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3章 30話:どうすっかな……

3章 30話:どうすっかな……


 結局のとこ俺は放置する事にした。

 といってもただ放置するだけではない。松明も全て消し暗闇での放置だ。

 絶対に子供にしていい事ではないし、ナコルの精神が壊れかねない。

 でも、こいつはずっと甘やかされて我侭を許されてきたんだろう。まだ五歳だし。

 俺も自分に関係が無ければぶっちゃけ放置で関わりたくは無かった。が、うちのルーニャを傷つけた事は事実で、それに対しては償わせようと決めていた。

 子供の喧嘩に親が出るのはおかしいというが、これはもはや喧嘩では無く八つ当たりの我侭みたいな物だ、まして相手の親が責任を放棄したのだから俺が少し躾けても問題はないだろう。


 ナコルの啜り泣く声が聞こえる中で俺は自分の持つ松明以外の灯りを全て消した。


「ぐずっ。えっ!?ひぃっ?」

 軽く悲鳴が上がり、俺はナコルの前に行く。

「お前がここに残るって自分で決めたんだ。俺もお前みたいな我侭でルーニャを傷つけたガキの相手はうんざりだ。もう行くから後は好きにしろ」

「ぐずっ……何で?」

「お前がひとりになりたがっていたみたいだから俺が協力してやったんだよ。これで望みどおりひとりになれるだろ?」

「……ぐずっ」

「せめてもの情けだ、飲み物と食い物は少し分けてやるよ。じゃあ元気でな」


 そうして俺は洞窟から出た。

 

「……さて何時間持つかな」

 俺は足音を殺し泣き声が聞こえる広間まで戻りそこに寝転がった。


□■□■□


「ひいっ!」

 今何か動いた?動いたよね?

 でも何も見えないよ……怖いよ……お姉ちゃん助けて……

 灯りまで消すことないじゃん。なんでこんな酷いことするの?


『ガザガザッ』


「ひぃっ!何!?何!?」

 ナコルは驚き壁まで後ずさる。

 虫なの?何がいるの?

「きゃあ!何?何なの?」 

 手の上をヌメッとした何かが通った。

 その後も体に何かが纏わりついている感じが消えず、いつの間にかナコルは泣くことも忘れて神経を張り巡らせて怯えていた。 


□■□■□


 悲鳴が聞こえてくる。恐らく極限状態で何か見えたり感じたりしているのだろう。

 とりあえず後三十分は放置だな。

 俺は頭の中でいーち、にー、さーん、と数え始めた。


 千七百九十八、千七百九十九、千八百っと。そろそろ様子見るか。


 カチカチカチカチカチカチ


 聞こえてくるのは何の音だ?と足音を殺しながら先に進む。


「ごめんなさい。お姉ちゃんごめんなさい。お姉ちゃんごめんなさい」


 格好は真っ暗で見えないが一心不乱に謝り続けるナコルがいた。

 カチカチいってるのは歯の音の様だった。


 俺は一度外に出て、作った石の家へ行き裏手に【ロックウォール】で一回り小さい小屋を家に繋がるように作り中に入り魔法を使っていく。


「さて、行こうかね」

 流石にやりすぎた罪悪感もありもうナコルに対する怒りも消えている。

 松明を持って中を進むと未だ一心不乱に謝り続けるナコルがいた。


「おい」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 やりすぎたか……

「おい、もういいだろ帰るぞ」

「ひぃっ!?ごめんなさい。ごめんなさい」

 俺と目が会うと一気に怯え頭を下げて謝り続けた。

 床を見るとどうやら漏らしているようだった。

「はぁ……もういいよ。帰るぞ」

 俺が手を伸ばすと這って避けられる。これ結構地味に傷つくな。

「ごめんなさい。あたしが悪かったです。ごめんなさい」

「もう分かったから。怒ってないから。帰るよ」

「あっ……グズッ。あああああああぁぁぁん」

 俺が話し方を変え優しく頭を撫でてやると安心したようでナコルは一気に抑えていた感情が溢れ出し泣きながら抱きついてきた。

「俺が悪かったからもう帰ろう」

「うん。帰る、帰るー。うゎあああぁぁああん。がえるぅぅ。お姉ちゃんごめんなざぁい」

 

 俺は仕方が無く漏らしたナコルを抱き上げ洞窟から出て作った小屋へ向かった。


「うぅ、ぐずっ。ここどこ?」

「流石にそんなに汚れたまま帰れないだろ?お前臭いし。ほら服脱げ」

 俺はナコルを家に入れ服を脱いだ。

「……脱げない」

「へ?なんで?」

「いつもお姉ちゃんかお母さんが着せてくれるんだもん」

 どんだけ甘やかされているんだよ。うちのルーニャは来たときから自分で着替えていたぞ。

「しょうがないな、ほら上のボタン外したからバンザイ」

「ん」

 いわれるままにバンザイしたナコルの服を脱がしお互い素っ裸になったところで小屋の扉を開けて中に入る。


 シャワー自体はレベルの上がったクリエイトで作れたが水を汲み上げる構造が分からなかった為に形だけ存在している。


「ほら、そこに座って」

 とりあえずナコルをシャワーの前に作った岩の椅子に座らせ、お湯を貯めてある瓶から桶で頭を流していく。

「うわぁ!何?」

「頭を洗うんだよ」

「だったらもっと優し……あん」

 俺は問答無用で家にある物を思い出し創ったシャンプーで洗っていくとナコルは気持ちがいいようで文句を言わなくなった。

 それにしてもこいつも髪の毛サラッサラだな。綺麗な金色だし。

「流すぞ」

「へ?ちょっとま……ぶぶっ」

「じゃあ次はトリートメントしてくぞ」

「はぁはぁ死ぬかと思っ……んう」

 トリートメントが終わりお湯で絞ったタオルを頭に巻いてやる。

「背中は洗ってやるから前はその石鹸とこのタオル使って自分で洗いな」

「ん」

 今度は素直にタオルを受け取り石鹸を泡立てて自分の体を洗っていた。


「よし綺麗になったな、じゃあ湯船に浸かっていいぞ。ぬるかったらいってくれ」

 俺は自分の体を洗いながらいう。

「ゆぶね?」

「ああ、後ろのお湯ためてある中に入るんだよ」

「なんで?」

「なんでも」

「……なんか怖い」 

「仕方が無いな。ほら入るぞ」

 俺はナコルを抱っこして湯船に足を入れ温度を確認した。丁度よかった為そのまま湯船に体を沈めた。


「あぁぁあやっぱ風呂はいいな」

「…………」

「どうした?」

「お兄さんの家にもあるの?」

「風呂か?」

「うん」

「あるよ。初めはシャワーだけだったけどいつの間にかできてた」

「え?お風呂って勝手にできるの?」

「あはは、そんな訳ないだろ」

「ぶーズルい」

「どうした?」

「ルーニャちゃんばっかズルい」

「そうか?ルーニャからしたらお前のがずっと羨ましいと思うぞ」

「え?何で?」

「あの子はもう本当の家族はいないし、友達もこの間死んじゃって会えないからな。

 だから同い年ってリンネさんから聞いてお前に会うの凄く楽しみにしてたんだよ」

「……え?」

「大事な家族なんだもう意地悪するなよ」

「……あたし酷い事いっちゃった」

「そうだな、前の日からずっとお前と会った時の事考えてワクワクしてたしな」

「……うそ」

「嘘じゃないさ、ルーニャがどうしても一緒に行きたいっていったから無理やりこんな危ない所まで連れてきたんだ」

「あたしルーニャちゃんに謝る」

「おう、そうしてくれ。じゃあそろそろ出るか」

「ん」


 俺らは出てクリエイトでリンネの着替えを新しく創り、着がえさせてベッドに入る。

 リンネは入った瞬間に泥のように深い眠りに落ちていった。


「……まあこいつもある意味じゃ今回の被害者か」


 俺もリンネの頭を撫でるのをやめ一緒に眠る事にした。


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