3章 26話:奇襲
3章 26話:奇襲
という訳で、灯を消し山にある洞窟を確認できる場所……要するに盗賊達の拠点の近くまでクレアの【暗視】を頼りにやってきた。何故転移で移動しなかったというと単に盗賊達の移動が遅かったためだ。
ひとりひとりが積荷を担いで運んでいるのだから仕方がないのかもしれない。そもそも山は緩やかだが整備された道は無く獣道を進んでいる。灯もあまり上には上げず足元のみを照らし、しんがりは通った痕跡を隠す徹底ぶりだった。
「じゃあ確認しようか」
「いつでもいいよ」
「はい!」
「まず入り口にいる見張りを俺の【岩拘束】で封じてから中に入って別行動でオッケー?」
「ちょっと待って……アキ君。帰ったら訓練結果を教えてもらって良い?ロックバインドって土魔法レベル10よね?」
「うん、そうだけど?なんで?」
「なんで?ってこっちの台詞よ!確かに魔法は使い続けていけばレベルは上がるけどこの短期間でレベル10越えは異常よ?」
「そうなの?でも鍛えたのは【投擲術】【剣術】【土魔法】【創造】くらいだよ。ステータスは結構上がったけど。」
「最近随分とクエストの効率が良くなったとは思ってたけどまさかそんなに上がってたなんて……」
「おにいちゃん、おねえちゃんまだ行かニャいの?」
「ゴメンね、じゃあルーニャにはこれ」
服のポケットから鉄製の黒く染めたクナイを20本収納したウエストポーチと刀身を黒くした小刀を取り出す。
これは俺が【創造】で作ったものだ。鑑定したらこんな感じだった。
Bランク 苦無+25 重量0.2 長さ0.25
Bランク 忍者小刀+45 重量1.5 【隠蔽】
効果:刀身を隠蔽する。間合いが計れなくなる
本来5歳の人間の女の子なら持てないだろうが、レベルが存在するこの世界ではルーニャの筋力レベルは訓練により底上げされており腰につけて持ち運ぶ事は可能だ。
クナイを入れているバックは移動中に音がならないように仕切りをつけて且つ取りやすいよう機能性を考慮してある自信作だった。
「わー!これ使ってもいいの?」
「いいけど、いつもの訓練より危ないものだから自分を守るために使ってね。クレア」
「大丈夫わかってる」
ちゃんと守るよって感じで頷いた。
「じゃあ行くよ」
「「はーい」」
「【ロックオン】【ロックバインド】【ウィンドエンチャント】」
俺は見張りの盗賊ふたりの顔を岩で拘束し、悲鳴が漏れないうちにクナイを性格に心臓に投擲する。見張りは鉄の胸当てをつけているがそんなのは関係ない。
女神騎士レベル6で習得した【付与魔法】でクナイに風魔法を振動させながら纏わせて一気に貫いた。
完全に動かなくなったのを確認してから、少し不満げに頬を膨らませるクレアを無視して中に入る。
いや、だってさ一所懸命取ったスキルはやっぱり自慢したいじゃん?
まあそれは置いておいて中を進むと話し声が聞こえてくる。息を殺し中を覗き見ると……
「まさかこんな真夜中にこんな収穫があるとはな!見張りの奴らもサボってなかったて事だな!明日はとっとと全部売り払って夜はお楽しみにすんぞ!」
「さすがは親分っす!」
「今から我慢できなくなってきましたよ!一発あのガキにぶっかけてきていいっすか?」
「かけるだけならいいけどよーあんまり汚すなよ?たっけー売りもんなんだからな!」
「へへへ、了解っす!じゃ!」
ひとりが立ち上がり皆がいる部屋?というか空間から抜け出し向かって右の穴へ進んでいく。
「あいつも業が深いっすねー子供にしか反応しないなんてさ、あははは!」
「まったくだぜ、俺の部下には何故か変態が多いのは頭を悩ませるところだ!お前は尻にしか興味ねーんだっけ?」
「うっはー俺っすか?いやね親分、尻はいいんすよ!何ていえばいいのかわかんねーっすけど特にエルフの尻は……」
「ああ、振った俺が悪かったって!まあ明日は大好きなエルフでも買えや!」
「ひゃーー想像しただけでもう我慢できねーっす!俺は一発ヌいて寝ますよ!」
またひとり今度は左側の通路へ入っていく。この空間には残り五人でそのうち三人は横になって寝ている。
「本当にどうして俺の下にはこんな奴らばっかり集まってくるんだかね……」
「まあいいじゃないっすか、皆親分の事を慕ってるのは確かなんですから!」
「俺もなんとなくそれを感じてるから変態は出てけ!っていえねーしな。ははははは」
「それに俺から見りゃ親分も結構なもんですよ?店三軒梯子して店毎で三人ずつ上玉指名するなんて……羨ましいっす!」
…………
クレアはルーニャの耳をしっかりと塞いでいた。確かにこれは子供の教育上良くないな。
「クレアとルーニャは右側の通路へ、俺が焚き火を消して注意を惹きつけるから」
「あの親分は結構強いけどアキ君大丈夫なの?」
クレアは親分のステータスを覗いたのだろう。俺の鑑定では見れないけど。
「やれるだけやってみるよ。一応切り札もあるしね。ルーニャは大丈夫?」
「うん!」
殺る気充分な六歳児ってどうなのかな?
「じゃあ行くよ、【創造】【ロックオン】【ロックバインド】【水球】」
創造で水を創り、目標を補足する。焚き火を消す前に寝ている奴等を岩で拘束する。仕上げは水球で焚き火を消すついでにクナイを投げて終わりだ……
カキンッ
「い、痛え!な、何だ!?親分無事ですか!?」
「慌てんなよ!俺があんな不意打ちでやられる訳ねーだろ!俺の【索敵】で虫がいる事は気づいてたけど……今日の虫は結構やるらしいな!【火球】」
敵の親分はクナイを剣で弾き飛ばし火球で部屋を照らした。
とはいえ、クレアたちはその隙に右の穴に【転移】で侵入しているんだけど。
ちなみにクレア曰く洞窟とかではあんまり転移を使いたくないらしい。理由は岩に挟まったりすると痛いかららしい。普通なら死ぬって事だ。見えている範囲になら安全に転移できるらしいから、右の穴の入り口まで転移する為に今回の奇襲は必要だったといえる。
「仕方ないか……」
覚悟を決めポケットから剣とクナイの入ったケースを出し腰に付ける。
Aランク インビジブルソード+50 重量3.5 【完全隠蔽】
効果:持主とパーティメンバー以外から武器の存在を把握できなくする
【ウィンドエンチャント】をクナイと剣に付与し、【岩壁】で左の通路を完全に塞ぐ。
「な、何だ?親分っ!?」
「ビビってんじゃねーよ。そろそろ来んぞ!武器構えろ!」
「……(ゴクリッ)」
部下は足に刺さったクナイを抜き足元に置いてあった両手剣を構える。
「ふぅー…………よしっ!」
深呼吸をし、先程の目標を補足し続けている相手にクナイを投擲しながら中に入る。
ロックバインドで拘束された手下共を岩ごとクナイで貫通させ正確に屠り、敵の親分と生き残っている手下にクナイを投げていく。
「おいおいまじかよ!?くっ、おい、剣で受けんな死ぬぞ!っと、避けろ!」
敵の親分は何かを感じ取ったのか先程のように武器で弾くのは止め最小限の動きで避ける。こいつ本当に盗賊か?でも、部下はそうはいかないよな。
「ぐふっ……すません」
敵の親分の忠告の前に剣で受けてそのまま貫通していた部下が倒れる。
「はぁはぁ……ふぅ、すぅ、はぁーすぅーーはぁーーーー。あとひとり」
対人戦闘のプレッシャーで体力が予想以上に削られ息が上がる。
だが、敵はあとひとりだ、油断をせずしっかりと片付ける事に集中しないと……
行くぞ!




