2章 18話:約束
18話:約束
夢を見ている。前と同じ夢だ。
仄暗い深い森の中を疾走する白と黒の狼から逃げる俺。結局前と同じで、白い方に体当たりを喰らい、うつ伏せに倒れる。俺の背中には舌を出し、息を荒くした黒い方の狼が乗っかっており動くことはできない。またか……と思った時に「ダメー!」と声がする。そこには何かを連れたルーニャが立っていた。何でルーニャが?何を連れて来たんだ?
……と思った時に俺は目を覚ました。
「…………どうやったらこうなるんだよ」
目を覚ますとルーニャが俺の上にうつ伏せで抱きつき、右腕はクレアの枕にされている。
どうやら布団毎引っ越してきたようだ。
「ふぁ~アキ君おはよ」
俺が動いた事で気が付いたのかクレアが目を覚まし伸びをする。うん今日も良い乳だ。
「……おはよ」
「むー何か言いたげね。どしたの?」
「何でクレア達まで床で寝てんの?」
「えーっと、確か……そうそう、私が夜に一回目が覚めた時に隣見たらルーニャちゃんいなかったの。それでよく見たらアキ君の上で寝てたから布団掛けて上げたら、どうせならって私も一緒に寝る事にしたんだった!」
「ルーニャはまだ子供だからいいけど、クレアはもう大人みたいなもんだろ?言いたくないけど貞操観念しっかり持ったほうがいいんじゃない?俺だって……その、何ていうか……男だし」
「うーん。でも私は何かを抱かないと寝れないのは事実なのよ。アキ君も男っていうなら既成事実作っちゃう?」
「だ・か・らー前も言った通り俺は相思相愛になった人としたいの!一方通行は嫌なの!」
「むーわかったわよ。……私はアキ君の事ちゃんと好きなのに……こんなにアピールしてるのに」
「何?」
「何でもない!それより朝ごはん作るからルーニャちゃんはベッドで寝かせてあげて」
「りょーかい」
ルーニャを抱えてベッドに運び布団を掛けてやると、目を閉じたルーニャが寝ぼけて両手を前に出し「ん」と言ってきた。とりあえず両手を掴むと「んんー」と首を振っている。抱きしめて欲しいのか?と思い両手の間に首を入れるとルーニャに思いっきり抱きしめられた。どうやら正解だったようだ。しばらくこの体勢でいるとクレアが呼んでくる。
「さ、アキ君ルーニャちゃんそろそろ起こしてあげて。ご飯にしよっ♪」
「ルーニャ朝だよ。起きてご飯食べよう」
ご飯って言葉に反応したのかパッチリ目をさまし起きる。
「ご飯!ってあれ?お兄ちゃん?」
「ルナちゃんもアキ君と手を洗って」
「はーい。お姉ちゃんも……夢じゃなかったんだ」
俺はルーニャを抱えて洗面所へ連れて行った。まずは俺が手を洗い、身長が足らず届かないルーニャを抱っこして洗わせ、テーブルに着く。
「じゃあルーニャちゃん。食べる前は?」
「はい。あなた達への感謝を忘れません。いただきます」
「「いただきます」」
今日の朝ごはんはサンドウィッチにサラダとコンソメスープだったけど、ルーニャは「美味しい!すごく美味しい!」と喜びながら食べていた。
「ルーニャは昼まで何かしたい事あるか?」
「んーとね、わたしはお兄ちゃんとお姉ちゃんといっしょにいたいニャ!」
「じゃあ家でまったりしよっか」
「うんっ!」
何をするでもなく、ただ色々な話をして時間だけが過ぎていった。
~教会~
「おじさんただいま~」
「おかえりルーニャ。アキさん、クレアさん。ルナが大変お世話になりました。ほら、ルーニャもお礼を言いなさい」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、わたしに楽しい時間をありがとうございました。こんなに楽しかったのは生まれて始めて……でし…た。うぐっ」
「本当によくして頂いたようで……気持ちばかりですがお納めください」
おっちゃんは小袋を差し出してきた。
「いえ、それを受け取る前に俺達からお願いがありまして」
「何でしょうか?」
「ルーニャの身請けをしたいのですが」
「……そうですか。ですが、先日も話した通りこの子は高いですよ?」
「ええ、お金は問題ありません。スーニャちゃんと、カベス君も含め三人で金貨100枚でどうでしょうか?現金で用意する場合は時間を少々頂きますが、カードの振込みでいいのでしたらすぐに手続きさせてもらいます」
「そうですか、あの子達も身請けしてもらえるんですね……わかりました。では金貨100枚でこの商談受けさせてもらいます。まだ長旅になるのでカードでの振込みでお願い致します」
「ありがとうございます。最後にルーニャに確認してもいいですか?」
「ええ、勿論です」
「ルーニャ俺たちの家族にならないか?」
「えっ!?」
突然の事でおじさんの顔を不安そうに窺っている。
「ルーニャ、お前をこの人達が家族として迎えたいって言ってるんだ。あとはお前の気持ち次第だよ。どうする?」
「で、でもおじさん帰り道さびしくにゃい?」
「お前は優しい子だね。でもおじさんは待っててくれる家族がいるからさびしくないよ。ルーニャはどうしたいんだい?」
「……わたしね、昨日みんニャで一緒にいっぱいのごはん食べました。すごく美味しかったです。
ごはんを食べるとね、わたしだけこんなに幸せでいいのかニャって……胸がきゅーってニャってね、いっぱい涙がでました。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも一緒にいたおじちゃん達も、みんニャがわたしの頭を撫でてくれていっぱい食べニャさいっていってくれました。
おじさん、わたし幸せにニャっていいの?」
「ああ、幸せになれるってルーニャが感じてるのなら幸せになりなさい。そういうチャンスは自分で掴み取らなきゃダメなんだよ」
「わたしお兄ちゃんとお姉ちゃんの家族にニャりたいです」
「じゃあ、それをちゃんと伝えなさい」
「はい」
ルナが真剣な顔をして俺とクレアの前に立つ。
「お兄ちゃ……アキさん、クレアさん。わたしは読み書きができます。お皿洗いも、掃除もできます。料理はこれから勉強します。他にも役に立つこといっぱい覚えます!
だから……わたしを家族にしてもらえませんか?お願いします!」
「ルーニャ、君は僕達が何があっても絶対に守るし、幸せにするって約束するよ。だから僕達の家族になってくれる?」
「はいっ!」
ルーニャと出会ってから一番良い笑顔だった。
後ろからすすり泣く声が聞こえると思ったら男達が魔法の練習を止めて「ルーニャちゃんよかったなぁ」と号泣していた。こいつらなりにルーニャの事を気にかけてくれていたし安心したのだろう。
その後は商業ギルドへ行き、俺のギルドカードからおっちゃんのギルドカードへ金貨を100枚移し支払いを完了した。
そして、契約証明書を用意してもらい正式にルーニャが俺たちの家族になった。
おっちゃんは昨日のうちにギルドへ護衛の以来を出しており、護衛が見つかればこのままここを出るという事だったが、まだ見つかってないらしい。
すると……
「【回復】覚えた俺たちが護衛しますよ!俺らは馬も乗れるので条件も通ってますから。お金は貰いますけどね。ワハハ!」と三人が名乗り出た。
そうして、馬を借りて三人の護衛を連れたおっちゃんことガルスさんはこの街【ダンテリア】を後にした。




