3章 21話:早すぎる来客
3章 21話:早すぎる来客
「お姉ちゃんできたよ~」
キッチンでルーニャとクレアが一緒に料理を作っている。
「ありがとね、じゃあ……今度はこれを潰しながら混ぜてくれる?」
今度はポテトサラダを作るようだった。
ちなみに俺は芋を完全に潰さず芋の食感を楽しめるくらいが好みだ。
そんな俺は何をしているかというと……何もしていなかった。
クレアには「昨日いっぱい荷物運んでもらったから休んでて」といわれた。
ルーニャには「料理は女の子が作るの!」と追い出されてしまった。この子いい嫁さんになるな……やらんけど。
そんな訳で絶賛暇を持て余し中だった。
鐘もまだ4回目が鳴ったばかりであと2時間もある。このままだらけてると流石に罪悪感が込み上げてくるので訓練でもする事にし、玄関を開けた。
「……何してるんですか?」
そこにはコソコソと中を除く不審者……もといリンネさんがいた。白いワイシャツに赤のカーディガンを羽織り、黒の膝丈スカートで黒のヒールを履いている。相変わらず良いスタイルだ。
流石に相談する立場なのにもてなしてもらいっぱなしは悪いと思ったのか料理の入った容器がバッグから覗いている。
「あ、いえこれは……その……えーっと、失礼します!」
「ちょ、ちょっと待って!」
なかった事にして帰ろうとするリンネさんを呼びとめる。
「後生です見なかった事にして下さい!」
恥ずかしさからか結構な力で引っ張られる。しかし見てしまった以上このまま帰す訳にもいかない。はたから見れば嫌がる女を無理やり襲ってる男(俺)だ。まずい、こんなのご近所さんに見せられない。どうしようかと悩みながらの攻防を繰り広げていると玄関が急に開いた。
「……何やってるの?」
そこには腕を組みジト目でこっちを見ているクレアさんがいた。その後ろにはクレアと同じように腕を組むルーニャもいた。何で?
ここでやっと観念したリンネさんが話す。曰く流石に相談を持ちかけたのにお世話になるのは忍びなかった。せめて一品でも料理をと持ってきたがノックする勇気がなかった。そんな時に俺に見つかって恥ずかしくなって逃げようとしたところに、クレアとルーニャに見つかった。とテンプレのような内容だった。
クレアはリンネから料理を受け取り、俺に話し相手にでもなっているようにいって中に入っていった。
「中には入らせてもらえないので裏に案内しますね」
「すみません」
すっかり落ち込んだリンネさんを家の裏手に案内する。ここは元々手入れしていなかった木々や草が生い茂っていたのだが、魔法で除草したら綺麗な空き地になった。そして勝手だが創造で岩のブロックを作り出して壁を作り天井の無い俺とルーニャの魔法練習場になっている。
中は8畳程の空間だが、入り口とは反対側の壁にアルミにガラスが嵌め込まれた明らかにこの時代のものではないドアが付いている。
今回は案内できないが風呂場と同じように異空間に繋がっており音が出る魔法の練習は近所迷惑にならないようそっちを使っている。これは俺が子鬼を勝手に討伐に行った理由で魔法の練習ができない事が一番だったため、クレアが作ってくれた。
そんな訳で、練習場に置いてある石でできたベンチに腰掛けるよう薦めた。
「何もないですけど料理ができるまでゆっくりしててください」
「ありがとうございます。でもアキ様は何かしようと思っていたのではないのでしょうか?」
玄関を開けて外に出ようとしていたのだから普通はそう思うよね。
「そうですね、ウチの女性陣が料理は女の子で作るの!っていうので訓練でもしようと思っていたんですよ」
「でしたら私の事は気にせず訓練なさってくれていいですよ」
「流石にお客さんより優先する事でもないですから」
「そうですか……すみません」
気にさせてしまったようでまた落ち込んでしまう。本当にこの人は年上なのに可愛いな!どうせなら狐獣人の姿になって欲しいよ。
「そうですね、ではリンネさんも一緒に訓練でもします?」
「訓練ですか?」
「あんまり大きい音が出るのは近所迷惑になるのでできませんけど……ちょっと見ててください。【創造】!」
俺は石のクナイを訓練用の腰より少し高いテーブルの上に百本創り出す。そして子鬼の形に切った厚めの木の的を三方の壁に掛けていく。
準備が終わると「行きます」といい、目を閉じて息を大きく吸い込み気持ちを落ち着かせる。目を開くとテーブルの上からクナイを掴み取り的に向かって投げていく。ダンッ!ダンッ!と一定の刺さる音と共に一週目は的の頭だけに命中させる。二週目は心臓部のみ、三週目は……と続け百本を投げきる。
「ハァ…ハァ……五本外しました」
「えっ?全部命中してますけど?」
「ハァハァ……フゥ……狙った場所から外れちゃったんです。本番では敵は動くのでこれで確実じゃないと足元掬われちゃうので。で、どうですやりますか?結構昼食前の良い運動になりますよ」
訓練場の角の棚から今朝補充したタオルを取り出し汗を拭き首に掛ける。
「でも私【投擲】のスキル持っていないのですが……」
「それでしたら大丈夫ですよ。ウチのルーニャも持ってなかったんですけど、続ける内にスキル獲得してたので。もしかしたらリンネさんも獲得できるかもしれませんね」
本来スキルを覚える時はSPを使用し、覚えたあとにある違和感を無くして習得するのだが、ルーニャは隣で投げる俺の動きを摸倣し完璧に【投擲】を身につけたために獲得できた。剣術や創術もスキル持ちと一緒に訓練し型を完全に摸倣すれば覚える事は可能だが、これは稀であり、摸倣で覚えられたのはルーニャの生まれ持ったセンスと異常なまでの集中力が生んだのだった。
そんな事は知らない俺はリンネに時間つぶしにどうかと勧めている。しかもリンネもSPを使用せずにスキルを覚えられるかもしれないと結構乗り気なようだった。
「やってみます!」
俺はクナイを拾い集め、正面の壁に円形の大き目の的をひとつ掛けた。
「では投げ方を教えるので俺を見ててもらっていいですか?」
「はい!」
いい返事だ。美人が隣で見つめてくるってドキドキするよね。そんな事は置いておいて投げ方のポイントを教えていき、教え終えると早速投げてみるようだ。気合は十分といったとこだろう。
「行きます!」
リンネさんは深呼吸をし的を構えて的を見据える。
そして、イメージができたのか投擲した。
ダンッ!中心ではないが右端に命中はしたようだった。納得いかないのかそのまま次のクナイを持ち構え投擲していく。ダンッ!今度は右上に当たる。リンネさんは続けてクナイを構え一心不乱に的に向けて投げ続けていく。
五十本は越えた位で滝の汗を流したリンネさんが限界を向かえ膝をついた。途中からは集中力を上げるためか人化を解いて、カーディガンを脱ぎ、シャツのボタンも半分は空けており黒い下着とそれに包まれる魅惑の果実が丸見えでドキドキしながらも間違った箇所にアドバイスをしていたのだがルーニャにも負けないすごい集中力だった。
俺はタオルと水を渡すと自身の状況を把握したリンネさんが顔を真っ赤にしシャツのボタンを閉める。……悔しくなんてないんだから。
「はぁ、はぁはぁ……はぁ…ふぅ……はぁはぁ……すみ、ません。ふぅ…ありがとう、ございます」
呼吸を整えながらリンネさんは俺からタオルと水を受け取り、一気に水を飲み干した。
「どうです?結構楽しいでしょ?」
「はぁ……そうですね。でも……こんなに、疲れるとは思いませんでした」
「おかげで良い物見せてもらえました。ありがとうございます」
「……アキ様は本当にエッチです」
頬を赤くし狐人姿のリンネさんに見上げられてそんな事を言われた俺は胸が締め付けられた。思わず耳を撫でようと手を伸ばそうとするが、リンネはびくっと驚き下がる。
「ご、ごめんなさい。……つい」
「い、いえ……その、アキ様は狐人族の掟を知っているのですか?」
「え、えっと……俺が知っているのは猫人族の掟かな」
「……そうですか。私たち狐人族は耳は信頼の置ける方にのみ、尻尾は生涯の伴侶にのみ触らせる事ができます。アキ様さえ良ければ触りますか?」
「え?どっちを?」
「ふふふ、好きな方でいいですよ」
「じゃ、じゃあ!」
尻尾をモフらせてもらいましょうか!
……ってそんな勇気は無いんですけどね。素直にリンネの頭に手を置き頭を撫でてから耳を触る。
「ん、んぅ……」
流石に恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯きながら声を漏らす。その声が色っぽくて俺の息子が、敵影確認。出ます!状態になりそうになるが、気合で沈める。ふぅー
「あ、ありがとうございます」
「い、いえ……始めて男の人に触られちゃいました」
「リンネさん!」
あまりの可愛さに自我を忘れ抱きしめようとした所で入り口のドアが勢いよく開き邪魔が入る。
「おにいちゃんご飯できましたー!」
ルーニャが勢いよく飛び込んでくる。勢いを殺しながら抱きしめ内心では助かった~と思っている俺だった。流石にあれは反則ですよ?
「呼びに来てくれたの?ルーニャわざわざありがとね」
「えへへ~」
ルーニャの頭を撫でると目を細めて気持ちよさそうにする。相変わらずうちの子は可愛い。
「リンネさん立てますか?ご飯にしようと思うんですけど……」
右手を差し出す。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
俺の右手はスルーされ普通に立ち上がるリンネさん。なんとも寂しい。
「じゃあ行きましょうか。あ、でも先に汗を流しますか?」
「そ、そのできれば……」
「ルーニャ、クレアにシャワーの準備をお願いしてきてくれる?」
「はーい!」
そうしてリンネをこの世界ではありえない技術のシャワーに案内するが、使い方が分かる訳もなくルーニャが一緒に入る事になった。
クレアは洗えるものは洗濯機に入れ、着替えを出すが主に胸の関係でクレアの服は着れなかったので俺が神界に来た時のスウェットを用意していた。
……あなたそれどこから出したんですか?




