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3章 31話:本当に帰還

3章 31話:本当に帰還


「んう?」

「起きたか?じゃあ帰るぞ」


 とはいえナコルは既に丸一日半眠っている。しかもおねしょまでしても起きなかった。

 何か冷たいと違和感を感じ目を覚ますと、隣には盛大に地図を描きながらも幸せそうに眠る少女の顔に何もいう気にはならなかったから、少し別の場所どかして布団は新しく創り交換したけど。

 一応着替えもさせておいた。拭いたりはしてないけど。


「帰る?」

「お姉ちゃんとルーニャに謝るんだろ?」

「そうだった!帰る!」

「じゃあ行くぞ」

「どうやって?」

「足があるだろ?お前の我侭がなければ馬で帰れたけどな」

「……わかった」

「まあ今回は俺も早くルーニャに会いたいから歩いては帰らないけどな」

「えっ!?」


 俺は家のドアを開け外に出ると……そこにはナコルが起きるのを待っている間に試行錯誤を重ねて創った自転車があった。

 とはいえママチャリだけど。やっぱ長距離走るならサドルはママチャリの大きくて柔らかいのが一番だよね。

 荷台は座っても痛くない様にクッションを敷いた椅子にしてある。 


「おにいさん何これ?」

 ナコルは見たことも聞いたこともない自転車に興味津々だった。自転車の周りを回りながら色々と確認している。

「自転車って乗り物だ。歩くよりは随分早く帰れる」

「これで?ほんとに?」

「ああ、乗るのは山を降りて街道に出てからだけどな」

「じゃあ早く行こうよ!」

 お前の所為でこんなに待たされたのに……と思うが子供だし仕様がないといい聞かせ山を降り始める。


 ナコルの体力に合わせ休憩を挟みながら二時間程かけて街道に出た。

 こうやって考えるとルーニャは化け物並みのステータスを持っていると思う。鍛えすぎたか?まあいい。


「じゃあ行くぞ。後ろに乗って」

「どうやって?」

「あーはいはい」

 抱っこーみたいに両手を上に上げるナコルを抱き上げ荷台の椅子に座らせる。

「えへへ」

 何が楽しいんだか……全く

「じゃあ行くぞ」

 俺はゆっくり漕ぎ出した。舗装されていない道はやはりガタガタ揺れるがナコルの椅子にはクッションも効いているし問題ないだろう。

 五分程走り慣れてきたので【ウィンドエンチャント】を掛けた。


「ちょっとスピードを上げるぞ」

「え?きゃあ!!!!」

 思った以上にスピードが上がった。先を走る馬車を追い抜きグングン進んでいく。

 このペースならあと一時間も漕げば着くだろう。

「大丈夫か?」

 一応確認すると……

「あははーすごーいはやーい!」

 喜んでくれているようで何よりだった。


 途中モンスターに出会うことはあったが、スピードで置き去りにし、やっと【ダンテリア】が見えた。

 ここまで来ればいいだろうとブレーキを掛け停止して自転車を街道から外れた場所に魔法で穴を掘り隠した。ロックウォールで蓋もしたし誰かに見つかることもないだろう。


「ここからは歩きだ。もう街見えてるからな」

「なんで?」

「自転車で街に入ったら興味を持つ人が出てくるだろ?」

「うん。早いもんね!」

「そうすると一々説明が必要になるよな?」

「うん。皆欲しいと思う!」

「だろ?とっても面倒だからお前はここまで俺と一緒に歩いてきたって訳だ」

「え?でも……」

「誰かにいったら街に入ったらナコルはまだおねしょしてるといいふらす」

「いやー歩き疲れたねお兄さん」

「そいう子は嫌いじゃない」

「あたしもお兄さん初めは怖かったけど今は嫌いじゃないよ、優しいしルーニャちゃんが羨ましい」

「何かいったか?まあ行くぞほら」

「うん!」


 俺とナコルは手を繋いで街へ向かった。


「お、クレアにルーニャかリンネさんもいるな」

「……」

 出迎えの人を見て一気に緊張するナコル。

「おい、謝るんだろ?」

「……怖い」

「はぁ、いいか?何でも謝って許してもらえるのは子供の特権だ。

 でもしっかり謝らないと相手には伝わらない。

 リンネさんは家族だからゆっくり話す機会は今後取れるけどルーニャは違う。

 あの子は何でお前に嫌われているのかも何も分かっていないし、寧ろ自分が悪いの?と俺らに聞いてきたくらいだ。

 今回は喧嘩になってもいいからしっかり自分の気持ちを話してやってくれ」

「……うん」


 いよいよ門まで二十メートル程になると我慢できなかったのかルーニャが駆け寄ってくる。

 俺はそのままルーニャを抱きしめて頭を撫でる。


「お兄ちゃん!おかえりなさい怪我はしてないよね?」

「勿論。ルーニャは訓練ちゃんとしてた?」

「うん、わたしも投擲のレベルが10になってスキル覚えたよ!」

「お、やったね。じゃあ今日はお祝いしよっか」

「うん!えへへ」


 そんな俺らのやり取りよ横目にどうしていいかモジモジし始めるナコル。

 仕方がない。もう少しルーニャを補給したかったが、名残惜しいがここまでにしよう。

 ルーニャを降ろしてナコルと向き合わせる。


「え?お兄ちゃん?」

「ん?どうした?」

 流石にルーニャでも面と向かって大嫌いといわれた相手だし気まずいのだろう。

 ここまでしたんだから後は頑張ってくれ。


「あ、あのルーニャちゃん!」

「ふぇ?あ、はい!」

「ごめんなさい!」

「え?」

「あたし本当はこの前ルーニャちゃん達が来るの知ってたの。

 でもお姉ちゃんがずっとルーニャちゃんの話ばっかりするから……このままだと取られちゃうって思って……いじわるしちゃったの。

 助けに来てくれたときも本当は凄く嬉しかったけど……早くお礼言わなきゃって思ったけど、大嫌いって嘘ついちゃったの。グズッ。ごめんなざい!本当にごめんなざい」

「うん。いいよ」

「ふぇ?」

「いいよ。許してあげる。でもわたしの事嫌いなの?」

「グズッ。嫌いじゃないよ!嫌いじゃない!」

「じゃあわたしと友達になってくれる?」

「ふぁえ?いいの?」

「だって、わたしそのためにお兄ちゃんに頼んで助けに行ったんだもん」

「ああああぁぁぁああん。友達になりたいよぉぉ、本当にごめんなざぁぁい」

「もう泣かなくていいから」

 ルーニャはナコルを抱きしめて頭を撫でる。


 うむいい子に成長したもんだ。まだ一緒に暮らし始めて少ししか経ってないけど。

 そんなナコルを心配してリンネさんとクレアが駆け寄ってくる。


「ナコル?大丈夫?どこか怪我したの?」

「ああぁぁぁん、お姉ちゃぁん。ごめんなざぁぁい」

「アキ君お疲れ様。今回も頑張ったね!」

「お兄ちゃん、ナコルちゃんの鼻水で服がベドベドになっちゃった……」

「とりあえず家に行かない?」


 出迎えに来た皆で我が家へ向かう。リンネさんだけは一度家に帰り両親に話すといっていた。

 そして久々の我が家に帰ってきた。

 ナコルを家に連れて行かなかったのは、連れて行ったら直ぐに報酬の話をされてナコルが再び傷つくのではないか?との不安からだった。

 中に入り飯にしようかと思ったが、なんでもリンネさんも帰ってきたら美味しい料理をと協力してくれていたようで来るまで待つことになった。


「ルーニャ、ナコル連れて一緒に訓練場で遊んできていいよ」

「え?ほんと!じゃあ行こナコルちゃん!」

「え?うん」

 着替え終えたルーニャはナコルの手を引き裏の訓練場へ向かった。


「で、アキ君何したの?あの子をあんなに素直にするなんて」

「え?ああ。洞窟の灯を消して放置しただけだよ?」

「え?子供相手にそんなにエグい事したの?」

「そうかな?俺も幼稚園の頃に押入れに閉じ込められたけど?」

「それ、外には人はいるし、そんな長時間じゃなかったでしょ?」

「うん。五分くらい」

「もうしちゃった事だし今回は上手くいったから良かったけど、下手したら精神壊れちゃうから気をつけてよね」

「大丈夫だよ幻覚見たくらいでやめたし」

「まだ五歳の子供にトラウマ作ってどうするのよ……」

「いや、俺もルーニャの事考えると止まらなくてさ。やり過ぎたとは思うけど、反省はしてない!」

「ふぅ……まあ上手くいったしいいわ。ってリンネさん来たようね」


 玄関を開けるとそこにはリンネさんと両親の三人がいた。


「すみません止めたのですが……父がどうしても行くと」

 そして父親がリンネを押しのけて前に来る。

「それでアキ様、報酬の件なのブハッ」

「「「え?」」」

 あ、思わず手が出ちゃった。女性陣が皆同じ顔をして固まっている。まあいい。

「報酬じゃないだろ?まずは娘だろお前ふざけんなよ?自分の娘だろ?他人に全部任せてるんじゃねーよ!

 報酬以前にまず父親ってどういうものか考えて来い。話はそれからだ。

 それまではナコルは家で預かる。じゃないとまた直ぐに家出しそうだしな」

「き貴様、私に手を上げて何だその言い草は!わ、私を誰だと思ってる!こんな事をしてこの街で冒険者を続けられると思うなよ!」

「お前はナコルの父親だろ?俺にはそれ以外はどうでもいいんだよ!

 俺はお前みたいなのが権力持っているのなら、街から出て行っても構わない。

 せめて権力振りかざす前に少しは父親としての責任を考えてみたらどうだ?」


「くっ!」

「あなた、これだけはアキ様のいう通りです」

「そうよ、お父さんは洞窟で報酬出すから連れ帰ってくれっていった時のナコルの顔見てないでしょ?これ以上あの子を傷つけるのはやめて!私たちも反省しなければいけないの!」

「なんだお前らもあいつの見方か!じゃあお前らもここに残ればいい。私は仕事があるので失礼する」


 そうして娘ふたりと嫁を残し父親は去っていった。

 

 ……まいったな家にはベットはひとつしか無いのに。


「とりあえず、俺は宿屋借りて今日はそっちで寝るよ」

「い、いえ私と母が宿を借りますのでアキ様はいつも通り家で寝てください。ね、お母さん」

「いえ、宿はリンネが借りなさい。私は家に戻りますから……あの人と祖母だけに家を任せたら三日で取り返しがつかなくなります。少しはあの人に説得も続けるから、あなたはナコルを頼むわね」

「……はい」


 そうしてリンネさんの母は家に戻っていった。


「じゃあ、俺が宿を借りるからリンネさんはこっちに泊まってよ」

「いえ、でも……ナコルを助けていただいたのに」

「今回は俺の責任だし気にしないで。ね、クレア」

「ふーん。アキ君そんなに宿借りたいのね」

 ギクッ

「どういう事ですかクレア様」

「いやね、アキ君私たちと一緒に暮らしてるから気を使って自分でシないのよ。

 家主がシていいっていってるのに。私が手伝ってあげるっていっても拒否されるし……だから宿に泊まりたいのよね?」

「ソ、ソンナコトナイデスヨ?」

「しない?って何をでしょうか?」

 リンネさんはピュアな天使だった。

「それはね耳貸して……」

 事実を知りリンネさんの顔は一気に真っ赤になった。

「アキ様は本当にエッチです」

「いやでもね……何でもないです」


 結局はベッドに四人は無理なのでリンネさんがソファーで寝る事になり、俺は同情もあり宿を取ることを許されたのだった。


「そろそろご飯にしましょ、アキ君もお腹すいたでしょ?」

「うん、ろくな物食べてないからね。ルーニャ達呼んでくるよ」


 訓練場に行くとそこにはルーニャと一緒に滝の汗を流しながら一心不乱にクナイを投げるナコルがいた。

 いや、遊んでろよ。ストイックすぎるだろ。


「ふたりともご飯にしよう……ってその前にシャワーだな」

「お兄ちゃん、ナコルちゃん中々やるよ!」

「お兄さんこれ楽しいです」

「そうかー良かったね。でもご飯にしたいから先シャワーね」


 ルーニャとナコルを浴室に突っ込み洗える物は洗濯機へ入れ、ルーニャの着替えをふたり分用意した。

 

 さあ今度こそご飯食べて宿屋へ!


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