1章 7話:朝帰り
7話:朝帰り
「……流石にくせーな。まあ寝れたけど」
昨日、買い物を終えた俺とクレアは家に帰ったがどうやら爺さんはベッドをひとつしか用意しなかったようで『俺が床で寝る』といったら『何で?一緒に寝ましょうよ』とクレアに当たり前の様に返された。
『いやいやいやいや無理でしょ!』と言ったら、『新米はベッドがあるだけでも幸せなのよ?普通は一応雨風が凌げる馬小屋の一部を借りて藁の上で眠ったりするんだから!』と言われたから『じゃあ俺そうします!おやすみなさい!』と身一つで逃げた。
クレアと一緒に寝るなんて童貞の俺には無理だ。ただでさえクレアからのちょっとしたボディタッチでドキドキしてるのに、あんな狭い空間に一晩一緒なんて絶対に寝られないだろ。
……でもワンチャンあるかも……いや無いわ。
俺は思ったより冷静だった。
街を彷徨ってたら宿屋のおばちゃんが『泊まる場所もないのかい?ウチの馬小屋でよけりゃどうぞ』といってくれて土下座して借りた。今度、何かお礼をしようと思う。
日も出る前に起きてあらためて酷い匂いだと思うが、思ったより疲れが抜けていた。
外に出たら、店主のおばちゃんと会った。
「早いじゃないか。もう行くのかい?」
「おはようございます。ええ、昨晩は本当にお世話になりました。今度はお金を持ってきます」
「そうかい、困ったことがあればまた泊まっても構わないから体は大事にしなさいよ」
「ありがとうございました」
去ろうとすると、『腹が減ったら食いな』とパンを渡してくれた。
気まずいけど、家へ帰り玄関の前で蹲る。流石にドアを開ける勇気は無く、なんて言い訳しようと考えていると『カチャ』と施錠を解く小さな音が聞こえ『ガチャ』と扉が開かれた。
「お、おはようございます。クレア様」
「ん」
そこには全く寝ていないのか目の下に隈を作った薄着の女神様が禍々しいオーラを纏って腕を組んでいた。そのまま、早く入れと顎で指示した。
案の定、家に入ると俺は床に正座させられ事情聴取が始まる。
「で、アキ君昨日はどこで寝たのかしら?」
「や、宿屋のお、おばちゃんが馬小屋を貸してくれました」
「そう、寝たんだ?私は誰かさんが心配で眠れなかったな~辛いな~」
「いやでも……」
「何かしら?」
確かに綺麗なのに目が笑っていない。女性のこんな恐ろしい笑顔を見たのは俺は生まれて始めてだった。でもここで負けるわけにはいかない。
「でもですね、流石にクレア様と一緒にベッドで眠るのは童貞の僕には非常に高レベルクエストの様なものでして……」
「では童貞じゃなくなればいいのね?」
クレアは下着の透けたネグリジェ?の様な物を脱ぎ上下お揃いの白の下着姿になると更にブラを外した。そこにはシミひとつない未踏の雪原の様な白い肌、程よく膨らんだ丘の上には桜色の……
「めっちゃ綺麗……って!ちょ、ちょっと待ってくださいって!」
「何?心配しなくても私も処女だから誰かと比べたりなんてしないわよ?」
やけになってトップレスでとんでもない事を言い出す女神の体を見ないように抱きしめる。
「へっ!?」
「ほらこんなに冷えちゃってるじゃないですか。まずは落ち着いて温まりましょう」
「ふーん。このへたれ」
「ぐはっ」
しぶしぶと脱いだ下着を着けネグリジェ?を着る。っていっても下着姿と変わらないよね……
「で、私の清らかな体じゃアキ君の童貞を捨てるには物足りないという事かしら?」
「違いますって。言っておきますけど俺はクレア様よりも綺麗な人……女神様を知りませんよ?
……したいか、したくないかで聞かれたら、そりゃしたいですよ。
……でも、こんなヤケクソみたいな感じではしたくないし、俺は相思相愛になった人としたいです」
「これだから童貞は……でも私はそういうの嫌いじゃないよ」
「……クレアだって処女だもんね」
「……朝からもうやめましょう」
「……はい」
「アキ君、私は眠たいなー」
「そうだよね、じゃあ俺は外で昨日買った武器の訓練してるからゆっくり休んでて」
「だーめ!」
俺はクレアに抱きつかれそのままベッドに押し倒された。
「その服じゃ寝にくいよね。私と会った時のでいいかな?」
返事を答えるまもなくいつの間にか上下スウェットになってベッドに押し込まれる。
「し、しないって言ったじゃないですか!」
「何焦ってるの?しないよ?でも私、何かに抱きつかないと眠れないから起きるまでよろしくね。あーあと、その枕使っていいから腕貸して?」
「俺、臭くないですか?」
「私はアキ君の匂い好きだよ。落ち着くし……もし触る時は優しくしてね」
「ちょっと!?」
「えへへ、おやすみ」
相当眠たかったのかクレアはすぐに『すぅすぅ』と寝息をたて始めた。
「……幸せだけどさ。どうすんだよこれ」
いつしか俺の息子は戦闘力を53万以上に高めていたが『すまんな息子よ、へたれの父さんを許してくれ』と心の中で謝ると自然と戦闘状態を解除していた。
「すぅすぅ……アキ君のへたれ」
まさか寝言でまで女神に貶されるとは……『まあいいさ、いつかお前も戦う時がきっと来るさ』と息子に心で囁きかけた。
~2時間後~
「流石に全然眠くならないな」
ちなみに腕枕をしている右腕の感覚はとっくに無い。いざという時はクレアに治してもらおう。でもまさか、こんな完璧美人のクレアが涎を垂らしながら眠る顔を見ることになるとは思わなかった。そんな無防備なクレアを見ていると、興味本位から無意識に空いている左手でクレアの頭を撫でていた。さらさらの髪の毛は引っかかることなくとても気持ちがいい。クレアも頭を触った直後は険しい顔を一瞬したが今では完全に蕩けきっている。
暫く頭を撫でていたが、いつの間にか俺の緊張も解けそのまま眠りに落ちていたようだ。
「おはよアキ君。可愛い寝顔だったよ?」
「それを言うならクレアだって可愛い寝顔で涎垂らして寝てたよ」
「……そういうのは女の子に言っちゃダメだよ」
リアルにシュンと落ち込んだので慌ててフォローする。
「ま、まあでもさ、クレアの無防備な寝顔のおかげで和んで俺もぐっすり寝れたみたいだよ」
「……それフォローのつもり?」
「気が利かなくてすみません」
「そこがアキ君らしさだからいいけどねっ♪ さあ起きてギルドへ行きましょうか!」
「その前にちょっといい?」
「なあーに?」
「俺って右腕付いてる?感覚というか肩から先が無くなった気がするんだけど?」
「うん。ちゃんとあるよ?」
クレアが頭を上げると温かい物が腕中に流れて行く感じがする。そうして次第に痺れが起き『おお、動く』と生まれてはじめて自分の体か満足に動くことに感動を覚えた。死んからってのが皮肉じみてるけどね。
「感覚戻ってきたかも!」
「ずっとは重かったよね?ゴメンね」
そんな下着姿で上目遣いなんて俺のライフは0を通り越して来世でマイナスになりそうなので勘弁してください。
「そ、そんな事より着替えない?風引いちゃうし」
「……アキ君のエッチ。さっきからチラチラ見てたのはそういう事だったのね」
「ごめんなさい」
「怒ってないから少し後ろ向いててくれる」
「は、はい!」
どうやらクレアのネグリジェは本当にパジャマの様で『シュルル』と音と共に脱ぎ捨てられた。そしてクローゼットから昨日のスーツを取り出して着たようだ。
「アキ君もういいよ」
振り向くと皮鎧にローブを着たクレアがいた。そして、俺のスウェットに手をかざすと俺も同じ格好になる。
「ありがとう」
「いーえー。じゃあ行きましょ!いざ冒険の世界へ!」
さあ今度こそギルドへ行こう!