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3章 25話:チート女神

3章 25話:チート女神


 夜の闇で覆われ灯がなければ足元もまともに見えないような街道を一頭の馬とそれに乗る青年と少女が駆けていた。

 俺は【炎魔法】で強化したランプを掲げ足元を照らし、ルーニャは馬に【回復魔法】を掛け本来の休憩を八割カットする。流石に水分補給は二時間に一度は取っている。

 

 そして二回目の水分補給が終わり、また走り出した時に前に大きな灯が見えた。

 いや、大きすぎる灯が見えた。

 馬を走らせて近づくと、荷馬車は油を撒かれたのか火柱が立ち上っていた。見る限り荷と馬は奪われたようだ。

 ルーニャにはここで馬と残っているようにいった。怯えながらもしっかり頷き馬にしがみついている。

 予備のランプを持ち生き残りは?と探すと街道の隅に御者の商人が投げ捨てられている。


「大丈夫ですか?」

 以前と同じように肩を軽く叩き意識の確認をするのだがダメだった。もう事切れている。体からは未だ血が流れ続けている。

 ランプで照らせば何箇所も刺された痕があり、表情を見る限り苦しんで死んだのだろう。

 あんまりこういう事はしたくはないが身分証がないか血まみれの衣服の中に手を入れて漁る。

 これか?血まみれで何て書いてあるか判らないカードを取り出す。

「【創造】!」

 水を作り出し洗うと商業ギルドの登録カードでアームスと書かれている。

「……当たりか」

 でもどうする……と考えながらもルーニャのところへ戻る。


「おにいちゃん、あっちにちっちゃい灯があるよ」

 ルーニャが指差す方を見ると、街道から外れた先にある小さな山にポツポツ灯が見えた。距離的にもここを襲った盗賊の灯りで間違いないだろう。

 だが、流石にルーニャを連れて行く訳には……

「おにいちゃん行こうよ!」

 震えながらもしっかりと俺の服を掴み力強い目と言葉で訴えてくる。

「流石にルーニャをこれ以上危険な目には合わせられないよ。一回街に戻ってからじゃないと……」

「ダメだよ!もしさらわれちゃったニャら今ぜったい怖いもん!わたしもゴブリンに襲われた時、本当に……本当に怖かったもん……」

 目に涙を浮かべて訴えてくるルーニャの顔を見るとどうしたらいいか決意が鈍る。

 こんな時にせめてクレアがいてくれれば……

『アキ君何かお困りごと?』

 はい?何でクレアの声が聞こえるの?

『だーかーら、アキ君何か困ってるの?』

 どこから聞こえるんだ?

「クレアか?どこにいるんだ?」

「どうしたのおにいちゃん?おねえちゃんはいないよ?」

『あーゴメンゴメン。これは【念話】ってスキルでアキ君の頭の中に声を送ってるんだよ。ちょっと待ってね【追跡】でアキ君たちの位置特定するから……』

 何でもありだな女神様。


「ふう。お待たせ!」

「お、おねえちゃん!?どうして?」

「ふふふ【転移(テレポート)】ってスキルよ。すごいでしょ?」

 まさか俺たちが四時間以上馬で駆けた距離を一瞬で飛んでくるとは……ってそのスキルあったらとっととナコル助けられたんじゃないの?

「アキ君それは無理なの。【追跡(チェイス)】は【探索】のレベルが上がったら取れるスキルでね。

 街を出る前にアキ君をダーゲットにしていたから位置が特定できたけど……その、知らない人をターゲットにはできないから」

 まあ充分反則級なスキルだとは思うけど。念話に追跡に転移ね……暗殺者かよ。

 まあいい。

「なるほどね……で、恐らくあの山に積み荷を運んでるっぽいから多分盗賊なら拠点があるんじゃないかな?」

「ルーニャが灯みつけたの!」

「ルーニャちゃんが?凄いね大手柄だよ!」

 クレアがルーニャを撫でて褒めてあげている。メッチャ和むわ、俺も撫でておこう。

「ちょ、ちょっとアキ君何で私まで撫でられてるの?」

 どうせならと二人を撫でたらクレアは顔を真っ赤にしていた。何この女神こういう事には弱いの?

「もー!おにいちゃんもおねえちゃんも早く行かニャきゃダメニャの!」

「「すみませんでした」」

 まさかこのパーティで一番しっかりしてるのはルーニャなのか?


「で、クレアどうする?敵さえ見つかれば俺が黒く染めた鉄クナイで全部いけると思うけど」

「そんなに投擲レベル上げたの?」

「うん。レベル15まで上がってレベル10の時に【目標補足(ターゲットロック)】ってスキル覚えたから十メートルくらいの距離ならまず外さないよ」

「あの地味な訓練でそこまでレベル上げてたと思うと私はアキ君を尊敬するよ」

「え?レベル10で新しいスキルおぼえられるの?わたしもあと1レベル上がればそのスキルおぼえれるんだね頑張る!」

「アキ君どれだけこの子と一緒に訓練してるの?まだ5歳の子供が投擲レベル9なんてありえないのよ?」

「いや、なんていうか最近はリンネさんも一緒にやってたから気合入っちゃったみたいでさ。

 ……それに剣術の組み手とかもやってるし……多分そっちも上がっていると思うよ?」

「アキ君はルーニャちゃんを【くノ一】(女忍者)にでもするつもりなの?」

「え?おねえちゃんわたし【くノ一】にニャれるの?」

「あ、えーっとそうだね、頑張ればなれるかもね?」

 今日一番ルーニャは目を輝かせていた。ちなみに忍者の話は投擲の訓練をしている際に俺が話した。ルーニャは格好良いと大変お気に入りだった。


 で、結局のところこうなった。

 ①:灯を消しクレアの【暗視】で拠点まで行く。

 ②:拠点内ではクレアとルーニャはナコルを探す。俺は敵を倒す。

 ③:ナコルを見つけたら、クレアと俺で殲滅。ルーニャはナコルと隠れている。

 ④:無事帰還


 まあこんな感じだ。もうナコルが死んでたら?それは知らん。殲滅だけして帰るさ。


 じゃあ行きますかね。

 二度目の対人戦?いやあれはカウントに入らないか。


 俺の初対人戦はどうなるのかね。


~ナコル~


「んぅ?ん?むぐぅ?」

 あれ?あたし今どこにいるの?手足は動かないし、前も見えない、口も何か詰められている。

「ふぉ、ふぉっふぉふぁふぇふぁ?ふぁふぇふぁ?」

「おや、目が覚めてしまいましたか?

 まあ何もできないでしょうし、このまま売ってしまえば私は暫く生活するお金には困りませんからね。

 申し訳ないですがもう暫くそのままでお願いしますよ」 

 誰?いやこの声はさっきのおじさん?

 あたしどうしたんだっけ?おじさんに声をかけられて飲み物貰って飲んで……

 変な物飲んじゃったんだ……

 あたしこれからどうなるの?もう死んじゃうの?

 怖いよ……でももうお姉ちゃん達に怒られなくて済むかな。それならいいかな。

 怖さはあったけど、何もできないしいつの間にか寝てたけど、急に止まった揺れと、いきなりの大きな声で目が覚めた。


「野郎共、こんな真夜中に護衛も付けないで旅している商人様だ!

 大層腕に自身があるんだろう!でも俺達にはそんなの関係ねーな?

 鴨が葱を背負(しょ)ってきやがった!全部ありがたくいただけ!」

「「「うぉぉぉぉーーー」」」

「な、何ですか?あなたたちは?お金ですか?お金ならここにある分で見逃してもらえませんか?」

「ほお流石は商人様だ結構持ってるじゃねーか。ありがたくいただくぜ!

 野郎共!商人様は俺らにお金をくださったぞ!一思いに殺してやれ!」

「マジッすか?了解っす親分!俺が殺りますよ!オラァ!」

「ぐはっ……どうして…」


 なんで急にこんな事になっちゃったの?そんなにあたしが悪い事したの?

 これからどうなるのよ……


「親分ここに子供がいますぜ!」

「ほう連れて来い!」

「うぃーっす!」


 きゃあ何?触らないでよ?あたしをどうするの?


「ほう綺麗な身なりしたガキじゃねーか。成る程ねキュラスで売りさばくつもりだったのか……何だよこいつも悪人じゃねーか。はははは!」

 ど、どういう事?

「で、どうします親分?もしよければ俺が味わいたいんですが」

 味わうって食べられちゃうの?

「お前にやってもいいんだが……どうせならキュラスで捌いて山分けした金で好きな女買ったらどうだ?こいつは処女だろうし結構な金になると思うぜ?」

 女を買う?ショジョ?何それ?

「俺は親分の判断に従いますよ」

「そうか、じゃあキュラスで売る事に決定な。まあお前には少し多めにやるからよ。それで勘弁してくれ」

「あ、ありがとうございます!」

「おう!野郎共積荷はどうだ?」

「「「準備おっけーっす!」」」

「じゃあとっとと帰んぞ!荷馬車に火を付けろ!」

「「「おぉぉぉぉー」」」


 あたしこれからどうなっちゃうの……

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