3章 24話:ナコル
3章 24話:リンネ
「アキ様、クレア様、ルーニャちゃん本当にすみませんでした。
言い訳になってしまいますが、時間になっても来ないので何かあったのかと思ってギルドの方にも行ったのですが今日は見ていないといわれまして……
それで一度家に帰り祖母と母に確認しても知らないといわれたのですが、この子に聞くと言葉を濁すので……追求したら帰らせたと判り謝りに来させていただきました」
「今回は仕様がないですよ。その子も俺たちが来ること知らなかったようですし……」
「どういう事ですか?」
え?何いってるんですか?とでもいいたいような顔でリンネさんは隣の子を見た。
「えっと……まあ終わったことですし、俺たちもこうして話せて良かったですから。ねクレア」
女の子は俯いて何もいわない。もしかしたら少し泣いているのかもしれなかった。
「え?ああそうだね。ルーニャちゃんも大丈夫だよね?」
俺とクレアに手を繋がれてるルーニャも女の子と同様俯いてしまっている。まいったな……
「…………ねえ、わたしがきらいニャの?」
ルーニャはまだ気にしていたようで直接疑問を相手の子にぶつけた。
女の子は一回顔を上げるがすぐにまた俯いてダンマリだった。
「ルーニャちゃんゴメンね、この子人と話すのが苦手なの。ほらナコルしっかり自分で謝りなさい」
「……ヤダ。あたし悪くないもん!」
「いい加減にしなさい!いつもこうじゃない!このままだともう家には入れないからね!」
リンネさんが声を荒げた事でウチのルーニャがビクッとして尻尾がピーンと立っていた。
「……もん……別にいいもん!もう帰らないから!お姉ちゃんなんて大っ嫌い!」
ナコルはリンネさんの腕を振り切り走って去って行ってしまった。
……ってヤバくない?
「本当にすみませんでした。今日の事はいってあったんですが……私がルーニャちゃんの事を話すと不機嫌になったので多分焼き餅でも焼いたんだと思います」
「やっぱり……わたしのせいニャの?」
「あーゴメンね。そうじゃないの、悪いのは私よ。ルーニャちゃんじゃないから本当に気にしないで」
リンネさんはしゃがんでルーニャの頭を撫でながら優しく諭した。
「でも、もう日も暮れるし探さないと不味いですね」
「そうね、もう最後の鐘が鳴る時間だよ」
「私が探しますので皆さんは気にしないで下さい。本当に今日はすみませんでした」
頭を下げて小走りで探しに行くリンネさん。口では厳しく言っても心配なのだろう。
「クレア」
「ええ、ルーニャちゃんはシーナさんに頼むからアキ君は先行っ……」
「いや!」
いきなりルーニャが大声で否定した。
「ルーニャどうしたの?」
「わたしも探すの!」
「ルーニャちゃん……もう暗くなるし危ないから私は賛成できないよ?」
「俺も子供を夜連れ回すのは良い事とは思えないな」
「……で、でも」
「どうしたの?」
「まだ答え聞いてニャいもん。わたしをきらいニャのか聞いてニャいもん!」
「そんな事いったって……ねえアキ君」
そんな困った顔でこっち見ないでよ。ふたりして同じ顔して本当の姉妹みたいじゃん。
「わかったよ。俺がルーニャを肩車して連れて行くよ。ルーニャもそれでいいなら連れて行ってあげる」
「おにいちゃん大好き!」
全く、そういえば何でもいう事聞くと思ってるな?正解だよ!
そんな訳で俺+ルーニャとクレアで分かれて探すことにした。クレアは教会のメンバーも手伝ってもらうといっていた。
もう探し始めてから六時間は経ちそろそろ日を跨ごうとしている。ルーニャも流石にこんな時間まで起きていた事がなく欠伸を噛み殺して声を出すが未だに見つからない。どんどん嫌な方向へ考えが進んでしまう。
クレアの持つ【探索】のスキルも人までは見つけられず手探りで探すしかない状況だった。
リンネさんは今では顔は真っ青で自分を責め続けている。父親であろう人に諭されているが首を振り涙を堪えているように見えた。
各門の衛兵に聞いても『子供が外にてたのは確認していない』といっているし、街の中にいるとは思うのだが……
念のためリンネさんが商業ギルドの権限で衛兵に出場の記録を見せてもらう。
そこには冒険者に混じり、ひとりだけ商人の出場記録が残っていた。
名前はアームス。よくこの街に北の村から麦を売りに来る商人だ。
街を東から出た時間は二時間前。しかも街に来たのは五時間前で三時間しか滞在していない事になる。
衛兵も荷を確認したところ来た時と殆ど変わらない荷で不振に思ったらしいが『こっちも生活がかかってますからね……思ったよりも低い値しか付かなかったんで次の街を目指します』といってそそくさと去っていった。といっていた。
商人の荷を積んだ夜の移動は盗賊にとって格好の獲物になる。基本は冒険者ギルドで護衛の依頼を出すのが定石なのだが……
どうしても早く出なければならない理由があったのか……疑う時間はないか。
俺とルーニャはこの商人を追う事にする。
一旦家に帰り【騎乗】のスキルスクロールを読み、教会のメンバーから馬を借りその場で覚えながら目指す。
早くしないと取り返しのつかない事になってしまう。
商人の向かった先は隣国【ガナリデウス】内の西の都市【キュラス】だ。
この街からだと馬車で休憩を入れて六時間って所にある。国境を越える際には通行税も掛かる為できればそれまでに捕らえたい。
キュラスではこの国とは違い奴隷が当たり前のように存在し、攫ってきた獣人やエルフの子供を闇市で富裕層の好き者に高値で売っていると冒険者達がいっていた。
大方騙して攫い寝てる間にでも隷属の首輪を付けるのだろう。
最悪そんな事になれば一番自分を責めるのはリンネだ。答えも聞けないルーニャも傷つくだろう。俺は正直ナコルなんてどうでもいいがリンネのため、ルーニャのために馬を走らせた。
間に合ってくれ!
~ナコル~
一週間前からお姉ちゃんがルーニャという子の話をあたしにずっとしてくる。
あたしと同い年で、あたしと友達になりたいらしい。
あたしは、お姉ちゃんがそのルーニャって子に取られたようで嫌な気持ちになった。
あたしは明日の六回目の鐘が鳴る頃にその子が来るから来たら中に案内するようにいわれた。
あたしは知らないふりをして帰した。
すぐにバレてお姉ちゃんに怒られた。しかもそのままその子のい家に行き四時間以上も外で待たされた。
最後の鐘が鳴る少し前にその子たちは帰ってきた。両手をお兄さんとお姉さんに繋がれ幸せそうだった。見た目も可愛らしいし、着ている服も可愛らしかった。そんな幸せな奴にお姉ちゃんまで取られたと思うとムカついた。
お姉ちゃんはそいつらに謝った。向こうも私を庇ってくれて許してくれた。悪い奴等じゃないみたいだった。
でも、お姉ちゃんに謝るようにいわれた。絶対に嫌だった。
そしてあたしは逃げ出した。
最初は行く場所も思いつかなかったから家の物置に隠れていた。暫くするとあたしを探しているようであたしの名前が呼ばれ続けていた。
ここにいたらバレる。バレたらまたお姉ちゃんに怒られる。今度はお母さんとお父さんにも怒られるかもしれない。絶対に逃げなきゃって思った。
街の東門の辺まで走って逃げてきて疲れて座り込んだ。
そしたら商人の叔父さんに声を掛けられた。
「お譲ちゃん。こんな夜遅くにひとりでいたら危ないよ。疲れたならこれあげるから早く家に帰りなさい」
って言われて飲み物を貰った。たくさん走ってのども渇いていたからそのまま飲み干した。
「……ありがと。じゃ」
あれ、何か真っ直ぐ立てない?おかしいな何で……
あたしは意識を失った。




