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第0話 禁忌の娘

 このライハルト王国は、遥か昔の建国よりずっと王政の国家である。

 他のほとんどがそうであるように、王都・ヴァインベルグに住まう王族と貴族達によって主な取り決めがされ、離れた地方は『領主』と呼ばれる者――爵位を持つ貴族たちが治めている。


 王都より西へ広がる地方、ここ『アウリール』もその一つ。

 どんな手段を用いて急いでも王都から最短五日、通常なら八日以上はかかるこの地方都市は、魔術の名門としても名を馳せる『リーズリット家』により統治されている。

 今代で十二代目を数える、なかなか古株の家だ。


 リーズリット家は元々貴族だったわけではなく、功績を上げた魔術師――国に仕える『神官職』の家であったらしい。

 十二代に渡る今日までの長い年月交代が無かったのは、代々の領主が善政を行い、民に愛されていたからに他ならない。

 今では王族からの信頼も厚く、もっと広大な領地を与えられてもおかしくは無いとも言われている。


 ――しかし、このリーズリット家には秘密がある。

 今はもう誰も語らないが、この地の善政は、過去の失態を隠す為に必死で行われているのだ。


 それは、今より七代前の領主代の出来事。当時の領主には、双子の娘とその弟の三人の子どもがいた。

 この国の領主相続は性別を問わず、また彼らは年も近く能力も拮抗(きっこう)していた。そのため、先代はあえて指名をせず、兄弟たちで相談して決めるように伝えたらしい。

 その結果、家督(かとく)をかけた兄弟喧嘩が勃発。親族たちを巻き込んで、いつしか激しい相続騒動なってしまったそうだ。


 政治が荒れれば当然領地も荒れる。多くの者が騒動に倒れる中、最終的に次の領主に決まったのは『双子の妹』だった。


 ようやく落ち着きを取り戻すかのように見えたアウリールの地。

 しかし、その結果を『双子の姉』は認めなかった。


 元々リーズリット家は魔術に通じる家系だ。魔力は生まれながらにして、とても強い。 

 更に姉は、妹よりもその術に優れていた。


 父親、母親、妹に従っていた者、妹を推していた者。

 ――全てが彼女によって(ほうむ)られた。


 ほどなくして領主に就いた双子の姉による、前代未聞の恐怖政治が始まる。

 重い税に理不尽な罰則。ただでさえ相続騒動で疲弊していた領民たちには(あらが)う気力もなく、この地はもはや滅びに向かっていくだけだった。


 ――悪政が続くこと半年。

 唯一生き延びていた末の弟によって彼女は討たれ、アウリールの悪夢はようやく幕を閉じた。

 しかし、失ったものはとてつもなく膨大だった。


 家督をついだ弟は、姉妹の不始末を全て背負い、その生涯を領地へ捧げた。

 それは文字通り身を粉にするような過酷な生活であり、結局五十に届くことなく亡くなった彼の体は、病と過労でボロボロだったそうだ。

 だがその彼の献身の結果、リーズリット家は見事信頼を取り戻すことに成功し、現在の十二代目に至る。……王家からの処罰も逃れて。


 公の歴史に残るのは、アウリールに尽くした末弟の彼の名のみ。

 双子の姉妹の名は、どこにも記されていない。


 けれど、リーズリットの一族内には、ずっと語り継がれて来た。


 【双子は禁忌(きんき)。我が一族を滅ぼす子ども】


 前回は何とか難を(のが)れた。けれど、二度目はないだろう。

 隠し通せ。一族の名誉を守る為に。



 ―――双子の子が生まれたら、魔力の強い子は一族を滅ぼす子―――



 ……さて、ここまで語れば、なんとなく察して頂けるのではないかしら?

 このバカバカしい昔話が、“私”の人生に無関係ではないと。


 改めて、自己紹介をしておきましょう。

 私の名前はルキア。『ルキア・リーズリット』


 アウリール地方領主・十二代目リーズリット候の長女にして、

 ――双子の娘の、片割れ。


 何の因果かしらね。

 私はもう一人よりも早く世界に生まれ出てしまい、尚且つもう一人よりも魔力が強かった。

 どこかで聞いた、呪われた姉妹によく似た生まれの娘。


 ――そう、つまりこう言うこと。

 私は生まれた瞬間から、存在を否定された子どもだった訳だ。


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