1章 5話:スキル
5話:スキル
「きゃー! アキ君!アキ君! 私またレベル上がりましたよ! これで私レベル12ですよ! SP何に振ろうかな~♪ アキ君は何がいいと思います?」
目の前には湧き出る【骸骨】や【腐乱死体】に杖を向けスキルの【広範囲回復魔法】で足止めし【魂浄化】でアンデッド共を根こそぎ強制成仏させた女神様が倒したことでレベルが上がったと笑顔で振り向いてくる。
「SPって……取ってないスキルあるんですか?あれ?クレア様のおかげで俺もレベル上がってますね。パーティ組むと経験地は分割されるのか……」
「もーアキ君! クレア様じゃないでしょ? この世界では一緒の駆け出しの下っ端なんだから!もう一度やり直す?それがいいよ! オーケー?」
「お、おーけー……く、クレア……」
「はーい。良くできました。飴ちゃん食べる?」
どこからか飴を取り出し俺の手に置くクレアはテンションが高すぎて若干引いた。
とはいえ、神界での激務から解放されて自由に自分のやりたい事を何でもしていいというのはクレアにとって始めての体験なのかもしれない。
「では、依頼も完了なので冒険者ギルドへ向かいましょう」
「アキ君、もっと砕けた感じでってお願いしたでしょ? さあもう一回」
『うわー面倒くせえ』と内心では思ったが、意地を張っても仕様がない。
「じゃあクレア、これで終わりだし報告に行こうよ」
「アキ君『うわー面倒くせえ』って思ったでしょ?……まあ私は女神だから?そんな事で怒ったりはしないけどね。ほら行きましょ!」
表情がコロコロ変わる女神に不意に手を引かれ『ドキッ』とするが、嫌な訳じゃない。そのまま冒険者ギルドへ報告へ向かった。
何で俺達がこの様になったかと言うと……
「アキ君、テーブルの上に本が置いてあるわ」
「本当ですね……って」
【異世界【ナトライア】の歩き方 ~基礎編~ 著:グラン】
「……おじい様って意外と暇なのかしら?」
ボルドー色の革表紙に金文字が彫られた無駄にディティールの細かい本はこれから出合う魔導書よりも豪華だったがそれは置いておく。
「とりあえず中を見てみましょう」
パラッと中を捲り本を確認したない様を完結に纏めるとこうだ。
①:基礎魔法のスキルを習得し使い方覚えるべし
②:登録手数料を持って冒険者ギルドと商業ギルドへ行くべし
③:依頼を受けて金を稼ぎながらレベルを上げるべし
④:依頼を終えたらしっかり報告しお金を貰うべし
たったこれだけなのにどうやったら電話帳なみの厚さになるのか……理解に苦しんだ。この爺さんは多分、小学校の夏休みの宿題の代名詞である読書感想文を本との出合いだけで5枚書くと思う。それくらい必要の無い情報が多すぎた。
そんな事はどうでもいいから、聞きたいことをクレア様に聞く事にした。
「クレア様、基礎魔法のスキルってどうやって習得できるんですか?」
「それなら私が、んしょ、スキルスクロール持ってるので……あれ? どこだったかな。ちょっと待っててくださいね。えーっと……」
~10分後~
服の内側に手を入れてゴソゴソやってる姿は何故か見てはいけない気がして後ろを向いていたがどうやら無事に見つかったらしい。
「はぁ、はぁ、お、お待たせしました。これが基礎魔法のスキルスクロールです」
渡されたのは時代劇で見るような巻物だった。
「あ、ありがとうございます。これどうすれば?」
「そうですよね、普通に開いて読んでみてください」
言われたとおり読むと何故かスッと頭に入ってきて書かれている内容全てを理解できた。
「一気に異世界って感じました。これ凄いですね! ちなみにあの棚に置いてあるのもスキルスクロールなんですか?」
俺が指を刺す先には大量の巻物が整頓され置かれていた。クレア様は棚の前で物色する。
「そうですね……私の苦労を無視したように基礎魔法のスクロールもありますね~
え!?ってちょっと待って!? 中級、上級、超級、神級のスクロールまでありますよ!? おじい様はアキ君に何をさせるつもりなの? そんな事よりも……室内で魔法を打とうと構えるのは止めて下さい。そんなベタな事は他の人達が散々やって来たからアキ君がやる必要はありませんよ? それと、魔法を連発して魔力が尽きると最悪死にますので頭痛が酷くなったら絶対に使用しないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
でも俺死んでるんじゃ……って突っ込みは止めておく。
しかし、どうやら相当ヤバイ物が混ざっているようだった。クレア様は棚のスクロールを一本ずつ確認しテーブルのうえに七本並べた。
「アキ君は最初から『俺強ぇー』ってチートを使ってゲームをプレイするタイプってよりは『レベルあげ楽しー』ってタイプですよね?」
「そうですね。いくら時間が無くてもチートは嫌ですね。俺はレベルを上げ続けた分身で『フッ雑魚め!』って物理攻撃のみでボスを倒したいですね。
とはいえ、あまり面白く無いと感じるゲームなら使える物は惜しまず使ってレベルも最低限で速攻攻略して売りますけどね」
「そ、そうですか。……なら、今はこの辺のスクロールだけで充分ですね。この世界が【糞ゲー】だと感じたら遠慮なく言ってください」
「で、これらは何のスクロールです?」
「アキ君は実戦の経験は無いですよね?」
「うーん。身を守るために格闘術なら小さい頃からやってたけど?」
「小さいころのアキ君かぁ……」
「えっ?」
「な、何でもないですよ? ここにあるのは【剣術】【槍術】【斧術】【弓術】【杖術】【盾術】【投擲術】ですね。他にも何か欲しいスキルがあれば言ってください」
「じゃあ【回復魔法】ってありますか?ちなみに、これも読むとさっきの魔法みたいに理解して使えるんですか?」
「では、こちらをどうぞ。う~ん……さっきの基礎魔法もそうですけど、今は頭で理解してるだけの状態なので実際に魔法を使ったり、剣を振ったりして練習しないと完全には習得しませんね。とはいえ、素振りで剣を振れば型通りに振らないと違和感を感じると思います。その違和感が無くなった時に完全に習得できる筈です」
「成る程、読めば覚える程にヌルくは無いという事ですね。それとクレア様、ここに書かれてる【レベル】ってゲームみたいに上がると肉体が強化されて行くんですか?」
「いえ、レベルは肉体ではなく魂のレベルです。レベルが上がることでSP……スピリットポイントを貰えます。このポイントを使用して就いている職業のスキルを習得する事ができます。体の魔力以外のパラメーターを上げるならトレーニングや実戦が一番ですね。魔力は使わないと自然に回復し、使う程に強化されるので暇なときは適度に魔法を使うことをお勧めします」
「職業のスキルなんてあるのですか?」
「ええ、とはいっても……あの棚にはほぼ全てのスキルスクロールがありますけどね……」
「……爺さんやりすぎだろ」
そんな訳で家に置いてある武器を使ってスキルを習得しようとしたのだが……
「持ち上がりません。無理です」
「確かに今のアキ君じゃ厳しいかもね……」
俺が持ち上がらない武器を『ひょいっ』と簡単に持ち上げ元の場所に戻すクレア様を見て、やっぱり女神様だなと改めて感じた。
「じゃあ、買いに行こうか♪」
クレア様の一言で、金庫から金貨と銀貨を数枚取り出し、武器を買いに行く事にした。
「アキ君」
「なんでしょう?」
「私決めたんだけど。この世界では私に様付けと敬語と禁止ね!」
「はい?いや、だってクレア様、女神様じゃないですか……」
「もう決めたの。お願い!」
両手を合わせ頭を下げるクレア様。どこの世界に神様に頭下げさせる人間(死人)がいるんだよ……
「いや、でも…………はぁ、分かったよクレア。行こうか」
「うんっ! 武器気に入るのあるといいねっ♪」
そういって俺に自然な動作で腕を絡ませてくるクレアは年相応の女の子に見えた。
それにしても、すれ違う通行人からの妬みの視線や舌打ちが凄いが、ここは勝ち誇らせてもらうとしよう。