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3章 27話:契約

3章 27話:契約


「ちょ、ちょっと待った!お前はなんなんだ?俺らなんかお前に怨み買ったか?これでも分が悪い勝負は避けてきたんだけどなー。全く参ったぜ」

「ああそれか、俺は攫われた女の子を連れ戻しにきただけだ」

「女の子?ああ、あの商人の積み荷のガキか?マジかよ、チッ、あんなの拾ってくるんじゃなかったぜ。しくじっちまったな、これじゃたとえ売っても大損じゃねーか」

「もういいか?」

「もうちょっと待った!なあ、あのガキには俺らは手を出してねえ!

 まあちょっと部下がぶっかけてるかもしれねーが……まあまだ無事って訳だ。

 あいつをあんたに返すから見逃してくれねーか?」

「信用できないな。戦闘前なら交渉の余地はあったが……まあなんだ俺があんたの部下を殺したからな、その…(した)われていたみたいだし俺に怨みもあるだろう?」

「そりゃあるさ、だがな俺は一応こんなんでもこいつらの親分だからな、あの壁の向こうの奴らは生きてるんだろ?」

「ああ、塞いだだけだからな。だが完全に塞いでいるからあの先は距離が無くければいずれ酸欠で死ぬだろうな」

「だろ?だったら俺は死んだ奴等の為にも全滅を避けなきゃならねーんだよ」

「とりあえずあんたの考えは分かった事にしよう。それで、どうやって俺を信用させるんだ?」

「それなんだよなーあんた殺して欲しい奴とかいるか?」

「いたけどあんたらが殺しただろ?」

「あの商人か……参ったね。こっちには捨て札がねーって訳だ……」

「そっちに行くつもりなら俺はお前らを全滅させなければいけなくなるぞ」

 クナイを動く前に足元に投げた。敵の親分は目線を一瞬だけ右の穴に向けたからだ。

 さっき索敵とかいってたからクレアってよりルーニャの気配を察知しているんだろう。

「参ったよ、降参だ!ほらよ」

 持っていた武器をこっちに投げ両手を上に上げる。

 まだあいつには魔法があるから油断はしないけどな。

「【ロックバインド】悪いけど拘束させてもらう」

「はいよ、好きにしてくれ……でも時間がねーんだなんか要望があるなら早くして欲しいね」

 全員殺すのも寝覚めが悪いし少しは何とかする事にしよう。

「質問させてくれ」

「何でもどうぞ?」

「あんたらはどこ出身なんだ?」

「俺は一応【ガナリデウス】だ。あと他の奴等はキュラスで底値で売られてた奴隷ばっかだな。顔も頭も悪いしな、ははは!街道で商人襲って集めた金で俺が買ったんだよ」

「その生き方をこれからも続けるのか?」

「それ以外の生き方をあいつら知らねーからな。

 俺は孤児で拾われた孤児院に五歳で売られて奴隷になったが良い師匠に才能があるって買われたんだよ。

 毎日魔法と剣術を教わって師匠が死ぬときに解放されたから奴隷じゃねーけど……

 他の奴等はそうじゃねーんだ、親に売られた奴、スラムで食い物がねーから自分で奴隷にしてくれって奴隷商に懇願した奴もいるくらいだ。

 毎日を生きるのに必死なんだよ」

 日本で平和に暮らしていた俺にはなかなかハードな内容だった。

「でも女の子は売るつもりだったんだろ?」

「そりゃ俺らにはあのガキは関係ないからな。売ったらその金で女でも久々に買おうと思ってたんだがね」

 まあそりゃそうだな。あくまでナコルは積み荷だった訳だしな。こいつらなら高値で売れれば生活の足しになればって思うか。

「……じゃあ俺が毎日の三食と寝床と給金を用意したらお前らは俺の下で働くか?」

「そりゃ断る理由はねーけど、俺らが裏切るかもしれねーぜ?」

「ああ、だから俺の奴隷になってもらう」

「はぁ……結局、奴隷に逆戻りかよ。まあこの際しゃーなしだ、いいぜ」

「まあ奴隷っていっても首輪付ける訳じゃないし安心しろよ。ただ色々と禁止事項を契約して違反した場合には最悪死んでもらうけどな」

「そりゃまた面倒なことで、まあ何だっていいさ禁止事項ってのは?」


 俺が定めた禁止事項はこんな感じだった。


①:人を殺さない(犯罪者を除く)

②:物を盗まない

③:大きな迷惑をかけない


 充分でしょ?


「まあ生活保障してもらえるなら問題ねーけどよ……その」

「ああ、ちゃんと三食寝床と給料は初めは日払いで一日銀貨二枚でどうだ?

 ついでに冒険者と商業ギルドにも登録させてやる。その報酬は俺には渡さなくていい。登録料はいずれ返してもらうけどな」

「それなら断る理由はねーな。その条件が本当ならだけどな」

「契約だからな俺が違反したらあんたら全員解放するよ。どうする?」

 寝床は教会に部屋がいくらでも余ってるし、布団くらいは創ってやるとして飯も一食銅貨五枚支給すれば充分だろう。日当はひとりあたり3500円か。この世界だとどうなの?スーパーブラック企業なみとかいわれないよね?

「仕事内容を教えてくれ。でも俺以外は読み書きもできねーぞ?」

「その辺は大丈夫だ、あんたらには交代で教会でボランティア活動の手伝いをしてもらう」

「は?」 

 うん。何とも普通の反応だった。

「まあ訳があって俺達はレスティって女神様を信仰してるんだよ。

 その女神様の加護下の教会で病人や怪我人を回復させてるって訳だ。もちろん無償でだけど、まあ慣れてきたらあんたらにも回復魔法を覚えてもらうつもりだけどな」

「悪いんだけど俺は炎魔法の適正はあったけど回復は無理だったから期待には添えないと思うぜ、それに無償……ってそれじゃあんた俺らに給料払えねーじゃねーか!」

「その辺は慣れてきたらだな。これでも一応俺も冒険者だからそれなりに稼いでるんだよ」

 嘘です。稼いでるのは殆どクレアです。アンデッドを浄化した時の残りから出します。これから本格的に稼がないとな……

「まあどっちにしろ俺にはここで頷く以外の選択肢は残されてねーんだけどな」

「じゃあいいんだな?」

「ああ、部下は俺が責任持って納得させるわ」

「あ、名前教えてもらえる?俺はアキね」

「ははは、今更かよ。まあいいぜ俺はネムレスだこれから頼むよご主人様」 

 男にいわれても心底嬉しくない台詞だった。

 そんな事はさておき、ネムレスの額に手をかざし【契約】を使う。

 禁止事項と条件は先程の通りだ。

 契約が完了しネムレスの右耳の後ろにワンポイントの奴隷紋が刻まれた。

「これで完了だ、まあ実感はあんまり湧かないと思うけど、ちゃんと契約はされているから禁止事項は守れよ?」

「ああ、わかってるさ命賭けて助けてもらったんだからな。……そろそろ壁の中入れてくれねーか?」

「ああ、説得できたら呼んでくれ」

 ロックウォールを解除しネムレスが入ってから七割程塞いだ。


 ふぅー……ひと段落だな……

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