05・NAISEI嫌いのあなたに捧ぐ説明回という名の俺のでんぢゃらす人生 Bパート
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一年前、現在の【勇者領】はアルセニ辺境伯という人物の領地であった。この土地は人類の最前線にして人類居住地の最北端である。その北側には広大な人類未踏地が広がり、そのいずこかに魔王の城と魔族の住処が存在すると言われていた。作戦としては簡単な物で、未踏地を兵士の集団で解放しいくつかのベースを作る。そのベースを拠点に補給物資を護衛しつつ周辺の捜索で魔王の居場所を突き止めてこれを勇者が討伐するというものである。
その未踏の荒野に踏み出す栄光は勇者48人と一万五千の各貴族の領兵団。特に先のアルセニ辺境伯は領民3500を徴兵し士気はともかく、当人の意気は高く魔王の軍勢何するものぞ! と息巻いていた。
しかし、その徴兵が災いしたのだ。
その年は春先より温暖な日が続き、夏には各地で害虫や害獣の発生が増えていた。しかし、各集落より働き手を引き抜いて徴兵した結果、それらの駆除を疎かにしてしまった事が悲劇の遠因となっていたのである。
ぶっちゃけると、ゴブリン、オーク、オーガなどの集落が肥大化して人里まであふれ出たのである。
更に悪い事に、それらを狩り、餌とする大型の魔獣も、この年に限って言えば駆除の対象にこれまでなっていなかったのである。つまり、大量に人里に出てきたこれら雑魚モンスターを追って大型魔獣も出て来たのである。
更に更に、悪い事が重なり、巨大バッタの大繁殖が重なり、周辺の耕作地帯を食べ尽くした。当然、軍が用意する予定の糧食が不発となり、集結した軍を大型の魔獣が襲い、挙句、人里で食物を入手出来なかった雑魚モンが暴れた挙句にやけっぱちで軍に特攻をかました。ぐだぐたの阿鼻叫喚の地獄絵図である。軍の80%の人材は出兵間際にモンスターに食い殺され、期待の勇者も半数は何もすることなく命を落とした。残り半数は撤退戦で最後まで殿を務めたものの、あっさりと突破され、撤退する軍勢すら瓦解する勢いであった。
俺達パーティーは見捨てられた様に殿の中の殿を務め、危機一髪という処で「援軍」に助けられ九死に一生を得た。まぁ、その「援軍」が魔王率いる軍勢だった時にはどうしたものかと頭を抱えたものだが。
そう、その時初めて俺達勇者は知ったのだ。魔王は敵ではないという事に。
むしろ、今回の戦争に限って言えば、侵略者は完全に人間の方だった。
と、いうよりも、侵略者としての魔王軍というものが存在しないという事実を知ったのである。
何故なら、魔族と説明された人々は、単に角や翼を持つだけの只の人間であったのだから。
恐るべき魔力と凶悪な思想、何よりも、豊かな実りを狙い人間の生存圏を侵す悪鬼羅刹の如き怪物で、青い肌と緑色の血を持つと説明されていた魔族だったが、実際会ってみると、前記の通り、角、或いは翼又はその両方が生えているという以外は普通の人間と代わりは無い存在であった。
後にどういう事かを国王に問いただし、こちらから仕掛けた侵略戦争であった事を白状させた俺達生き残りの勇者は、その事実を腹に収めてやる代わりに一定以上の地位と財産、不可侵の約束をさせてこの地に生活の基盤を築いた。
しかし、問題が一つ残っているのである。そう、「戦時国債」である。放って置けば年1190億ガバスの金利負担が発生するのである。国家予算の三倍近い金利負担を本当にどう処理するつものだったのか肉体言語で語り明かした夜が懐かしい。
実際、今日までに「ヨソノランド」で行われた対策はといえば、償還期限延長の為の「借り換え国債」の発行と、通貨の希釈化である。金貨には黄銅を7割、銀貨には錫を実に8割混ぜて通貨の発行量を水増ししてバンバン流通させたのだ。
当然、市井ではインフレを起こし、物価は当初の40倍に跳ね上がった。来年には更に数倍に跳ね上がるだろう事は地球の歴史が証明している。諸外国はこの事態に憤慨しながらも、余りの対応の御粗末さに今は半笑いで静観している。当然外国との通商行為は停止されている。した処でこちらの通貨の受け取りを拒否されるだけであろうが。そして、来たる国家破産の折にはどこの国が何を手に入れるかを検討する国際会議が「ヨソノランド」をハブにして行われていると聞く。
この後に及んで俺達は何をしていたかというと、アルセニ伯が戦死した後の領地を拝領した後、ジョセフィン王女と婚約して、彼女を我が領に招き入れた。そして後々彼女がこの【勇者領】を地盤に新王朝を設立して遷都する。現王朝やそれを支持する貴族連中には悪いがこれらには滅びて貰う予定である。とは言っても既に現国王にはこの予定をリークしてあり、適当な所で新王朝へと亡命、楽隠居して余生を過ごして貰う事になっている。
そう、上手く事が運ぶか? と心配する向きもあるにはあるが、新王朝の政治基盤は想定以上に強固なものとなりそうである。
その理由として、第一に、領地内及びその周辺の未開地に新たな金の鉱脈を発見。推定埋蔵量4万t。他にもプラチナやレアメタルの埋蔵量も莫大な物となる。また、別個に魔王領内にて魔王国と合同でミスリル銀の鉱脈の開発を手掛ける事となっている。こちらの事業も無限の権益となる筈のものである。
第二に、その魔王の国との正式な国交を開設する事となった。それに先立ち、あらゆる方法を用いて魔族の人々に対する差別や偏見を解いていくキャンペーンを展開する。それには我がパーティーメンバーに相応しい人物が居る為、彼女の働きに期待している。これが成れば先のミスリル鉱山事業を初め、通商展開や公益事業の共同開発だけでも、当初戦争で得られると言われていた利益の数十倍に上るのである。しかも、継続しての金脈としてである。
そして、第三に、魔王国と我が領地の間にある広大な緩衝地帯を開拓出来ればこれも莫大な利益を生むであろう。砂漠とまでは言わないが赤茶けた鉄分の多い荒野であるこの緩衝地帯には、開発の仕方によっては計り知れない富を生み出す余地が残されている。特に、山間部手前の地下にはダイヤを筆頭にアメジストやオニキスといった宝石の鉱脈が地下深くに眠っている。また、別の地点には石油が、更に海岸近くの街近辺には温泉が、と数多の資金源が眠っているのだ。
これらの鉱物資源に関しては全て俺の【権能】がその存在を把握するのに役立った。
その、【権能】とは、【天下鑑定】 地上はおろか、地下に埋蔵されている資源を鑑定し、その価値を知らしめる効果を持つものであった。更には、【資源抽出】 ある事は判っても実際に手に入れられなければ資源など絵に描いた餅である。だが、俺の【権能】は、この地上はおろか遥か地下世界すらも丸裸にし、その手にできるものであった。
そのスキルを通して見たこの新天地は、正に「楽園」だったのである。
金、銀、銅の貴金属は言うに及ばず更に貴重なミスリル、オリハルコン、その他レアメタルから石油、宝石、魔晶石に至るまで、何処にどれだけの埋蔵量があるか俺の前ではすっぽんぽんの裸同然である。
そして、それらの権利を俺は合法的に手に入れた。更には直ぐ外側には未開の広大な大地。荒野とはいえ、赤茶けた大地はまんま無尽蔵の鉄の大地。そこには「素材」の原料である「魔物」が無尽蔵に生息している。
そう、現実の魔王領は、正に裸の大地にあいらびゅ~ん♡ と言いたくなるほどの理想郷であった。




