体での平均的強さの種族別のランクは以下の通りである。
1 勇者(異世界より召喚した勇者) 平均LV50~100
~超えられない壁~
2 ドゥワイアン族 平均LV31
3 エルフ 平均LV29
4 獣人族 平均LV20
5 ドワーフ、グラスランナー 平均LV16
6 人間 平均LV10
の順番である。
人間、ぶっちぎりの最下位なのである。もっとも、繁殖力はダントツに強いし、組織になると先の序列は簡単に覆るのであるが。
ちなみにドワーフとグラスランナーは遺伝子的には同じ種族である。どちらも手先が器用で人間以上に細かい作業が出来るのは一緒である。違いはというと、土地に定着し職人として生きているのがドワーフ。その結果、体脂肪が溜まり力はともかく運動能力にペナルティが付いた結果、あの独特の体型になったのである。一方グラスランナーは、定住せず旅暮らしの結果、極限まで体脂肪が減り、結果スピード特化した体型になった訳である。これらは特に男性に顕著で、女性に関してはそこまで種族差は無い。(たまに太ったドワーフのおかみさんみたいな人も居るが)
で、ここに居る魔王(笑)っ子のシガーが、現状レベル換算だと人類世界最高位の戦力となる。
シガー レベル361 腐っても魔王(笑)である。
ちなみに俺達は、
俺 レベル312
りえ レベル314
桜 レベル284
みき レベル300
……うん。昨年来、シガーがこの町に来てから幾度かパワーレベリングを繰り返して俺達は更に強くなった。一部ステータス値では凌駕しているし、最早単独でも作戦次第では彼女を制圧できる位にはなっている。
もっとも、今や制圧する理由も無くなっているのであるが。今だにシガーにこだわって鍛えているのはりえ1人位のものだ。
とはいえ、それは人族のみに限っての話。相手が魔物なら話は違ってくる。
例えば、俺らが散々倒した玄武の子がレベル290。成獣はなんと762もあったのだ。
そして、それらを喰い尽くさんと追いかけて来たドラゴンはなんとレベル1000!
巨体を持つ魔物の方がレベルは高くなる傾向であるらしい。質量ってそれだけ大変なのである。
この世界で生きて行くのであれば、やはり魔物からの脅威に備える必要は常にある。その為なら魔王達と争う必要は無いという事が判っただけ昨年の悲劇は無駄ではなかった。
もっとも、公式には勇者は俺ら4人以外は戦死した事になっているが、実際は生きてはいるものの、心を折られ二度と公の場には出れなくなった人が数名生きている。肉体的には回復魔法の効果で既に癒されている筈だが精神的に廃人になり再起不能となった者たち。今は俺が後見人として面倒を見ているが、彼らはもう立ち直る事は無いだろう。
かくもこの世界は厳しいのだ。そんな修羅場に年端もいかない少女を送り込む。確かに地獄に落とされそうな所業である。が、俺の計画通りに行けば間違いなく歴史上最強の戦力がこの俺の作る「新国家」で実現する筈なのである。
例えば俺達の世界では、「国軍」という概念が既に時代遅れとなりつつある。
IS(インフィニットストラトスに非ず)によるテロリズムの前では国軍に所属している某よりもどこの誰だか分からない誰かの方が確実に戦力として有用となっている。それに対抗する為には、国軍の方も不特定多数による情報精査とそれら情報に基づく無差別攻撃で対処するしかないのが現在の世界情勢の現実である。簡単に言えば一人のテロリストを攻撃する為には国家レベルでの捕捉情報を必死こいて集める必要が出てくるのである。
つまり、それって費用対効果からするとありえない位の無駄使いを要求される訳である。
むしろ費用対効果の面からすれば、どこに居るか知れている国軍に金を掛けるよりもどこの誰だか判らない「月光仮面」の方が悪を成そうとしている奴らからすると抑止力としては遥かに強いという訳だ。
で、翻って俺達の現状の再確認である。
せっかく人類最大戦力がここに集っているのである。更に少女たちが俺ら並に化ければその戦力差は更に増していく訳で、これから新たに「国家」を作って行かねばならぬ立場からすると、他に比類無きアドバンテージを他国に対して持つ事が出来る訳である。
ぶっちゃけると、俺らは所謂「魔族」と手打ちをしたと見られる訳だ。それは他国から見ると人類を裏切ったと思われても仕方のない所業である。その為、いかに俺達が平和で仲良く暮らしていても、他国が攻めて来る大義名分自体は立っているのである。まして、他国は例の「国債」で損を被っている。「ヨソノランド」が潰れて無くなってもその負債だけは回収しなければならないのである。
つまり、今後俺らの新国家は誕生前から他国に狙われる要素だけは山ほどある。それを非と言うなら誰も手を出せない位の「力」が必要になるのである。
だからこその【第五次異世界勇者召喚の儀】なのである。彼女らにはこれから戦力の拡充と「正義の味方」としての広報を担ってもらう予定である。つまり、
「俺らに手出せば正義の味方がおまえら悪を断罪しに行くぜぇ!」
って脅す訳である。その一方で我等人類の生存圏を脅かす「魔物」を退治していき、その大義名分を整える。パワーレベリング込みで。
その途中で個人的に仲良くなれるなら重畳なのだがな。うひひ。




