1章 4話:転移
1章:異世界
4話:転移
「アキ君起きてください! アキ君!」
「んぅ?」
頬を軽く叩かれて目を覚ますと俺を覗き込むクレア様と目が合った。
「アキ君大丈夫ですか? どこか痛い所はありませんか?」
そんな泣きそうな顔で見ないでよ。俺は大丈夫だからと右手をクレア様の頬に当てて撫でるとスベスベで詰まんでみるとプニプニだった。
「ひょ、ひょっとなにふふんへすか!」
「ん? すいません。寝ぼけてました。というか重いですよねゴメンなさい」
頭を上げて起きようとするとクレア様が優しく手で元の位置に戻す。
「このままでいいですよ。痛い所は本当に無いですか?」
「ええ、少し頭が痛いくらいで他は問題ないです」
「その頭痛は転生ゲートを潜る際に脳に負荷をかけられたからだと思います。記憶はハッキリしていますか?」
「ええ、ナイア様の開いたゲートで……ってことは! ここは!?」
「ええ、99%の確立で異世界です。幸いなことに私と一緒に来たおかげで記憶消去も転生も免れた様ですけどね」
周囲を見回すと石造りの街が広がっており、今も目の前を馬車が通る。どうやらここは道の脇の様だ。通行人がクスクスとこっちを見ながら微笑まれたり、羨ましがられたり……俺に強い殺意を向けたりしている。
どうだ羨ましいだろう?こんな完璧美人に俺は膝枕してもらってるんだぜ?と優越感に浸るのもいいが、流石にクレア様に悪いので頭を起こす。
「ありがとうございました。でも、流石に通行人の目線が気になるので」
クレア様はキョロキョロ周囲を見回し自分達が注目を集めている事に気がついたようで顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「それでどうしますか?」とクレア様に聞いている時に『トントン』と指で軽く肩を叩かれる。条件反射で振り向くと、そこには杖をつきローブを纏った老人がいた。
その姿はゲームでよく見るお手本の様な魔導師だったが、胸元をゴソゴソと漁り首から下げているプレートを取り出して俺たちに見せ小声で着いてくるように言った。
クレア様は俺の顔を見て頷き付いていく事に同意した。
老人に付いて行くと到着地は街の外れにある小さい家だった。
家に入ると……
「ふたりともすまなかった!」
老人はローブのフードをはずして開口一番に俺達に頭を下げ謝罪した。
「いえ、顔を上げてくださいおじい様」
「少なからず原因は俺にもあるので……」
「いや、そなたは間違っておらん。ナイアがまさかここまでするとは想定外じゃった。ワシのミスじゃ。すまん!」
再度深々と頭を下げる老人は、そう、神界の最高管理責任者であり、クレア様の祖父でもある最高神グラン様――通称爺さんだった。なぜかこの神様はグラン様と呼ばれるのを嫌がり『ワシの事は気安く爺さんと呼んでくれ』といわれ爺さんと呼んでいる。
クレア様に昼間の出来事を話すと『あんの糞女神……アキ君を引っ叩いたですって……帰ったら殺す』と鬼の表情を浮かべ物騒な事を言い始めたので急いで爺さんに質問をする。
「で、爺さん俺達は戻れるの?」
「それがじゃな……今すぐというのは無理じゃ。そもそもこの世界【ナトレイア】はナイアの管理対象なのじゃが……放置状態で、世界が神の加護自体を失いつつあり、アンデッドなどの不浄の魔物が多く存在している。その所為で神に対する信仰が薄れ、クレアも神力を集める事ができずゲートは開けぬのじゃ」
「爺さんの力では無理なのか?」
「今のワシは神界から無理やり送った分体じゃ。ふたりへのメッセンジャーとでも思ってくれればよい。そういう訳で神力を得られぬ場所では長くは持たん。とはいえこのままそなた達をこの世界に放置する事などできぬ。ワシが何とか解決策を探す時間をすまぬが待ってて欲しい……ところでクレアよいつまでそんな怖い顔をしておるのじゃ」
「あん? えっ? その、すみません。何でしょう?」
「……まあよいわ。とりあえず生きて行く上で必要そうな物をこの家に集めてあるから好きに使って欲くれ。あとアキ君ちょっといいかの?」
「はい?」
爺さんは俺の頭に手を置くとブツブツと呟きだした。呟きが終わったと思ったらまばゆい光で部屋中が包まれ思わず目を瞑る……光が止み恐る恐る目を開き体の確認をするが特に異常は見られない。
「爺さん俺に何をした!?」
「暫く滞在する世界で会話もできないのは困るじゃろ? あとせめてもの詫びにワシのスキルをいくつか渡したから使いこなす事じゃ。それとクレア」
「は、はい!」
「この世界は神に対する信仰が低すぎて神力が集まらない現状じゃ。僧侶や神官などの職も神の加護が得られずに回復が微々たる物として職に就く者も稀じゃ。できる範囲で構わんから少しでも困っている人の助けをしてやってくれぬか?」
「勿論です! 任せてくださいおじい様!」
「いい答えが聞けてよかったわい。そろそろワシも限界のようじゃな。では、すまぬが暫くこの世界で生きてくれ。向こうに戻ったらワシが何でもひとつ願いを叶えてやる事を約束しよう。ではな!」
そういい残し爺さんの分体は消えた。
さてこれからどうするか……